63.レシピの登録
ドリンさんのアドバイスに従って、俺は商業ギルドへとやってきた。
ギルドに入って、ずらりと並んだ窓口を眺めると、最初に会員登録した窓口とは別に、『その他登録』と書かれた窓口を見つけた。
「いらっしゃいませ、こんにちは!本日は、レシピと商材、どちらのご登録でしょうか?」
窓口には誰も並んでおらず、俺が前まで行くとすぐに笑顔で対応された。
ピンクの髪をベリーショートにした二十歳くらいの、目のクリッとした女性だ。
「はい、レシピの登録をしようかと思いまして」
「かしこまりました。レシピの登録ですね・・・それでは、ギルドカードのご提示をお願いいたします」
いつものごとく、カードを渡す。
「・・『ふじの湯商会』のマモル様ですね。いつも当ギルドへのご貢献ありがとうございます!」
「い、いえ。それほどでも・・」
ゴ、ゴコウケンって・・・。
「では、こちらの用紙にレシピの詳細をご記入お願いいたします」
俺は渡された用紙に、あらかじめドリンさんに教えてもらっていた通りに、ピザのレシピを記入していった。
「これでいいでしょうか?」
「はい、確認させていただきます。・・ピザ・・・シーズにトマテ、ビジルの葉・・・石窯で焼いて・・・はい、確認させていただきました!これで登録させていただきます!」
職員さんは、書類に落としていた視線を上げると、ニッコリ笑ってそう言ってくれた。
「よろしくお願いします」
俺は、ペコリと頭を下げた。
「・・あのう。これって、『ふじの湯』さんで昨日から販売しているアレですよね?」
機械に向かって操作をしながら、急にくだけた口調で聞いてきた。
「そ、そうですけど・・」
昨日の今日で、もう噂が広まっているのか?!
それとも、昨日の内に食べることができたとか?
「食べた同僚に、『ものすごっく美味しかった』って聞いたので、わたしも食べたくて!」
「そ、それはありがとうございます。」
「今日も販売されるんですよね?」
「ええ、もちろん。ただ、どうしても仕込みの都合で、100枚限定ですけど」
「わたし、今日は早番なので、急いで伺います!」
「良かったら、お取り置きしておきましょうか?」
「え?!そんなことして貰えるんですか?!」
「まあ、一枚だけなら・・」
「嬉しい!お願いします!!・・・あっ!でもこれって、権限の私的利用でギルマスに叱られる?・・」
めっちゃ喜んだと思ったら、急に階上をオドオドしながら見てつぶやいている。
「ハハハ。じゃあ、今回だけと言うことで、内緒にしておきましょう」
「ありがとうございます!」
俺が小声でそう言うと、職員さんも小声でお礼を言ってきた。
「あっそれと!冷えたエールの件だったんですが・・」
「はい。それが?」
元の真面目な表情に戻って、言ってきた。
「あれも、正式にレシピとして登録されてはいかがでしょうか?」
「えっ?あれって、ただ冷やしただけですよ?」
「いえ、エールを冷やすなんて、今まで誰も考えなかった飲み方です。じゅうぶん、レシピとして成立します」
「そうなんですか・・」
「それに、こちらの都合で申し訳ないのですが、自分のところでも同じようにエールを冷やして提供したいと言う、商会や店からの問い合わせが日増しに当ギルドへ来ていまして、今の独占状態を続けていくのはそろそろ無理が出てきたと言いますか・・」
職員さんは、可愛い眉根を寄せて申し訳なさそうに俺の顔を見てきた。
「なるほど・・分かりました」
「ありがとうございます」
「ですが、私が冷やすということではないですよね?」
「それはもう!それぞれ自前で、やって貰います」
「それを聞いて安心しました」
なんでも非常に高価ではあるが、冷却系の魔法を封じ込めた魔石があるらしい。
他の人たちは、それを使って冷やすつもりだということだった。
でもそれって、多分エールの提供値段も結構高額に設定せざるを得ないということだろうな・・。
この世界の科学技術や産業の発達がなんだかイビツに感じるのは、魔法や魔道具があるために頑張れば大抵のことがなんとかなってしまう一方で、そのためには大きなコスト(お金も魔力も)が必要だということかな?
だから、科学技術を無理に発達させる必要もあまりなかった代わりに、かと言って魔法や魔道具の普及もままならないと言ったところか・・・。
魔力がどんどん増えていく俺は、やっぱり転生者お決まりのチートなんだろうな。
「では大変お手数ですが、もう一枚申請書をご記入いただけますでしょうか?」
「あ、はい。分かりました」
俺が一瞬、ぼーっと考え事をしていたら職員さんに用紙を差し出され、慌ててそれを受け取った。




