番外編 君は本当にロキ坊?
「君は……本当にロキ坊?」
ある依頼の帰り道――
馬車の中でパンを頬張るロッキの顔を、
フランはまじまじと見つめながら言った。
「……なんです、急に?」
「……顔はロキ坊なんだけど」
「あの……落ち着いてご飯も食べられないんですけど」
フランは首を傾げながら答えた。
「正直に言って、君はロキ坊なの?」
「!」
単刀直入に聞かれたその質問に、背筋が凍る。
役小角は、いつかは本当のことを言うつもりでいた。
ただ、そのタイミングを掴めていない。
「……ははは」
笑ってごまかし、なんと言い逃れるかを考える。
すると――
「生まれ変わりの体験者って、別人みたいになるっていうから
仕方ないんじゃないかな?
確かに別人みたいだけど、ロッキくんっぽいところもあるから、
最近は気にならないけど……」
ミラの助け舟が入る。
「……にしても、わたしの知っているロキ坊とは別人に見えるんです」
ロッキの小さい頃から知っているフランの目は誤魔化せない。
そこにバーリが割り込んでくる。
「思春期なんだよ。
思春期知らねーの?
少年から大人に変わるんだよ。
誰かがいつも言ってるだろ」
「少年から大人になるって、ここまで変化があるの?
バーリは昔から、そのままだよ」
ミラが突っ込んだ。
「人それぞれだろ。
俺から見りゃ変わってねーよ。
確かに、信じられない力を持ってるし、
妙に礼儀正しくて、大人びてしまったけどな」
「……それのどこが変わってないって思うの、バーリ?」
「弱い時から正義感が強かっただろ。
みんなに優しいし、困ってる奴見かけたら助けてたし、
あと――」
「……あと?」
「ずっとフランのこと好きだし……」
「……確かに」
ミラとバーリのやりとりを聞いていたフランは、
装備している桃色の鎧より真っ赤な顔になった。
パンを食べている小角も、少々小っ恥ずかしいものがある。
「確かに……じゃないですよミラさん!
ロキ坊は生まれた時から知ってる子だから……」
「でも、昔からロッキくんは大きくなったら
フラン姉ちゃんと結婚するって、ずっと言ってたよね」
「小さな頃の話です!」
険しい顔をしたバーリが口を開く。
「三つ子の魂百までっていうし、
昔から村じゃ、ロッキとフランはセットだからな。
みんな結婚するって思ってるしな」
「なっ、なななぁー!」
最強の剣士は、色恋沙汰には疎いようだ。
フランの顔から湯気が出ているその時、
鬼門遁甲盤が凶兆を示し出した。
しかしミラの水晶玉には反応がない。
――ということは、モンスターの出現ではなく、
妖に類するものになる。
ロッキが静かに呟く。
「みなさん、戦闘の準備を……」
「えっ?」
驚くミラとバーリに対し、フランが呟く。
「敵の数が……多い?」
「フラン姉さん、わかるんですか?」
「うん……この子が教えてくれるの」
フランは手元にある小鴉丸に目をやった。
最近は繋がりが深くなったのか、
会話ができるようにまでなっている。
「でも、敵意はなさそうだって言ってる気がする」
「……すごいですね。
その通りです。敵意はありません。
ただ、馬車が進む道筋にそれらがいるんです」
馬車をしばらく進めると、
森に差し掛かる手前で停めた。
車夫を残し、4人で森に足を踏み入れることにした。
「お、おい……
こんな準備もなしで、何かいる森に入っていいのかよ?」
怯えるバーリにミラが返す。
「大丈夫だよ。
わたしにも感知ができない妖っていうモノがいるんだけど、
殺気くらいなら体感でわかるのよ。
……でも、今はそれを感じないのよ」
小角とフランが足早に先に進む。
鬱蒼と木々がそびえ立つ場所に目を向けて、
小角が声を出した。
「いるんだろう!」
「……」
その声に静寂が広がる。
「君たちに敵意がないなら、何もしない。
出てきてくれないか?」
再度、小角が声を出した次の瞬間――
木々の隙間から、
何体もの小動物のような妖が姿を見せた。
「なに? こいつら……」
フランがその数に眉をしかめ、
ミラとバーリが構えをとった。
無数のそれは、4人を警戒するように見下ろしている。
敵意は無いものの、その数に圧倒されたフランが問う。
「ロキ坊……これって?」
すると小角は笑顔を見せながら答えた。
「これは珍しい。キジムナーですよ」
「……キジムナー?」
「木や植物に宿る妖です。
悪さはしません。その地域の緑を守る精霊のようなものです」
この世界にいるはずのいない妖がここにいる。
原因があるとすれば――
「それじゃ、彼らもカルタが新生命体を作るために、
手当たり次第召喚された妖の1つってこと?」
「……そうです。
召喚したのに、大した力がなかったので捨てられたのでしょう。
キジムナーは何もわからぬまま、住処を探してここへたどり着いた……」
「彼らも、カルタの被害者なんだね……」
「……そうなりますね」
小角は小さく頷くと、
キジムナーに向かって言った。
「我々は何もしない。
だからここを通らせて欲しいんだ」
「……」
フランにはわからない会話を、
小角とキジムナーが交わしているように見えた。
「……そうか、なるほどね」
「どうかしたの、ロキ坊?」
「彼らは小鴉丸の鬼気が怖すぎて、
警戒しているだけで、なにもしないと言っています」
「えっ! ごめん!
わたしのせいだったの!」
フランは慌てて小鴉丸を背中に回し、
隠すようにした。
その姿を見たキジムナーたちは安心したのか、
木の上で踊り始めた。
「刀を隠したことで、敵ではないと認識されたようです」
小角は笑顔をフランに見せた。
そして馬車は、その森を無事通過することができた。
その際、小角は一体のキジムナーと接触し、
何かを手渡したのをフランは見ていた。
――――――
「いやぁー、一時はどうなるかと思ったが、
物分かりのいいモンスターでよかったぜ」
バーリが安堵のため息をつく。
「彼らは住処にいたずらをしない限り何もしないよ。
ときには人間の子供と遊んだりもしてくれる優しい連中だしね」
「子供と遊ぶモンスターっ?
信じられねぇ……そんなのがいるなんてよ」
ミラがキジムナーはモンスターではなく、
妖という存在なのだと、バーリに説明し始めたタイミングで――
フランがそっと、小角に質問を投げた。
「ロキ坊、キジムナーに最後、何か渡していなかった?」
「!」
「あれって、なに?」
「……目ざといなぁ……見ていたんですね」
小角はフランの質問に答えた。
「魔除けの勾玉です。
僕の気を混ぜ込んでいるので、
多少の妖やモンスターなら退かせる力があります。
見知らぬ土地に呼ばれて、捨てられた……
これからも大変でしょうし、僕からの少しばかりの餞別のつもりで
渡しました」
「……そうなんだ」
「はい」
「……優しいじゃん」
「そうですか?」
「……」
するとロッキの顔を、再びフランはまじまじと見つめ始めた。
「……こっ、今度はなんです?」
視線が気になった小角は、
思わず声をあげた。
「……ふふ、そうだよね。
やっぱりそうだ、君はわたしの知ってるロキ坊だよね」
「……?」
「とにかく優しい人……
それがロキ坊だもの」
フランはそう言うと、それ以降この話をしなくなった。
小窓から差し込む風に、髪をなびかせながら目を閉じている。
小角はフランの横顔を眺めた。
本当のことを言えない罪悪感は、これからも消えないだろう。
それでも小角は、みんなを守るために戦っていく。
本編完結後の小話です。よろしければ本編もぜひご覧ください。
二部公開中。
【第二部】処刑された最強呪術師、魔法世界で異端となる 〜鬼使いと閃光の剣士〜




