1話 流刑の呪術師、異世界で目を覚ます
炎々と照り返す太陽の下。
すでに流れる汗もなくなった男は、
ただ死ねるのを待っていた。
「……これほど尽くして――島流しか」
流刑に処された最強の呪術師――役小角。
数えきれぬ妖を討ち、
人を救い、
国に尽くしてきた男。
その果てが、国と仲間からの裏切りにあい――流刑。
自分を最後まで守ろうとした者たちが、
処刑されていった光景が脳裏をよぎる。
――最後は誰も守れなかった。
なぜか笑みがこぼれる。
「……死ぬのは別に怖くはないが、
飢えと乾きで死ぬというのは――
惨めなものだな……」
生き延びる道もあった。
しかし――この伊豆にて、
干からびて死ぬことを選ぶ。
66年、生涯最後の願いが――
水を腹いっぱい飲みたい。
そんな……最期を迎える。
――そう、思っていた。
――――――
それは、“死の終わり”ではなかった。
次に目を開けたとき、男は天井を見ていた。
木造の天井。
船でも牢でもない。
「……?」
――叫び声?
周りが騒がしい。
ここがどこかわからない。
そして――身体が痛い。
全身が傷だらけで、動かそうとすると激痛が走る。
「ロッキ! 目を覚ましたの!?」
見知らぬ女が泣きながら顔を覗き込んでくる。
隣には、同じく見覚えのない男。
「神様……ありがとうございます……!」
――誰だ。
私を、誰と間違えている。
混乱する意識の中、小角ははっきりと理解する。
ここは、日本ではない。
いや――そもそも、この身体が自分のものではない。
「……」
思考を巡らせようとした瞬間、
影の奥で“鬼たち”が応えた。
――まだ、我らはここにいる。
小角はわずかに口元を緩めた。
友人たちは、どうやら無事らしい。
力は、失われていない。
もう1つの力はどうだろうか?
――試すか。
小角は咄嗟に言葉を紡ぐ。
《身体の傷よ、癒えろ》
部屋全体の、空気が震えた。
次の瞬間。
激痛と傷が何事もなかったかのように消えた。
――この世界とは異なる理が、働いた。
それを見ていた見知らぬ男女が息を呑んだ。
「ロ、ロッキ……?」
身体を起こす。
――これは……誰だ?
ふと、視界の端に映ったものに気づく。
――鏡だ。
そこに映っていたのは――
10代半ばの少年だった。
――役小角は、確かに死んだはずだった。
しかし、
どうやら彼は異世界で、少年として目を覚ましてしまったらしい。
「ロッキ!」
見知らぬ男性が真っ直ぐに目を見て告げた。
「いいか……ロッキ。
お前とアイナだけでも逃げるんだ」
――その言葉で理解した。
この身体は、すでに戦いの中にいる。
そして……
この世界はもう、逃げるしかない状況にあることを――
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『かまいたちの嫁 ~落ちこぼれ妖怪は退魔教師と婚約す~』
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現代日本を舞台にした、ポップでライトな妖怪物語です。
よろしければ、そちらもよろしくお願いいたします。




