2話 今度は守ってみせる
目を覚ました少年——役小角は、男女を見つめた。
身体は動く。
傷も、痛みもない。
「ロッキ……本当に大丈夫なの?」
涙で赤くなった目の女が、恐る恐る声をかけてくる。
隣には、無精ひげの男。
どちらも、心配そうにこちらを見ていた。
——この者たち、私を知っている。
「……ええ。問題ありません」
そう答えると、2人は顔を見合わせ、次の瞬間、同時に息を吐いた。
「よかった……本当によかった……」
「もう、無理するんじゃないぞ、ロッキ」
男はそう言って、ロッキの肩に手を置く。
その感触は、驚くほど温かかった。
――父親だろうか?
確証はない。
だが、この距離感、この必死さ。
小角はこの2人を、この少年の家族だと判断した。
――――――
部屋は狭く、古い。
壁の隙間から風が入り、床はきしんでいる。
裕福とは、到底言えない暮らしだった。
「ギルドの連中が出ている時にモンスターの襲撃に遭うなんてよ……」
「Bランクのみんなは、他所の依頼に出てるって……」
ギルド。
モンスター。
聞き慣れない単語が、自然と会話に混じる。
――どこだここは、日本ではない?
そう小角は確信した。
そして同時に、この世界では呪力や妖力をまったく感じないことに気付いた。
「……父上」
再び、その言葉が口をついて出た。
父は目を見開き、すぐに苦笑した。
「父上って、お前……死にかけておかしくなっちまったのか?」
「気が動転しているのよ。酷い怪我だったから……」
——怪我?
記憶を探るが、何も思い出せない。
この少年の、今より前の記憶が役小角にはなかった。
――――――
「ロッキ。動いていいの?」
「……少しなら」
痛みもなく立ち上がれる。
問題なく、身体は言うことをきいた。
「本当にいいのか……?」
「さっきまでモンスターにやられて傷だらけだったのよ……安静にしないと」
両親は、不安を隠しきれない。
そのとき、遠くから妙な気配を感じた。
呪力も妖力も持たない、ただ害意を持った何か、が近づいてくる。
すると外から慌ただしい声が聞こえてきた。
「おい! モンスターがそっち行ったぞ!」
「畑の方だ! このままじゃ村が——!」
父が歯噛みする。
「……俺、行ってくる。お前らは隠れていろ!」
「ダメよ! とんでもない【魔力】を持ったモンスターがいるって聞いたわ! あなたなんてすぐに殺されてしまう……」
ロッキがさっきから感じていた、この妙な気配——
この世界では【魔力】と呼ぶらしい。
父親が剣を握り締め、家を飛び出していった。
どうやら村を守るために戦いにいったようだ。
感じる嫌な気配の大きさと数。
彼1人で止められるものではない。
それどころか。
放っておけば、この村は――滅びる。
彼は静かに拳を握った。
彼を信じたために処刑された仲間や弟子たち。
救えなかった命の数々。
前の人生の後悔が、胸を刺した。
――今度は
この身体は若い。
力は、まだここにある。
「……行ってきます」
「ロッキ、何言って――」
ロッキは、扉に手をかけた。
「大丈夫です。今回は守ってみせますから」
母親は言葉を失った。
村に迫る惨劇を前に、
かつて最強と恐れられた呪術師の気配が、わずかに滲み出ていた。
――呪力とは異なる力が支配する世界で、
かつて最強と恐れられた呪術師が、再び守るために歩き出した。




