62.生地がない!
「ネイサン、ピザ追加ねー」
「こっちも1枚お願い!」
「あっちで、みんなが食べているのはなんだ?ピザ?うまそうだな。俺にもくれないか?」
「エールとピザ、たまんねえなこの組み合わせ!」
翌日の『おやすみ処』は、予想通りピザが大好評だった。
最初は物珍しさから。
でも一旦1枚目が売れると、その香りにつられて次々と注文が殺到した。
「マモルさん。もう用意した生地50枚分が無くなりそうです!」
注文を受けていたポールが言ってきた。
販売開始から、3時間も経っていなかった。
これは、さすがに予想を越える勢いだな・・・。
「俺にも1枚くれるかい?」
「あ!マス・・ジョニーさん!」
聞き覚えのある声がして、振り返ると『ピテュス』のマスターだった。
「すみません。さっきので売り切れでした」
ポールが、ものすごく申し訳なさそうな顔をして謝った。
「そ、そうか・・・また明日くる・・・」
マスターが肩を落として、トボトボとエールだけを持って、テーブル席へ歩き去っていった。
「明日はもう少し、数を用意しておきますから!」
心なしか丸まった、その背中に俺は声をかけた。
読みが甘かったな・・スミマセン、ジョニーさん。
「マモルさん、マモルさん!」
不意に、後ろから肩をたたかれた。
「あ、ドリンさん!」
そこには、満面の笑顔のドリンさんが立っていた。
「いや~。ウチの商品を、あのように素晴らしい料理に使っていただいて、なんとお礼を言ったら良いか」
「お礼なんて・・ドリンさんのおかげで思いついた様なものですから、こちらこそお礼を言わせてください」
「ハハハ。じゃあ、お互い様ということで。でも、この分だとこの前仕入れていただいた量ではすぐに足りなくなりそうですな?」
「そ、そうですね。在庫は大丈夫ですか?」
「それはもう・・全然大丈夫ですよ!」
「良かったです」
さすが商売人・・。
「ところでマモルさん」
俺が内心苦笑していると、ドリンさんが真面目な顔になって言ってくる。
「なんでしょう?」
「この料理・・ピザと言いましたか?」
「はい」
「このピザのレシピですけど、ちゃんとギルドに登録しましたか?」
「え?」
「ああ~やっぱり、まだでしたか」
「ギルドに登録って、商業ギルドに?」
「ええ、そうです。新しい商品や、料理のレシピなんかは、ギルドに登録をしておくといいんです」
「登録するとどうなるんですか?」
「他人に真似をされないように保護してくれるんです」
「保護?」
「そう。もし真似をされた場合には、ギルドに報告することで、ギルドに登録している商人なら登録の永久剥奪や、そうでない場合でも、領都の騎士団や警備兵による取締りがあります」
「取締り?」
「取調べのうえ投獄されて、よくて売り上げの没収と禁固刑。最悪、財産没収のうえ奴隷落ち・・ですね」
「そ、そうなんですね。随分と厳しいんですね」
「でも、ちゃんとギルドに申請して権利料を支払えば、同じものを売ることができるんです。だから、そういう馬鹿なことをする人は滅多にいないんですが・・」
「権利料?」
「売り上げの25%をギルドに収めるんです。ギルドからは、その内の20%分が登録者に支払われて、残りの5%はギルドの手数料です」
「なるほど・・わかりました。登録しておきます」
「その方がいいですよ!これだけ素晴らしい料理なんで、放っておけばすぐに真似されちゃいますから」
「は、はい・・」




