85話 手のひらの上
大剣が身体から引き抜かれた瞬間、エースの身体から血が噴き出した。
「貴様ぁー!」
「不意打ちを卑怯とか言うなよ! これで終わりにしてやんぜ!」
ベルゼはそのまま、頭部めがけて剣を振り下ろす。
――ガキン!
首を瞬時に硬質化したエースには、刃が通らない。
返すように正面から拳が迫る。
ベルゼは歯を食いしばり、大剣で受け切った。
「来てくれると思っていたよ、ベルゼ!」
「なんでアイナじゃなくて、その女を助けてんだよ!」
「……変な成り行きでね」
剣を構え直すベルゼの背後で、フィートが魔法を唱える。
ベルゼの鼓動が高まり、筋肉が脈打つように隆起していく。
言葉はいらない――
何度も組んできた、2人の連携。
「3分、粘ってくれ!」
「わかった! 早くアイナのところへ行ってくれよ!」
フィートの全能力強化魔法。
持続時間は5分――2人の切り札だ。
つまり――
最初から切り札を使わざるを得ない相手だと、判断していた。
タイタンの拳と、大剣が激しく打ち合う。
「オラオラオラオラ!」
「雑魚が! 鬱陶しい!」
その隙に、フィートはサラの回復へと集中する。
サラは、目の前の2人を見て思わず呟いた。
「あんたら……一体、何なのよ……」
フィートは照れた様子もなく答えた。
「親友だよ。――ただの、大親友」
――――――
ペアルトは、ギルド協会本部を離脱していた。
本来の目的は、本部の解体。
新勢力を世に示すための、重要な1日だった。
油断していたわけではない。
生まれ変わりの体験者、新生命体――
それらを中心に、新たな世界秩序を築くはずだった。
――だが現実は違った。
ギルド側の激しい抵抗。
ジーラブールの死。
新生命体の破壊。
そして、サラの裏切り。
「……くそっ」
想定外が、多すぎた。
「今後の流れを……聞きに戻るべきか……
ギルドのトップは始末できた。それだけでも報告しておくか……」
――その瞬間。
「……?」
ペアルトは、走る足を止めた。
「……俺は、今……何を言っていた?」
自分の言葉を、反芻する。
「……誰に聞いて、誰が報告するんだ?」
背後から――影が伸びた。
「何者だ!」
反射的に魔槍を構える。
ペアルトはSランク冒険者。
魔眼と魔槍を操る天才。
つい先ほど、カルタを討ち取ったばかりの男だ。
――その彼が、
目の前の者を見て震えていた。
「……なんでだ……あり得ないだろう」
目の前に立っていたのは、
殺したはずの――カルタ。
「殺した……よな……?」
「少しは、思い出してきたかい……」
聞き覚えのある声が、
ペアルトの中で、恐怖として膨れ上がっていく。
――――――
カルタの気配が消えた、協会本部中庭。
後鬼の《疾風の瞬き》により、
役小角は一瞬で西地区から駆けつけていた。
焼け野原になった本部。
そして――上半身のない死体。
「……カルタさん」
近づいた小角に、前鬼が低く告げる。
「――これは、カルタではない」
「?」
「どこぞの人間の身体だ……」
「……入れ替わり?」
「降霊術で操っていた死体かもしれませんね」
後鬼が、愉しげに笑った。
「カルタさんは……一体、何のために……?」
「彼女は自らを卑弥呼だと名乗っていたのですよね……?
前世で彼女がしていたことといえば……」
「自分が王として君臨する国づくり……」
――沈黙が流れる。
「生まれ変わりでこちらの世界に来てからも、
その夢を目指しているとすれば……」
「彼女は生まれ変わりを業だと言った。
そうとわかっていて、同じことを繰り返すだろうか?」
「同じことを繰り返している者がわたしの目の前に、すでにおりますが……」
「……」
「サラが言っておりましたね……
生まれ変わりの体験者の集団は、ギルド協会と替わるために動いていると」
小角はカルタと出会ってからの出来事を思い返した。
「ギルド協会本部と取って代わるということは、
この世で1番強力な武力集団になるってことだね」
「つまりこの世を収めたことになりますねぇ……」
「それに新生命体と……降霊術があれば……」
「無限の兵隊の出来上がりです」
その時――
小角達のやりとりを裂くように、
南の方角から激しい爆発音が聞こえた。
逆巻く炎が茜空を焦がしていた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
85話は、ひとつの大きな転換点となる回でした。
本作は95話完結です。
残り10話――ここから物語は一気に核心へと踏み込んでいきます。
そして――
この物語は、まだ終わりません。
現在、第2部を制作中です。
本編完結後、【1週間後】より投稿開始予定となります。
ここまで読んでくださった方には、
ぜひ“その先の物語”まで見届けていただけたら嬉しいです。
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最後まで、そしてその先へ。
引き続きよろしくお願いします。




