まるでダンジョンを作るゲームのようだけど
ライラがすぐに危険な状態にはならないとわかったので、少し整理しておきたい。
「まず、リック、君の話を聞きたい。君は、ヴィヴィアン・フィッチの弟のリックなのか?」
「はっ、はい、そうだよ」
「君は攫われて、ここに連れてこられた、で合ってるか?」
「はい……」
「この遺跡の核のことなんかは知っているようだけど、どこで知ったんだ?」
「あの、さらわれて、仮面の男からきいたんだ。ぼくは遺跡の核っていうものと合体するって。そして、遺跡にくる人から魔力を吸い取るのがしごとだって」
「仮面の男?どんなやつだった?」
「仮面をつけてたからわからない……でも、お兄さんよりもっとおじさんだったよ、おじいさんじゃないけど」
「……攫われた後、何があったか覚えてるか?」
「さらわれて、そのあとはしばられてて、ずっと移動してたみたい、たぶん荷台とかにのせられてた。目隠しされてたから、わからないけど……それで、気づいたら仮面の男がいて、ご飯がほしいならいうこときけって言われて、お腹へってたから、話をきいたんだ。そしたら、この遺跡のこととか、核のこととか言われて、ご飯を食べて、ねむくなって、気がついたらこの部屋にいたんだ」
……こんな子供に何してんだよ!
そうだ、気になっていたことはまだある。
「ここに連れてこられてから、どうやって暮らしてたんだ?遺跡調査も終わって、ここには誰もこなかっただろう」
「えーと、よくわからない。なんかね、誰かが来たときには眼が覚めるんだけど、誰もいないときはずっと寝てるみたいになるんだ。でも、たまに魔物とかが遺跡に入り込んだりして、魔力をもらってたよ。ほら、遺跡のはじめに魔力を吸い取る床があるでしょ。あそこで吸い取った分、遺跡の核のものになるんだ」
「……遺跡の中のこと、わかるのか?この部屋から出られないって言ってたよな?」
「出られないけど、遺跡の中のことはわかるんだよ。何があるかもわかるし……ほら」
リック少年が何かを持っている風に手をこちらに向けてくるが、その手の上には何も乗っていない。
「……何だ?」
「この本に、この遺跡のことがかいてあるんだよ。ほらここに、遺跡の地図でしょ。こっちに遺跡の仕掛けのことがかいてあるし。何とね、この本は書いてあることが変わるんだ!それで、だれかがはいってきたり、遺跡に魔力が足りないとかがわかるんだよ」
……俺には何も見えない。
だが、リック少年は手の上に本があるかのようにぺらぺらとページをめくる動作をしている。
「これが遺跡の説明書で、こっちにあるのが遺跡ブロック!このブロックを組み替えると仕掛けが変わるみたいだよ、何度か試したけど、今は説明書にかいてあるおすすめの組み方にしてあるんだ」
遺跡ブロック……なんだそれ。楽しそうだな……
リアルな玩具のブロックと対応したダンジョンメーカーみたいなものか……やってみたいな。
いや、今はそれどころではないが……ん?
見えた。
リック少年が手に持っている本。
それに、遺跡ブロックとして指差していた先の机の上に、確かにたくさんのブロックが見える。
……何だこれ?
ブロックに近づき、手にとってみる。
触れた。持ち上げて組み替えることもできる。
この感じ、似ている。
俺の作っていたゲームには本来無いのに、突然人の上にポップアップ表示が出た時と似ている。
認識や想像がはっきり出来た瞬間に急に現れる。
これは一体何なんだろう……
「ルカには見えるの?私には見えないや……」
「いや、俺も今とつぜん見えるようになったんだ」
「あ、今は遺跡の魔力はもう満タンだよ!ずっと、なくなるギリギリだったのに、竜のお姉さんすごいね!」
「なんかそう喜ばれると微妙だな……ライラの魔力が減ってんのに」
「リックくんが元気になるなら、これくらい大丈夫だよ〜」
そうだ、それも気になる。
「なあ、魔力がないと死ぬって言ってたけどどういう事だ?」
「あ、あのね、仮面の男にも言われたんだけど、ここにも書いてあるよ、ほら」
……子供向けの言葉で書かれているらしく、言葉を学び始めたばかりの俺でもなんとなく読める部分もある。しかしやはりよくわからない部分もあるので、ポップアップ表示を出した。
便利すぎるんだよな、こういう機能が。だからつい、使ってしまうし頼ってしまっていたが……この機能がどういう仕組みなのかわからない、信頼できるものとは限らないってことは覚えておかないとな……
リック少年に見せてもらった説明書の、魔力についての説明をまとめると。
遺跡の核の蓄積魔力が尽きた場合、省エネモードになって、核の所有者の魔力を使用する。所有者の魔力が少なくなった場合、スリープモードになり、所有者とともに眠りにつく。
もちろん省エネやスリープとは書いていないが、内容はそんな感じだった。
「リック、この遺跡の本、一通り読んでいいか?」
「え、良いけど……」
「ありがとう、急いで読むから」
俺は説明書は一通り読む派なのだ。
そう、これは説明書か、攻略本のような内容だ。
最近はもうゲーム攻略はwiki見れば良いじゃんって感じだが、一昔前は攻略本が出ていたんだよな。それに似ている。
遺跡の中のカスタマイズの仕方が主な内容だった。遺跡の状況のページは、確かに文字や数値が変動している。
……この本や遺跡について、思うことはある。
これがそもそも何なのかとか、俺が使えるデバッグモードやポップアップ表示なんかとの関連性が気になる。
が、まずはこの遺跡を出たい。
ライラと、リック少年と、もちろん俺自身も無事に。
本をめくり、魔石の核について書かれたページを読む。
魔石の核、それがなければこの遺跡はただの建築物だ。だが、特殊な魔石を核とし、魔法陣を組み合わせることで、この遺跡は仕掛けが起動する。
ただし、魔石の核は単体では機能しない。
魔力を持つ生き物、それも、魔法陣に使われている言語を理解する生き物が魔石と同化することによって、魔石が動く。
……あれ、じゃあもしかして、イマイチこの世界の言語をわかっていない俺が魔石と同化するとどうなるんだろう?この遺跡は動かなくなるんだろうか。
「あ、あの、あのう……お兄ちゃん、なんか、僕、お腹いっぱいになってきたんだけど……」
「え?」
お腹いっぱい?
食事なんてしていないのに。それはまさか遺跡の魔力がたまってきた感覚なのか?
リック少年に本を返しつつ、遺跡の状況を表すページを2人で見る。すると確かに、遺跡の魔力量が最大値に近づいていた。
「お、お腹いっぱいで、もう、くるしいよー!ヤダヤダ、もうストップー!」
リック少年が叫ぶ。
「……あ、なんだか楽になってきたかも。魔力が出て行かなくなったよ」
黒竜状態のライラが、ゆっくり起き上がった。
「魔力の吸収が止まった、のか?」
「よ、よかった、お腹いっぱいすぎて苦しかったから、死んじゃうかと思ったよ……」
満タンになったから、しばらく補給が必要ないということだろうか。
「……満タンになったところに、もっと入れたら壊れるかな?」
「や、やだやだやめて!死んじゃうよ!」
「まあ確かに、危ないか……」
死んでも復活の魔法はあるが、何かとイレギュラーなこの遺跡の中でうまくいくとは限らない。
「じゃあ今魔法を使ったらどうなるんだ?ちょっと試してみよう」
ドゴン!
軽く風のカッターを飛ばしてみた。発動した。扉が壊れた。
「扉が壊れた!今なら魔法が使えるみたいだな!」
「え、ええっ」
「リック、なにか体が痛かったり違和感があったりしないか?」
「そ、それは大丈夫だけど……あっ!見て、ブロックが壊れてるよ!」
リック少年が指差す、遺跡ブロックを見ると、確かにこの部屋に該当する箇所の扉のブロックが壊れている。
「あっ、みて、本に何か出てきたよ!扉をなおす、魔力500だって」
「……まさかこれ選ぶと、魔石にためた魔力を消費して扉をなおすことができるっていうのか?ゲームみたいだな、ほんと……あ、直さないでくれよ!」
「うん、わかった」
そうだ、確かめてみよう。
「外に出られるかやってみよう。……俺は出られるな」
壊れた扉から普通に外に出られた。
「待ってね、私も!」
黒竜サイズでは大きいため、再び魔力回復薬を飲んで人間の姿になったライラも試してみた。出られる。
「リックも試してみてくれ」
「う、うん……」
リックも扉を越えようとした。
だが、見えない壁があるかのように、扉を越えることができない。
「出られない……やだ!まって、おいていかないで!」
「落ち着け、俺たちは君を助けにきたんだから、置いて行ったりしない。だが、どうするかな……」
魔石の核と同化しているとこの部屋から出られないということなんだろうか。
どういう仕組みなんだ?
……ん?
「ライラ、確かこの部屋の絵が魔法陣になってるって言ってたな」
「うん、絵に見えるけど、魔法陣だよ」
「じゃあ、この魔法陣が機能しないように壊したら、とりあえず出られるようにはなるんじゃないか?今なら魔法が効くみたいだし」
「そうだね、魔法陣の回路が壊れたら、発動しないんじゃないかな?」
「よし。やってみようか……扉を壊してもリック自身には影響なかったしな。少しずつ絵を壊していくから、痛かったり変な感じがしたらすぐ言ってくれ」
「う、う、うん……」




