86話 切り札の応酬
ベルゼとエースの一騎打ち。
奮闘するベルゼだったが、エースはタイタンの力から
ヒュドラの力へと切り替えた。
毒の散布――。
瞬く間に、ベルゼの身体が変色していく。
補助アイテムである防毒の石を持っているため、
全身への侵食は抑えられている。
だが、自由を奪うには十分だった。
次第に、力の差がはっきりと表れ始める。
ベルゼは、防戦一方に追い込まれていった。
視界が霞む。
「ベルゼがまずい……解毒の術を施さないと……」
焦りながら回復術を続けていたフィートの手を、突然サラが掴んだ。
「もう十分よ。仲間のところへ行くんでしょ?」
サラはそう言って、身体を起こす。
「まだ、完治していないよ」
「いいって!」
「なら、ベルゼの毒を……」
今度は、フィートの肩を掴んだ。
「毒はわたしがなんとかする。心配いらない」
サラがベルゼに向かって手をかざす。
水の膜が、彼の身体を包み込んだ。
「!」
「阿婆擦れめ……もう回復したのか?」
水の膜に包まれたベルゼの傷が癒えていく。
同時に、体内から分離された毒が、口から吐き出された。
「君……すごいね」
「あんたほどじゃないけど、補助系の呪術は多少心得てる」
サラは続ける。
「行きなよ。あいつは、わたしが面倒見るから……」
フィートは、ベルゼに目を向けた。
ベルゼは、回復にも解毒にも気づかないほど、
必死に剣を振っていた。
「ベルゼを……助けてやって」
その言葉を聞き終わるかどうかの瞬間――
サラは戦場へと飛び出した。
無数の水の鎌が、エースへと放たれる。
その姿を見届け、フィートはアイナとミラの待つ場所へと走り出した。
――――――
ペアルトの放った呪術と、冒険者たちの術がぶつかり、
爆炎が生まれる。
その隙を突き、ペアルトの魔槍が一人の胸を貫いた。
「はぁ……はぁ……くそっ」
100人近い冒険者が、ペアルトに襲いかかる。
ペアルトは槍術と呪術を駆使し、必死に応戦していた。
数人の冒険者の身体が脈打つ。
次の瞬間、彼らは異形の姿へと変貌を始めた。
新生命体――
人、妖、モンスターを混ぜ合わせた異形の兵。
それらが、一斉にペアルトへ牙を剥いた。
ペアルト、ジーラブール、エース。
彼らを中心に作り上げられた生物兵器が、次々とペアルトへ襲いかかる。
そして――
なぜかそれらを、カルタが自由に扱っていた。
「どうしてこいつが、新生命体を使ってんだよ……
俺らだって、せいぜい10体程度しか作れなかったってのに……」
人の姿から異形へと変わり、人間では扱えない能力を次々と行使する。
ペアルトは激しく息を切らしながら、戦い続けた。
カルタは腕を組み、その光景を木の上から眺めている。
「……高みの見物とは、いいご身分だな」
100人……いや、降霊術で生み出した100体の冒険者を操りながら、
カルタは軽くあくびを見せた。
「舐めやがって……クソッ!
連発するような術じゃないってのに……」
そう呟くと、ペアルトは両目を赤く光らせた。
【魔眼、発動!】
群れに視点を合わせ、瞬きをする――
――ザンッ!
新生命体を含む20人ほどが、一瞬で消し飛んだ。
ペアルトは膝をつく。
魔眼。
切り札中の切り札。
呪力の消費を考えれば、1日に何度も使える術ではない。
木の上から、カルタが印を切る。
次の瞬間、降霊術によって新たな死者が土中から姿を見せる。
――人間の死体なら、なんでもいい。
呪術で亡くなった冒険者の魂を宿すだけ。
「ペアルト……ヤケになってはいけないよ。
新生命体のストックは30体、それにわたしが生み出す冒険者の骸の数は
――無限なのだから……」
新たに降霊術で生み出された冒険者が加わり、
再び100人を超える群れが、ペアルトへと襲いかかった。
――――――
ギルド協会本部に待機する馬車の中。
ミラは懸命に、アイナへ回復術を施していた。
傷は深く、進行を抑えるだけで精一杯だ。
長時間の広範囲感知術と回復術で、魔力の消費は限界に近い。
手を止めれば、アイナは死ぬ。
意識が遠のくたび、必死に踏みとどまる。
その時――
「ミラ! 遅くなってごめん!」
「フィートさん!」
フィートが、間に合った。
安堵から、その場に崩れそうになるミラ。
「倒れちゃダメだよ。
今から僕がメインでやる。補助を頼む」
「……はい!」
ベルゼとサラのおかげで、フィートは間に合った。
これで、アイナの命は助かる。
――――――
ベルゼより前に出て、サラがエースへ飛び込む。
「エースッ!」
「気安く俺の名を呼ぶな!」
サラの参戦に、ベルゼは冷静さを取り戻す。
サラは殺気をみなぎらせ、エースへと迫った。
「死ぬのが怖くて――
お前のご機嫌取りしてた自分に腹が立つ!」
「呪縛が解けた途端に仕返しか! 情けない女め!」
「自由を知っていれば!
あの紅茶の味を知っていれば!
あの焼き菓子の味を知っていれば!」
「何を言ってるんだ、お前!」
「あんたには殺意しかないわ!」
四方の水溜りから、高速回転する水鉄砲が放たれる。
エースは再びタイタンの力へ切り替え、身体を硬質化して防ぎ切った。
「どけぇ!」
ベルゼは大剣に魔力を流し込み、上段に構える。
かつて、小角に向けた必殺の一撃――。
剣を振り下ろすと、魔力の刃が大地を切り裂きながらエースへと直撃した。
――ザザンッ!
激しい爆発と共に、砂埃が舞い上がる。
同時に、フィートの強化魔法が切れた。
全力を使い果たしたベルゼは、
剣を地面に突き立て、ふらつく身体を支える。
サラは警戒を解かず、砂埃の向こうを睨み続けた。
「……ぶっ倒れてて……くれ……!」
ベルゼの、心の叫び。
立ちこめる埃の中に、人影は見えない。
――次の瞬間。
ドガッ!
死角から現れたタイタンの拳が、ベルゼの頭部を直撃した。
吹き飛ばされたベルゼは、地面に叩きつけられる。
起き上がれない。
――次の瞬間
嫌な予感が走る。
首が――
嫌な曲がり方をしていた。
驚くサラの前に、エースが立ちはだかった。
「命乞いするなら、考えてやってもいいぞ……サラ」
その顔には、すでに勝利を確信した余裕が浮かんでいた。




