ボス部屋の少年
ボス部屋の扉を開け、中を伺う。
中には誰もいない。
ただ、地面や壁には神話や文字を連ねたような絵が描かれている。
ゲームと同じ雰囲気だが、ゲームではもっと月日が経って劣化した感じだった。こんなに絵が鮮やかではなかったな。
ゲームでは、部屋の中に進むと、扉が閉まり、ボスが現れる。ここでもそうなのだろうか。
すう、はあ。
深呼吸をして、補助魔法を自分とライラにかけておく。よし、行こう。
ライラとともに、部屋の奥へ進む。
すると、バタン、と勝手に部屋の扉が閉まった。
そして、部屋の奥に、そっと小柄なローブの人物が現れた。
登場の仕方は、ゲームと同じだ。
だが。
ローブの人物が違う。
ゲームの中では、ローブの奥にチラリと見える顔は骸骨のようなものだったが、今見えるのは少年の顔だ。
顔色は悪く頰はこけているが、少年だとわかる。
「君は、ここに無理やり連れてこられた子じゃないか?俺たちは君を助けに来た!一緒に帰ろう!」
「……」
こちらを虚ろな目で見る少年。
しっかり立っているし目は開いているが、意思が感じられない。
「君の名前は?」
「……な、ま、え……」
「もしかして、君はリックじゃないか?リック・フィッチ!もしそうなら、君のお姉さんが探している!俺たちは、ヴィヴィアンから弟のリックを探して欲しいと頼まれたんだ!」
「……リック、名前、リック……ヴィーお姉ちゃん……」
「リック、やっぱりリックなのか?それなら……」
リックやヴィヴィアンという名前に反応してくれている様子を見て、少年に近づく。
「ルカ、待って」
「?ライラ、どうかしたか?」
「何だか変な感じがする、この部屋、変……この魔法陣、変だよ!」
「……魔法陣?ってどれのことだ?」
「この部屋の絵!これ、魔法陣になってる!変な魔力を感じるよ、おかしい!」
……変な魔力?!
俺にはわからない。
意識して、アイテムに出るポップアップ表示を出しながら周囲の絵を見てみるが、何の表示もない。
ドッと冷や汗が出る。
俺は魔力を体感として感知することはできない。
俺が認識できる、メニューや、ステータス、ポップアップは、全て、ゲームとしての機能だ。
意味のわからない、なぜ使えるかもわからないものだ。なぜ俺はこれに頼っていたんだ?!
「ライラ、一旦この部屋を出よう!扉を壊して外に……」
「あーはっはっはっは!」
急に笑い出した少年に驚く。
少年は大声で笑うと、スッと笑いをおさめた。
「逃げられたら良かったのにね、僕も連れて逃げてくれたら良かったのに……」
今度は泣きそうな声音で、つぶやく。
「……たすけて……」
何を。何から助けるのか。
聞こうと思ったが、その前に少年が動いた。
こちらに向けて駆けてくる。
「おい、どうし……」
「だめえぇぇっ!」
ライラが俺と少年の間に入った。
ライラが少年に手を上げ……カラン、と短剣が地面に落ちた。
少年が俺を狙ったのか。
そしてライラがそれを阻止してくれたのか。
短剣を拾い、ライラを見る。
「ライラ、ありがとう……ライラ?!」
「ル、カ……」
ガクリとライラの体から力が抜ける。慌てて支えるとぐったりと身を預けてきた。抱きかかえるようにしゃがみこむ。
「魔力が……一気に、抜けてく、みたい……手の、傷から……」
「手の傷?!」
ライラの手を見ると、わずかな切り傷があった。少し血が滲む程度だ。先ほどの短剣で傷ついたのだろう。
回復魔法をかけ、傷を塞ぐ……はずが、傷が塞がらない。すると、ライラの人型が揺らめき、黒竜の姿に変化した。
「力が、入らなくて、魔法をうまく、使えないみたい……」
黒竜に戻ったライラは、力なく床にペタリとうつ伏せてしまう。
まずはこの部屋から出たい。そう思って扉に風の攻撃魔法を当ててようとしたが、魔法は発動するものの、壁に吸い込まれるように消えた。他の魔法を試しても同じく壁や床に吸われるように消えてしまう。
扉を殴りつけても、壁を蹴っても、壊れなかった。ーー全力で叩いても、壊れない。これだけ強く叩いて、物が壊れないなんてこと、ステータスをカンストして以後無かったのに……!
少年を見ると、少年はライラに叩かれたその場に座り込んでいた。り、りゅうになった?などと呟きながら。それどころじゃない!
「ライラに何をした?何が起きている?この部屋は何なんだ?!」
「……魔力がないと、ぼくが死んじゃうんだ!だから……」
「どういうことだ?」
こんな子供に、と思いつつも、ライラの様子を思うと苛立って詰め寄ってしまう。
「ぼく、ぼくはいま、この遺跡の核っていうのと、合体してるんだ!だから、魔力が無くなると、死んじゃう……」
「遺跡の核?それは、生きた魔石のことか?」
「わからないけど、ぼくはここにいて、ここに来る人に少しでも傷をつけなきゃいけないんだ、そうしないと死んじゃうから!」
「傷をつけると、どうなるんだ?」
「こ、この部屋で傷ついたら、傷から魔力があふれだして遺跡の核に吸われるんだって、そうやって魔力をもらわないと、ぼくは干からびて死んじゃうって……」
干からびて死ぬ……ゲームに出てくるボスの姿は、骸骨のようだったことが思い出される。しかし……
「とりあえず死なない程度にはライラから魔力を吸ったんじゃないのか、止められないのか!」
「と、止め方なんて知らないよ!」
「くそっ……」
どうする?
ライラのステータスを見ると、凄い勢いで魔力の数値が下がっていく。このステータスがどの程度あてになるのかわからないが、グッタリしているライラを見ればこのまま放っておいてはいけないことは確かだ。
「ライラ、とりあえずこれを飲んでくれ!」
魔力回復薬をたくさん出して渡す。
「うん……ありがとう」
こくり。魔力回復薬は小さな瓶に入った液体状の薬だ。一つあたりはそんなに量はないので、これで凌げるかもしれない。ひと瓶飲むと全回復するアイテムだ。
魔力が切れない程度に回復薬を飲みながら、何とかするしかない。
「君、リックか?本当に止め方がわからないんだな?」
「わ、わからないよ!ほんとうだよ!それにぼくもこの部屋から出られないんだ!」
「じゃあ、遺跡の核というのはどこにあるんだ?それを壊せば……」
「ダメだよ、ぼくの心臓と合体してるんだって!壊したらぼく、死んじゃうよ!」
「心臓と……?」
「あ、あっ、ぼくを殺してもダメだよ、ぼくが死んだら、遺跡の中にいる他の生き物に取り付くってきいたよ!きっと、そこの竜の人に核が移動するだけだよ!」
「なんだって!?」
じゃあどうしたらいいんだよ!
考え、部屋の中を調べるが、外に出る方法は見つからない。
「ルカ、あのね」
「ライラ、大丈夫か?」
「うん、あのね、魔力回復薬を飲んだら結構元気になってきたよ。ねえ、この回復薬沢山あるんだよね?」
「ああ、それは、無限に出せるけど」
「私、多分これくらいの量なら、沢山飲めると思う。このペースで、一日中飲んでても平気。だから、ゆっくり考えて大丈夫だよ!」
「そ、そうか?」
焦っていた気持ちが少し落ち着く。
確かに、竜にとってはこの回復薬の量は何でもなさそうだが。
「じゃあ、ちょっと落ち着いて、対策を考えてみよう」




