75.追加発注
「おはようございま~す」
俺はいつものように、声をかけてから扉を開いた。
「おう!坊主、久しぶり」
「よう!」
すると、ドンク、ダンク兄弟がこちらを振り返り、それぞれ左手と右手を挙げて挨拶をしてきた。
「どうもです」
「今日はどうした?」
「まだメンテナンスの日までは、間があったはずだが?」
軽く頭を下げて、挨拶を返す俺に、2人が聞いてくる。
「ええ。実はお願いがありまして」
「なんだ、どこか故障でもしたか?」
「水漏れか?」
「いえいえ、そうじゃありません。追加の工事というか、厨房を作って頂きたくて・・」
2人の問いを否定して、俺は話を続ける。
「厨房?」
「どこに?」
「ああ・・ええと。『おやすみ処』の調理スペースをですね、もっとちゃんとした厨房に作り替えたいんです」
「なに?作り替えるのはいいが、その分他のスペースが狭くなるぞ?」
ドンクさんが言ってきた。
「分かってます。だから、隣の治療室との壁を取り払って、つなげてしまってですね・・」
「治療室はどうするんだ?」
ダンクさんが言う。
「ああそれは、大丈夫なんです。他にアテがありますので・・」
俺はそう言って、厨房を作るための改築案を説明していったのだった。
・・ことの発端は、ミミだった。
みんなでパスタを作って食べて以来、『ふじの湯』に来るたびに、「パスタが食べたい」「なんでメニューにパスタが無いの?」と言っていたのだ。
だがあの時は、俺がどうしても食べたくなって、無理やりに簡易的な設備しかない『おやすみ処』の調理スペースで作ったのであって、正式に『おやすみ処』のメニューとして販売する訳にはいかなかった。
それでも、あまりに何度もせがむミミの『オネガイ』に、とうとう根負けした俺は、厨房の新設を決意したのだった。
でも、ドンクさんやダンクさんがいみじくも言ったように、スペースの問題や、それを解決するために治療室をなくした場合のその行先など、大きな問題が生じてしまった。
あれこれ思い悩んでいた時に、丁度、商業ギルドに売上状況の報告の日が来たので、俺は何か解決策がないかついでに相談することにした。
ギルドに着いて、売上報告と納税の窓口を探し手続きを済ませると、相談窓口に並んだ。
ほどなくして自分の順番になり、椅子に座ると担当の職員はルシアちゃんだった。
「ルシアさんこんにちは」
「これはマモル様。いらっしゃいませ、こんにちは!」
ルシアちゃんが、にこやかに会釈してきた。
「本日はどのようなご相談でしょうか?」
「じつは、治療院に丁度いい物件を探していまして」
「たしか今は、『ふじの湯』の2階に治療室がございましたよね?」
「ええ。でも、隣の『おやすみ処』のスペースを広げるので、別の場所に移転させようと考えているんです」
「なるほど、それで新しい物件をと」
「ええ。どこかいい所はありますでしょうか?」
「承知しました。少々お待ちください」
ルシアちゃんはそう言って、資料を取りに席を立った。
「・・お待たせしました。場所は今と近い方がよろしいですよね?広さはどれくらいがよろしいですか?」
「そうですね、近くの方が助かります。それと、それほど広くなくても大丈夫です」
「それでは・・あっ!マモル様、丁度隣の建物の2階に空室がございます」
「えっ?!そうなんですか?」
「はい。先週、前の契約者が解約されたようです」
「中を見させてもらうことはできますか?」
「はい、もちろんです!」
・・ということで、無事代わりの部屋を用意することができたのだった。
ドンク工房で工事を発注してから2週間、『おやすみ処』だけ臨時休業にして厨房改築工事をしてもらった。
治療室については、すぐに部屋が借りられたので、休むことなく続けることができたのだった。




