92話 本物の英雄
青龍――
その名を耳にした小角は恐怖を覚えた。
「青龍……ってあの?」
日本で四神と呼ばれる獣神の一柱――青龍。
力を使い果たした後鬼がなんとか身体を起こした。
「カルタが青龍の力を取り込んでいるのなら……
今わたしが戦っていた妖鳥は、おそらく朱雀」
「……まさか」
「そして前鬼が戦っていた蛇妖は玄武になります」
小角は前鬼と後鬼へ指示を出す。
「2人とも顕現を解いて戻れ! これは命令だ!」
「……申し訳ございません小角様。
もはや……その力すら残っておりません」
瀕死の前鬼と後鬼の前に、1体の影が姿を見せた。
白い獣。
四神獣の1柱。
――白虎。
その気配だけで――
空気が、張り付くように凍りついた。
前鬼と後鬼のもとへ向かおうとする小角。
その姿を見て、カルタは微笑んだ。
『局地結界』
カルタは小角と2人だけの空間を展開した。
この結界を破壊しないと、小角は後鬼たちのもとへ向かえない。
解印には時間がかかる――間に合わない。
「間に合わないよロッキ……。
君の駒はこれでおしまいだ」
「逃げろ! 今すぐ離れるんだ!」
その叫びが虚しく響く。
白虎が剣のように伸びた3本の爪を大きく振り上げた。
「あの鬼女は危険だ……先に始末する」
白虎が後鬼に目をやる。
――ガシッ!
その時、前鬼は立ち上がり白虎の腕を掴んだ。
足は震え、骨は軋んでいた。
それでも――前鬼は立った。
前鬼も、立ち上がることが奇跡に近いほどの
ダメージを負っている。
「前鬼……もうよい。無理をせずに参りましょう」
「姫は……この命に代えても守る……」
「……」
小角はカルタを睨んだ。
「やめて下さい……彼らはもう戦えない」
「勝手なこと言うね……
わたしの朱雀と玄武を始末しておいて……」
「……」
「切り札を出す時はね、
もうひとつくらい切り札を持っておかないと……」
「僕は……あなたを……呪ってしまいそうだ」
「冷静な君の素がようやくでたよ……
でもね、こうなったのは君の責任だ……
どうしてすぐに四神獣だと気付かなかったのか?
どうして――神獣が2匹だけだと思ったの?」
「……くっ!」
「呪うなら、己の判断ミスを呪うべきだね」
――――――
白虎の蹴りを食らい、前鬼は地に伏せた。
必死に立ち上がろうとする前鬼。
しかし無情にも白虎は後鬼へ眼を戻す。
後鬼の前に白虎が立ちはだかる。
白虎の威圧感だけで、後鬼の意識が遠のくほどだった。
最後を悟った後鬼は、前鬼に目をやった。
「前鬼……今までありがとうございました。
……あなたは素敵な殿方でしたよ」
前鬼は過去の後鬼――紅葉姫との日々を思い出す――
「う……うおぉ! 姫様……っ」
白虎が爪を大きく振りかざした。
後鬼はゆっくりと目を閉じる。
その時を迎えた――
首を切り落とされるのか、胸をひと突きにされるのか、
彼女はただ黙ってその瞬間を待った。
剣のような3本の爪が振り下ろされる。
首を刎ね落とされるのがわかった。
彼女は黙して己の死を受け入れた……
――時の流れが止んだ。
その時――
風が、裂けた。
――斬!
――白虎の爪が、宙を舞った。
その背に、風が流れる。
そして、まるで後鬼を守るように白虎との間に
立ちはだかる者の姿があった。
後鬼の目の前に現れたその者は、
桃色の鎧を纏い、絶対に折れない刀を携える――
17歳にして――Sランク最強の剣士。
――フラン。
その瞬間、戦場の空気が変わった。
彼女は振り向き、膝をつく後鬼へ声を掛けた。
「どうして……こっちも2人だけだと思ったのかしらね?」
今――閃光が駆けつけた。
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