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【第一部完結】処刑された最強呪術師、魔法世界で異端となる 〜鬼使いと閃光の剣士〜(第二部連載中)   作者: 鬼喜怪快
4章 混沌の新生命体編

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66話 残留思念と黒魔術




 役小角は目を閉じ、シルドの衣服にそっと触れた。


 布に残る、かすかな温度。

 それが彼のものだったと知っているからこそ、触れる手に迷いはない。



 ――この屋敷で、何があったのか。

 ――彼に、何が起こったのか。



 小角が意識を沈めると、衣服に染みついた残留思念が流れ込んでくる。


 重い。

 息苦しいほどの恐怖。

 そして――明確な悪意。


 背後で、アイナが小角を見つめていた。

 声をかけることもできず、ただ唇を噛み締めている。



 「……ロッキくんは、何を?」


 震える声で、アイナが問いかける。


 「ここで起きたことを……聞いている」


 前鬼が短く答えた。


 「もうすぐ、終わる」


 沈黙が続いた。


 やがて、小角がゆっくりと目を開く。


 「……終わったよ」


 その声は、ひどく静かだった。


 「ここに2人の術師がいた。

 奴らはサイクロプスを使って、シルドさんを殺した」


 アイナの肩が、ぴくりと跳ねる。


 「そのあと……死体にサイクロプスを憑依させ、

 召喚した飛頭蛮と繋げたようだ」


 淡々と語られる言葉のひとつひとつが、

 刃のように胸へ突き刺さる。



 「顔が……先輩だった理由は?」


 

 アイナが、搾り出すように問う。


 残留思念から感じた、呪術師の会話と嗤い声――

 小角は一瞬だけ言葉を探し、そして答えた。



 「……戯れ」



 その瞬間。

 アイナの指が、ぎゅっと握り締められた。



 「……戯れ?」



 声が、かすれる。



 「人の命を……

 人の人生を……なんだと思って……」



 怒鳴ることも、泣くこともせず。

 ただ、呼吸だけが荒くなる。


 前鬼が低く唸る。



 「人間に妖とモンスターを混ぜる……

 正気の沙汰ではない」


 「……間違いなく――黒魔術を使用しています」


 アイナが声を搾り出す。


 「命と血肉を生贄にする禁術。

 ……条件は、先輩で揃っています」



 沈黙が落ちた。


 アイナは、俯いたまま動かなかった。


 とにかく、身体は取り戻した。

 だが、真相は闇のまま――

 


 それでも……

 カルタに、五体揃ったシルドを会わせてあげられる。


 それが、唯一の救いだった。



 ――――――

 


 屋敷の外に出ると、ベルゼたちが駆け寄ってきた。



 「……どうだった」


 ベルゼの声は、覚悟を含んでいる。


 「身体は、取り戻せたよ」


 その一言に、誰もが息を吐いた。

 だが、小角は続ける。



 「……敵は、ただ者じゃない」



 中で起きたことを、簡潔に伝えた。

 信じがたい内容に、誰もが言葉を失った。


 ただ1人――

 後鬼だけが、愉しげに目を細める。


 「黒魔術に、モンスターと妖の融合体……ふふ、実に興味深い術師ですね」


 「僕はもう一度戻って、地下部屋と1階の部屋の調査を――」


 小角の言葉を、ベルゼが遮った。


 「ロッキ、もういい」


 強い口調だった。


 「目的は果たした。これ以上は、命令違反が過ぎる」


 小角は、黙って頷いた。


 その時――

 後鬼が一歩前に出る。



 「では、わたしと前鬼で調べて参りましょう」


 「……いいのかい?」


 「我々が動く分には、規則に触れませんでしょう?」



 しばしの沈黙のあと、小角は答えた。



 「……頼んだよ」


 

 ――――――

 


 ――ギルド協会本部。


 ポンズは、小角たちを厳しく叱責した。

 最高責任者として、怒りは当然のことだ。


 だが、最後に小さく呟いた。



 「……感謝する」



 それが、彼の本心だった。



 ――――――

 


 夜。


 宿舎で横になりながら、小角は身体を休めていた。


 連日の激戦――

 呪術、一言主神の発動、前鬼、後鬼の顕現。

 どれも厳しい呪力の消費があってのものだ。


 やがて、前鬼と後鬼が戻る。


 

 「何も、残っていなかった」


 前鬼が言う。


 「だが……匂いはありました」


 後鬼が微笑んだ。


 「次に会えば、匂いで敵が分かります」


 小角は、静かに息を吐いた。


 「……向こうから来るね」


 「ええ。

 呪術師とはそういう生き物です」



 術を破られ、

 創った作品を壊された――黙っているはずがない。



 小角は確信していた。


 黒魔術により造られた新生命体は、

 相手の力の一端に過ぎず、

 これからさらに黒く――深い――


 未知と遭遇することに。





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