81話 戦場は本部へ
首を失った身体は、しばらく走ってから崩れるように倒れた。
ジーラブールは、その様子を黙って眺めていた。
フランは刀を鞘に戻し、口笛を吹いて待機させていた早馬を呼ぶ。
「……負けたのか」
「はい。あなたは負けました」
「カルタにも……お前にも勝てなかった……」
フランは静かに馬に跨る。
ジーラブールの顔は、砂の山が崩れるように静かに朽ちていく。
「……かの英雄は、どこで何を間違えたのか?」
「……難しいことはわかりません。ただ……」
フランは一度だけ視線を落とし、続けた。
「あなたは、強さの求め方を間違えたのではないでしょうか」
「……!」
「誰かに負けても……
きっと英雄は、英雄でいられたのに」
「……そうか。
最初から……
すべてを間違えていたか……」
その言葉を最期に、彼は崩れていった。
ジーラブールは、顔も身体も完全に消えていった。
フランはそれを見届けると、早馬の手綱を引き、
ギルド協会本部へと馬を走らせた。
――――――
――西地区・検問所。
妖の土蜘蛛と白狼天狗、
モンスターの魔蜘蛛アラクネと巨獣犬ガルムが姿を現していた。
対するのは、前鬼と後鬼。
「小角様。急いだ方が良さそうですね。
協会本部が、好ましくない状況になっています」
「鬼門遁甲盤が揺れているからね……嫌な予感がする」
「戦力を見事に分散させられました。敵は頭が切れます」
「……急いでくれるかい」
前鬼が突進し、土蜘蛛の腹へ拳を叩き込む。
しかし、その巨体からは想像できない速さでかわされた。
背後からアラクネが糸を放ち、前鬼の四肢を拘束する。
同時に土蜘蛛が地面を砂地獄へ変え、沈めにかかった。
さらに、土蜘蛛の腹部から無数の子蜘蛛が生み出される。
1匹1匹が成人ほどの大きさにまで膨れ上がっていた。
身動きの取れない前鬼へ一斉に襲いかかった。
――パパパパパパパンッ!
アラクネの糸を引きちぎり、前鬼が連撃を放つ。
炸裂音とともに、子蜘蛛は次々と爆ぜて血が飛び散った。
絡みついた糸を強引に引き寄せ、
力負けして飛び込んできたアラクネの顔を殴り潰す。
前鬼は砂地獄から、何事もなかったかのように歩み出た。
前鬼が見上げると、周囲一帯は土蜘蛛の糸で覆われていた。
――糸結界。
対象を囲い込み、弱体化させる結界だ。
しかし前鬼には関係ない。
糸をすべて引きちぎり、土蜘蛛の目前へと到達していた。
複眼でも捉えきれない猛進。
拳が顔面にめり込み――
次の瞬間、土蜘蛛の全身が爆発するように飛び散った。
仁王立ちする前鬼の拳には、
土蜘蛛の破片がぶら下がっていた。
その様子を見て、後鬼が白狼天狗に声をかける。
「この中で言葉が通じるのは、あなただけでしょう。
よろしければ、なぜこのような状況になったのか教えていただけますか」
「言えば死ぬ呪いが掛けられている。何も言えん」
「それはお気の毒です。
話しても殺され、話さなくても殺されるなんて」
「所詮……お前らとて同じ飼い犬だろう。
戦って死ねれば本望だ――」
白狼天狗が錫杖を掲げる。
風が荒れ狂い、周囲の木々が激しく揺れた。
「お主の五体を切り刻んで見せよう」
「へぇ、どうやって?」
『風狂いの術』
凝縮された風が、透き通った帯となる。
鋭利な刃となった風が、すべてを切り裂こうと迫った。
後鬼は慌てることもなく、
その風の帯を愛でるように撫でた。
「天狗と名乗る者は、どうしてか風の術を好みますね」
「……」
「ですが……扱いが一辺倒でいけません」
後鬼は掌を向け、術を放った。
『空圧の衝』
ズンッ――。
圧縮された空気圧が白狼天狗を押し潰す。
地面に叩きつけられ、身動きが取れない。
そこへ、ガルムが後鬼へ突進した。
『岩床の筵』
地面から4本の岩が突き出し、
ガルムの身体を串刺しにして動きを封じる。
断末魔の叫びを上げるガルムを横目に、
後鬼は白狼天狗へ静かに声をかけた。
「戦って死ねれば本望……そう仰いましたね」
「……ぐぬっ」
「これを……戦いだと思いますか?」
後鬼は、慈しむようにその頬へ触れた。
――ブチュッ。
顔を身体へ押し込む――
白狼天狗の首は折れ、頭が身体へめり込んでいく。
背骨、腰、脚が次々と砕かれ折れ、
畳まれるように地面へ崩れ落ちた。
『業火の縛』
肉の塊になった白狼天狗と、
岩に貫かれたままのガルムを、炎が包み込み焼き尽くした。
新生命体は、まるで相手にならなかった。
「情報を引き出そうとしましたが……
妖にまで口止めの呪いを施していました。
相手は相当な臆病者ですね」
自分たちの情報を一切漏らさせない仕組み。
敵は狡猾で、残忍だ。
「本部まで飛びますよ。――フランもすでに動いています」
「頼むよ」
ギルド協会本部に、
本当の凶兆が待ち受けている。
ロッキは、
それを確かめに戻るしかなかった。
後鬼の言った通り――
戻った先は――想像を遥かに超えていた。




