91話 本当の鬼
本作の第二部がスタートしています。
前鬼、後鬼の過去編から始まります。
そちらもぜひ読んでください。
よろしくお願いします。
その姿は強――
その顔は凶――
その性は狂――
――それは、もはや“妖”ではない。
人はそれを――鬼と呼んだ。
「ウアアァァーン!」
2匹の鬼は、言葉にもならぬ咆哮――
大地が揺らすほどの声を上げた。
カルタは一歩前に出て凝視する。
「……あれは……鬼?」
独り言のような彼女の呟きに、
小角は答える。
「はい……彼らは本当の鬼です」
「そんなものを……飼っていたの?」
数多いる妖を、総じて鬼と呼ぶ者がいる。
また、妖に落ちた人間を鬼と呼ぶ者もいる。
――純血の鬼。
それは神と同様、人が目にすることのない存在。
地上にいるべきではない者。
一本角を持った黒いそれは、知性を失った目で蛇妖を見た。
牙と牙の間から大量のヨダレが流れ落ちる。
――跳躍。
爪を立て、蛇妖へ振り下ろす。
すかさず亀の甲羅に身を隠す。
バキバキッ!
先ほどまでビクともしなかった甲羅が、
一撃で粉砕した。
「ギィヤアァアァァー!」
叫ぶ蛇妖の頭を足で踏みつけ、砕けた甲羅をさらに砕く。
流れ出る血。
砕けた甲羅の内側に手を突っ込み、
蠢く内臓を、そのまま喰らい始めた。
抵抗する力を無くしたのか、
蛇妖は次第に暴れることなく静かに食われ始めた。
二本角の白いそれは、空に舞う妖鳥へ飛びかかり、四肢で抱きしめた。
宙にいる利点を完全に奪い去ったのだ。
炎の妖鳥は、抱き付くだけで全身を焦がすはず……。
しかし――
そんなことを気にすることも無く、
ケタケタッ!
と、ヨダレを垂れ流しながら気味の悪い笑みを浮かべた。
――バクンッ。
一瞬だった。
妖鳥が――頭から消えた
「!」
カルタは、その光景を目を見開いたまま――
しばらく動くことができなかった。
降下してくる鳥と鬼。
着地するなり、白き鬼は弾き千切るように、火の鳥を喰らい始めた。
不死の象徴と言われた火の鳥の、あっけない最後だった。
それはすべて――
一瞬の出来事だった。
先ほどまでの劣勢が嘘だったような光景。
2匹のそれは、食事を終えると、今度はカルタへ目を向けた。
次の獲物は、カルタに決めたようだ。
一本角のそれが、蛇妖の頭を踏み潰して飛び跳ねた。
二本角のそれは、地を這う様に四足歩行で迫り来る。
「もういい! 力を解くんだ前鬼、後鬼!」
小角の制止を聞かない。
誰の声も届かない――理性なき化け物。
鬼――
その力に身体が耐えきれず、滅びたと伝えられる妖。
この姿での顕現は、確実に2体の寿命を削っている。
「面白い……わたし狙いか。
返り討ちにして見せようじゃないか!」
カルタの動きに反応し、
小角は一言主神の力を発動させた。
《鬼気を封じる!》
――ドクンッ!
2体の鬼の身体から、大きな鼓動が鳴った――
すると、2体の動きが完全に止まる。
「……」
そして、ボロボロと鬼の皮膚が剥がれるように落ちていくのが見えた。
剥がれ落ちたその下から――
人の形が覗いた。
前鬼と後鬼――
「……小角様……余計なことをなさる」
「まったく……よく言うよ」
前鬼と後鬼は、その場で膝を折った。
元の姿に戻ったことで――
最悪の結果を免れることができた。
ふたりは急激な妖力の消費に身体が付いていけず、その場から動けないでいる。
「形勢逆転だね……こっちの仲間の方が強かったようだ」
「……」
「……僕は貴女のすることを止めるつもりです」
「わたしがわたしの国を創る……。
なぜにそれを止めようとするのか?
……君には関係のないことだろうに」
カルタの質問に小角が答えた。
「関係はないけれど――
あなたのせいで苦しむ人が目の前にいる……
それなら助けねばならない――理由などそんなものです」
カルタは小角へ身体を向けた。
落ち着いた所作で指を唇に当てる。
「どうやって止める?」
「説得がダメなら、力づくになりますね」
「ふふっ、できるだろうか? 君に……」
カルタが閉じていた眼をゆっくりと開く。
透き通った青い眼が覗いた。
青白いオーラに包まれたカルタは、片手を小角に向けてかざした。
「!」
3本のオーラの爪が小角を襲う。
本能でわかる。
これは正面から受けてはいけない攻撃――
《あまたの攻撃を禁じる》
咄嗟に一言主神の力を発動。
――バチッ!
しかし、
かき消すことができないまま襲いくる。
間一髪、身体を逸らすことで、
その正体不明の攻撃を躱した。
今は、あらゆる術の発動を禁じている――
その上で攻撃を向けられた。
直前には攻撃すら禁じた――
それでも――かき消すことができなかった。
今のは一体?
それを見ていた、後鬼が呟いた。
「……青龍?」
青龍――
その名を耳にした小角は声をつまらせた。
「青龍……ってまさか」
小角たちはその名に畏怖した。
それは日本の四神獣の1つを指す名だったからだ。




