80話 英雄 対 閃光
ジーラブールは、ベルゼに勝るとも劣らぬ、
巨大で分厚い剣を背中から引き抜く。
空気が変わる――
それは武器というより、分厚い鉄の板のようだった。
フランは、イルジョン島で対峙した漆黒の鎧騎士を思い出していた。
鎧の色も、醸し出す雰囲気も、どこか似ている。
違いといえば、あの騎士が長剣を使っていたのに対し、
目の前の剣士が手にするそれは、剣とは呼びがたい代物だった。
――触れただけでも、身体ごと砕かれる。
ジーラブールが飛び込んできた。
重厚な鎧と鉄板のような大剣を装備しながら、その動きは俊敏だ。
だが、避けられない速さではない。
振り下ろされた大剣が大地をえぐり、深く食い込んだ。
引き抜いて向きを変えるには、わずかな時間が必要だった。
――その隙を、フランは逃さない。
閃光のように踏み込み、右腕を狙って高速の抜刀を放つ。
「はあぁっ!」
だが次の瞬間。
大剣は地面に刺さったことなど意にも介さぬ勢いで、土石を巻き上げながら振り上げられた。
フランの突進と同時に、信じ難い速度のカウンター斬撃。
掠っただけでも骨が砕け、身体ごと吹き飛ばされる一撃だ。
フランは、抜刀の軌道を瞬時に切り替えた。
腕ではなく、下方から迫る鉄板そのものを斬る。
――カンッ!
鈍い金属音が響き、フランの身体が宙を舞った。
空中で体勢を立て直し、着地――
その瞬間、再びジーラブールが迫る。
上段からの振り下ろし。
フランは刀を抜き、攻撃を地面へ逃がすように受け流した。
大剣の刃が再び地面に突き刺さる。
その刃の上に乗り、フランは一気に間合いを詰めた。
喉元への突き。
――勝負は、決まった。
……かに見えた――
「言っただろ。俺はもう人間じゃない。死ねないんだ」
「……モンスターにでもなった、ということでしょうか?」
「違う、自業自得ってやつだ。
黒魔術のせいで、死ねなくなったんだよ」
フランは刀を引き抜き、後方へ距離を取る。
喉に空いた穴は、すでに塞がれ始めていた。
「見事な剣技だ」
「どうも」
「だが……変わった武器だ。見たことがない」
「そんな大剣を使う人に言われても……って気もしますが、
これは剣ではなく刀と呼びます」
「……かたな?」
ジーラブールの身体が小刻みに震え始めた。
全身から黒い霧が溢れ、口角が引き裂かれるように広がる。
額から角が生え、全身が鉛色に染まる。
白目を剥き、カルタと戦った時と同じように、
悪魔の力を全身に纏った。
黒い疾風が、不規則な軌道で迫る。
フランも閃光となって応戦し、刃と刃の衝突だけが火花となって弾けた。
――ついて来ている。
ジーラブールの本気に、フランは難なく応じていた。
「……どうしてだ?」
「……」
「どうして俺と対等でいられる……」
ジーラブールは呟く。
力を求め、黒魔術を使い続けてきた。
カルタに勝つため、
子供たちの命を代償に悪魔と契約した。
この剣も――魔界の金属で造られた契約の産物。
それと互角に渡り合うフランが、理解できなかった。
未成熟な身体。
細い腰と手足。
それでも、攻撃を受け止め、斬り返してくる。
なにより、この、かたな。
薄い片刃の武器が、魔鉄の大剣と打ち合い、
欠けることすらない。
逆に――
その刃は、鉛のように硬化した身体を、確実に削り始めていた。
大剣にも、刃こぼれが走る。
「……何だ、その武器は」
「絶対に折れない刀。小鴉丸」
「……こがらすまる」
小鴉丸――
フランは、後鬼――紅葉の言葉を思い出していた。
小鴉丸は、絶対に折れない刀です。
相手側が有利になる防御結界、強化術などがあっても、
根こそぎ削って攻撃してくれます。
それと……多少の鬼気を付与してくれるでしょう……
あなたにぴったりな武器だと思いますよ。
その意味が、今になって理解できた。
「つまり……わたしに力を貸してくれてる――ってことよね?」
ジーラブールの身体に、亀裂が走る。
魔鉄の大剣は、無数の刃こぼれを刻んでいた。
――バキンッ!
大剣が、折れた。
フランは後方へ跳び、抜刀の構えを取る。
ひび割れた身体と折れた剣の回復よりも早い攻撃――
「小鴉丸――
力を貸してくれてありがとう」
すべてを捨て、強さを求め、カルタに勝つために魂を売った男。
その身体に走る亀裂と、
折れた剣が――
これまでのすべてを物語っていた。
「俺は……英雄なんだ……」
フランは、答えなかった。
「――終わりです」
――閃光の瞬き。
ジーラブールは、
自分の首が宙に舞っていることに気付かなかった。
前へ走り出した彼は、
進んでいく自分の背中を眺めていた。
そして頭が地面に落ちて、
ようやく理解したのだ。
――終わったのだと。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ジーラブール戦、決着です。
彼の選択と結末、そしてフランの一太刀――
しかし戦いは、まだ終わりではありません。
この先、フランにはもう一戦――
ここからが本番です。
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