68話 葬送のあと、世界は動く
本作の第二部がスタートしています。
前鬼、後鬼の過去編から始まります。
そちらもぜひ読んでください。
よろしくお願いします。
【第二部】処刑された最強呪術師、魔法世界で異端となる 〜鬼使いと閃光の剣士〜
柔らかな日差しが差し込む教会で、
カルタの希望により、静かな葬儀が執り行われた。
多くを語らず、身内とごく近しい者だけが集い、
ひとりひとりが花を手向けてシルドを見送る。
泣き声はない。
ただ、沈黙だけが重く残っていた。
イルジョン島に参加していたSランク冒険者の死。
この事実により、スウェルド邸に関連するすべての案件は、
今後Sランク扱いとなる。
だが――
その処理に関しては、カルタに一任されることになった。
彼女は敵討ちに近い行動になると明言し、単独で動くと宣言した。
仮に協力を申し出る者がいても、それは報酬の出ない同行に過ぎない。
ポンズは、その決定に異を唱えなかった。
カルタと、もうひとり――ジーラブール。
この2人は、Sランクの中でも別格とされている存在だからだ。
2年前のイルジョン島も、
彼女たちが動いていれば違った結果になったのではないか?
そんな噂が出るほどに。
だが、2人とも気まぐれで、己の領域から滅多に動かない。
ジーラブールに至っては、最近では姿を見た者すらいないという。
当然、シルドの葬儀にも現れなかった。
「……葬儀が終われば、
あとは奴らが来るのを待つだけだね」
カルタが、独り言のように呟いた。
ベルゼが一歩前に出る。
「パジャン村で暴れた奴がロレンスなら、
残っているのは……エースと、サラと呼ばれている魔法使いだ」
カルタは小さく頷いた。
「準備はしているよ」
それだけを言い残し、足早に宿舎へ戻っていった。
その背を、誰も止められなかった。
――――――
大都市シーアから少し離れた山中。
古びた山小屋のテラスで、正装姿の男女が軽食を取りながら並んでいた。
深緑の髪をした端正な男――エース。
青いショートカットの細身の女――サラ。
「ねぇ、聞いた?
あの冒険者、Sランクだったらしいね」
サラが、まるで他人事のように話す。
「……随分、あっさり殺したよね?」
「冒険者なんて、所詮そんなものだ」
エースは淡々と答えた。
「だが……カルタが動いた。
いよいよ、面白くなってきたな」
「息子を殺されたんだもの。復讐する気満々でしょ」
「だからいい。強い人間は被験体に向いているんだ」
エースの口調には、一切の躊躇がなかった。
「スウェルド邸に侵入した奴と、カルタ。どちらも、生け捕りにする価値がある」
「人形が壊されたの、そんなに悔しかったの?」
サラが、素っ気なく言う。
「俺たちが呪術と黒魔術を組み合わせて、
ようやく完成させた自信作だぞ。
簡単に壊されてムカつかない方が不自然だろ」
2人は食事を終えると荷物をまとめ、
シーアへ向かって歩き出した。
急ぐ様子はない。
まるで、散歩にでも出かけるかのようだ。
「明日、町を少し見て回ろう。
それから……ギルド協会本部を壊す」
「終わったら?」
「その時に考えればいい」
サラは肩をすくめた。
「ロレンスがいれば、もっと面白かったのに……」
「仕方ない。
秘密を守れない仲間は切るしかない」
エース、サラ、ロレンス――
3人は同時期に、生まれ変わりを体験したわけではない。
歪んだ思考を持つ者同士が、奇妙な巡り合わせで出会ってしまったのだ。
彼らの目的は、2つ。
人でも、妖でも、モンスターでもない生命体の創造。
そして――ギルド協会という秩序の破壊。
呪術と黒魔術による新生命体こそが、
この世界における“正解”だと信じていた。
――――――
翌朝。
大都市シーアの検問所で、検問官2名の遺体が発見された。
街は、一気に騒然となる。
ギルド協会にも情報が入り、
「シルドを殺した連中が侵入したのではないか」
そんな噂が一気に駆け巡った。
だが、感知魔法では何も捉えられない。
「……本当に、侵入したのかしら」
ミラの問いに、背後から声がした。
「ええ。確かに……2名。
屋敷で記憶した匂いと一致します……来ましたね」
後鬼が姿を現す。
水晶に指を添えると、2つの反応が浮かび上がった。
「これが、対象者の動きです。映るようにしました」
「ありがとう、後鬼さん……」
その場にいたカルタが、静かに立ち上がった。
一瞬だけ、空気が張り詰める。
「馬を用意して」
使用人が慌てて走る。
――だが、その直後。
「……消えた」
ミラの声が震えた。
「一瞬で、冒険者の3名の魔力が……」
沈黙が落ちるなか――
カルタは何も言わず、宿舎を飛び出していった。
「カルタさん! 僕も行きます!」
小角も、迷いなく後を追う。
ミラが声を上げた。
「ロッキくん!
冒険者が4人、侵入者へ接触しようとしてる!」
「……犠牲者が増える」
ポンズの指示を待つことなく、
カルタと小角は走り出していた。
そして――
彼らはついに、シルドを殺した2人の呪術者と相対することになる。




