82.面接の続き
「次の方、お入り下さい」
ルシアちゃんが、廊下へ向かって料理人への応募者を呼び込んだ。
午後になって、面接を再開した俺たちは、ようやく最後の応募者を迎えることとなったのだ。
再開後、1人目の応募者は、50代半ばの人族の男性だった。
昔、他の村で食堂をやっていたとかで、経験は申し分無かった。
だが、少々高圧的というか、変なプライドがあるのか、ネイサンに対してちょっと当たりがキツかった。
ルシアちゃん・・というか、ギルドの評価では、根は真面目だということだったが・・ちょっと微妙かな・・。
ちなみに、料理人へ応募してきたのは、全部で5人ほどで、やっぱり中々なり手は少ないようだ。
そしてその中から、ギルドの審査を通ったのは、3人だけということだった。
で、2人目の応募者は、ドワーフ族のこれも男性だったのだが、中々に個性的な人だった。
年齢は100歳くらいと、ドワーフにしては比較的若いものの、それでも各国の郷土料理に詳しいみたいだった。
ただ、種族特有の性格なのか、少々頑固な傾向があり、好奇心は高いものの融通が若干きかない感じだった。
そして、最後に会議室に入って来たのが、やたらとガタイのいい人だった。
「よろしくお願いします」
身体の大きさの割には、意外と俊敏な身のこなしで俺の向かいの席に移動した彼は、バリトンの良く響く声で言った。
「こちらこそ宜しく。座って下さい」
小さくつぶらな目で眉毛が下がり、頬の肉も少し垂れ気味、三角形の耳も左右で垂れている・・・うん、マスチフ・・犬の獣人さんだな。
「なんかカワイイ・・」
リンが小声で呟く。
「クゥーン」
足元でタロが、しっぽをパタパタとゆっくりと振りながら、甘えた声を出している。
「ん?・・おっ、そんなところにいたのか!ふふっ」
机の下を覗き込んだ彼は、タロのことを見つけて、相好を崩した。
強面に似合わない意外と優しそうな表情をするな・・。
「えーと、じゃあ自己紹介をしてもらおうかな?」
俺は、そんな様子を見ながら言った。
「分かりました。自分はBランク冒険者のサルクといいます。これまで、方々でクエストをこなしながら、土地土地の料理や食材を勉強してきました。もちろん、ノーザン王国だけでなく他の国々にも行って、そこの料理も見聞してきました」
Bランクって、一流冒険者じゃないの?!
そんな高ランク冒険者が、なんで料理人へ応募したんだ?!
見ろ、#アトラスの牙__こいつら__#なんて、口を開けたまま、固まっているじゃないか。
「へえー、随分と勉強熱心なんですね。それとも、相当な料理好きということですか?」
俺は、平静を装いつつ聞いた。
「は、はい。料理を作るのが何よりも好きなんです。だから、パーティーでも料理係はいつも俺なんです」
あれ?
もしかして・・?
俺は、ルシアちゃんの方を見る。
「はい。午前中に給仕の方に応募されていた、サリーさんのパーティーメンバーの方です」
なるほど!
「サルクさんはせっかくそんな高ランク冒険者になられているのに、このような村の料理人に転職なさってもいいんですか?」
ネイサンたちも、激しく首を上下に振って、サルクさんを見つめている。
「もちろんですよ!俺は、あのピザを食って、頭をカチ割られる様な衝撃を受けたんです!それに合わせるよく冷えたエールの喉越し・・あんな料理、あんな組み合わせ・・これまでの人生で初めての経験でした・・・」
サルクさんは言いながら、宙を見据えて恍惚の表情を浮かべる。
えっ?
このひと、ヤバ系のヒト?
「あの・・」
「あっ!す、すいません!それだけ衝撃的だったもので・・ですので、そんな素晴らしい料理を出す、そちらのお店で働かせていただきたいんです。お願いしますっ!」
サルクさんが、額を机に擦り付ける勢いで、巨体を折り曲げる。
なんか、恋人どうしで同じことやってんなぁ・・。
「おい、固まっているお前たち。なんか聞きたいことあるか?」
俺は、ネイサンたちに顔を向けて聞いた。
「あのう・・仕事の合間に戦闘の稽古とかつけて貰えたりしますか?」
何聞いてんだよ、料理と関係ないだろう・・。
こうして、丸一日かかった面接が終わったのだった。




