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Germinal Anémone 昼─英雄─

ギルドの昇格試験を受けて、アルドとガチバトルして、修練場を破壊して修理してからだいたい三週間が過ぎた。


あれから四回ぐらい簡単な仕事を受けて、数えきれない数の魔物と話して、数えきれない数の敵と交戦してきた。


主に魔物が相手だったが時には同業者と戦うこともあった、確かに最初は殺すことに忌避感を覚えたが、そいつらと俺では覚悟が違って俺には確固たる理由があったからその忌避感も直ぐに薄れた。


俺は絶対に帰らなきゃならない。


だが、同業者よりも魔物の方が話ができる点においては思うことがあった。

 

だがそれも既にどうでもよくなった。

 

確かに魔物と話し合って問題を解決するのは現地民には受け入れがたいものがあるらしいが、話せばもっと効率的に話が進む場合も多くて、ゴブリンやオークなら話が通じれば和解できる場合が多くて、武器や弾薬や魔力の節約にもなるからなるべく和解するべきだと俺は考える。

 

だが例外も多い。

 

今、俺の目の前に居る犬っぽいやつコボルトもまたその例外の一つだ。

 

俺はコボルトの胸にかなり刀身を伸ばした一般人の剣を沈める。


俺は帰り血を浴びる。

 

「魔王陛下ノ タメニ 、 我ラハ ヒトリデモオオクノ ニンゲンヲ コロサナクテハナラナイ … 陛下ノタメニ ニンゲンヲ シマツシロ!」

 

コボルトはそう言い残して地面に倒れた。


コイツらは魔王に対する忠誠心が強すぎて人間の話を一切聞かないから、交渉の余地がない。


「いい加減、コボルトはNGって看板立てるか…」


「いや、元来魔物と人は相容れない存在だったんだ。交渉できない魔物が居てもなんら不思議じゃない」


ディックはコボルトメイジに槍を振り下ろした。


「そうですよ、あなたが異常なんです。そんな称号持ってる人間はきっとこの世界であなただけでしょうね」


ゴブリンの先導者はゴブリンの群のリーダーになると得られる称号だ。

仲間のゴブリンの能力を底上げして、人外との交渉の成功率を上げたり、魔族語の翻訳補正とかが得られる、魔物のリーダーなら是非欲しい称号だ。


ゴブリン達とある程度コミュニケーションが取れたのもこの称号と職業:ゴブリンリーダーの取得条件を満たしていたからだと俺は考えている。


「まあ、アルバトロスの弾を節約できるからありがたいけどな」


ダンはコボルトの胸から剣を引き抜きながら言う。


「別に節約しなくていいぐらい金貨持ってんだから使ってもいいじゃん」


銃口から鉛玉と紫煙が吐き出される。


最後のコボルトは脳漿をぶちまけて地面に転がった。


「さて、問題は解決した。改めてオーガと交渉だな」


そう俺達は近隣の村の近くでオーガが出没したからどうにかしてきてとギルドから言われてここに居る。


昇格試験後、何度か同じ手法で交渉して無血での以来達成を繰り返した結果、ギルドから実績を認められてそれなりの報償金と共に少なくない量の依頼が貰えるようになり、正直めんどくさい事になっている。


そんなこんなで俺はオーガと交渉した結果、隣の縄張りのコボルトに水源を握られており、命令されて村に行ったと言う事情を聞き、それを止めさせるためにコボルトに話を聞きに行ったら…


「英雄ヲコロス 魔王ヘイカ ヨロコブ ソレ ワカラナイ オーガ共 ハ アホ ダ」


「ダガ ワレワレ ニ タテツク、オマエラ モット アホ ダ」


と言われて戦闘に突入、圧勝、そうして今に至る。


そして歩きにくい森を速足で移動してオーガの所へ戻ってきた。


「コボルトは始末してきた。これで村に来ないと約束してくれるんだよな?」


「ニンゲン ゲス ダナ ナサケ ヨーシャ ナク コボルト ヲ 殺シタ 、 オ前ラ ハ キケンダ 」


オーガは木を削って作ったと思われる棍棒を手に取る。


「結局殺す他ないのか、森を焼いちまうんだったな…」


俺は剣を抜く、レベル15まで上がって刃渡りは当初の四倍近くに伸びて既に元の頼りない面影は消え失せ始めている。

いや、剣としてはまだまだか。

ダン達には新しく買ったと言って誤魔化している。


まだ身分を明かすべきではないと思うからな。


そしてディックに教えてもらいながら剣術と体術を磨いた結果、俺は魔法なしでもそれなりに戦えるようになった。


そんな俺にはオーガの直線的な棍棒の振り下ろし攻撃なんて攻撃の内にも入らない。


俺は棍棒をサッと避けて、オーガの喉を大きく切り裂いた。


大量の鮮血が止めどなく溢れだして、落ち葉と雑草で埋め尽くされた地面を赤く染める。

返り血で手が滑るが気にせずそのままオーガの左腕を深々と切りつける。


オーガは焼けるような痛みに咆哮を上げて棍棒を取り落とす。

俺はそれを拾い上げてオーガの顔面を殴り付けた。


オーガの顔は擬音語にするのが難しい音を立てて血肉を飛び散らせる。


そして立て続けに乾いた発砲音と氷塊が脇を通り抜けて、それぞれオーガの命を掻き消す。


それとほぼ同時にダンとディックが展開してそれぞれ戦闘を始める。


オーガはまだまだ居るらしく後からワラワラと出てくる。


オーガに混ざってコボルトやゴブリンと言った人型の魔物やソレ以外の魔物や獣も俺達を狙って襲ってきた。


俺は次々と棍棒でそれらを叩き潰す。


ワンヒット・ワンキル作戦だ。


そして棍棒を振りながら舞う。


激流のように荒々しく、海原のように圧倒するように、清水のように浸食するように『聖なる清水の奔流よ、彼物を穿ちて打ち砕け!』


棍棒の先から水が流れだし、それはあっという間に棍棒を包み込み、打ち付けた場所から相手の体に染み込んでいく。


俺はその棍棒でオーガと打ち合う。


打ち合った所から棍棒に水が浸透していき、棍棒がボロボロと崩れ始めた。

棍棒が朽ち果てると、オーガの指先から血が流れ始めた。

オーガはその程度の傷は気にせず拳を振りかぶった。

次の瞬間、オーガは棍棒と同じように指先から崩れ始めて、あっという間に両の腕がミートペーストとなって地面に流れ出た。


オーガは突然の事に対処できず慌てふためいて、無様に慟哭しながら形を失った。


さっきから殴りまくった魔物達も次々と形を失い流れ出していく。


飛び散った雫にも効果があるのか周囲の木が次々と倒れる。


「うわぁ、グロいなぁ…」


自分でやっといて何を言うかという感じだが、グロイ物はグロイ


俺は手の血をマントで拭った。


ヒュッ


銀閃が俺の脇を通り抜けて、ウェストポーチが切り裂かれて飛んでいき少し離れた場所で中身をぶちまけた。


「はあ、骸骨も出てくるとかついてないわ」


俺の足下から骨の手が剣を伸ばしていた。


一先ず俺はその腕を踏み砕いた。


そからじゅうの地面から骨の手が生ええ、屍が這い出してくる。


「屍は頭を潰すか、焼け!」


ディックは槍の石突きで風化した頭蓋骨を砕きながら叫ぶ


俺は棍棒で片っ端から殴っていく


俺はこのとき、「この程度なら大丈夫だ。今までもなんとかなってたんだ今回もどうにかなる」と高を括っていた。


今思えば、この頃の俺はやれ異世界転生だ、やれ自分が英雄だと非日常的な状況もあって調子に乗っていた。

踊らなくても雑魚は倒せた。

踊れば敵無しだった。

そんな状況で俺はパーティーメンバーとの間に大きな差ができていることに気づけなかった。


俺はひたすらオーガを、スケルトンを、コボルトを、ゴブリンを、棍棒で始末する。


だがパーティーメンバー達は対応しきれていなかった。


数の暴力に前衛が崩れて、後衛にも攻撃が及んでいる。それを防ぐのに必死で後衛はまともに機能していない。

こんなときは俺が補助に入らないといけないのに俺は魔物に取り囲まれているせいで直ぐには向かえない。


「クソ!こんなんむりゲだろ!」


俺は踊るのを止めてひたすら敵を切り打ち砕く。


「ディック、右だ!」


俺は咄嗟に叫んだが、声が届いた時には既に遅く、ディックは右側のコボルトメイジが放った火の玉に撃たれた。

小規模な爆発が起こってディックは体勢を崩した。


サラの魔法障壁のお陰で衝撃だけで済んだようだ。


だがそんな流暢なことを言っている暇はなく、すでにディックに一番近いコボルトが赤錆の目立つ剣を振りかぶる。


俺はなんとか周りの魔物を退けて、コボルトに向けて棍棒を投げる。


棍棒は高速でコボルトに向かっていったが、既に振りかぶっていたコボルトを止めるにはあまりにも遅すぎた。


サラが咄嗟にディックとコボルトの間に割って入って代わりに剣閃を受けた。


棍棒が届いたのはその直後だ。


コボルトは剣を手放してその場に倒れて飛び散った。


ディックはサラをその場に寝かせたまま、介抱し始める。


俺は刀身を伸ばした一般人の剣で周りの魔物を蹴散らして、前線を押し上げる。




「ディックが無事で良かった…」


「喋るな、今手当てするから」


「この傷は私達の薬じゃ…」


「やってみなきゃわからないだろ!」


ディックは震える手で回復薬のボトルを開けて傷口に振りかけるが、溢れ出る血は一向に止まらない。


「シアン、回復魔法を掛けてくれ」


「20秒待ってくれ、一掃する!」


俺はそう叫びながら、魔法を完成させて水の弾丸と雷撃を辺りに掃射しつつ魔法で馬鹿みたいに刀身を伸ばした一般人の剣で近くの魔物をなます切りにする。

更に水の弾丸と雷撃をひときわ大きなオーガの手前で接触させて水を電気分解していく、そして次の瞬間には雷撃による火花が水素と酸素に引火して小規模な水素爆発を起こした。

小規模な爆発だったがオーガの眼を潰すには充分だったようでオーガ双眸から血を流して地面に手を着いた。


それを確認するや否や俺はサラから教わった詠唱を唱える。


『彼の者に神の深き慈愛と癒しを与えたまえ ヒール』


一般人の剣から淡い光の筋が発せられて傷口に伸びる。

ほんの僅かに血の流れる速度が遅くなったがいっこうに止まらずにドクドクと流れ続けている。


「塞がれ!」


より光が強くなり、俺から吸い上げられるMPが増えるが傷は一向に塞がらない、それどころかサラの顔はドンドン青ざめていく。


「私のことはもう…いい…から…これ以上…魔力を…使っちゃ…」


状況を打開するのが難しくなる


のは、俺も解っている。

今、俺が倒れたらパーティーが機能しなくなるのは明白だ。


戦線が崩壊して、命からがら逃げて何人生き残れるだろうか…正直に言ってサラはもう無理だろう、なし崩し的にディックも無理だろう。

ダンとミアは、意外とタフだから逃げ延びられると思う。

俺は、このあとの選択次第だろう。


正しい選択をできたかと言われたら正直わからない


だが、生き延びるということに重点を置くとするならば、結果的に俺の選択は正しくなった。


「チッ、前線を補強してくる。それまでなんとか持ちこたえろ」


俺はそう言ったが、九割諦めていた。


サラもそれが解ったようで、少し満足そうな顔をしていた。


仲間一人助けられずに何が英雄だ


人一人助けてくれないのに何が神様だ


そんな事を訴えかける、怒りのような哀しみのような、空しさのような感情が込み上げてきて、吐き出しようのない固まりとなって喉元に詰まる。


だがそんな泣き言をいっている暇があるわけでもなく、魔物たちの薄汚い刃は容赦なく俺を追い詰める。


俺はそれを乗り越えてダンの隣まで来た。


「シアン、サラは大丈夫なのか?」


俺は無言で首を横に振った。


ダンは苦い顔をした。


「ほぼ無理だろう。まだ生きている、だがこの戦闘を終わらせないことには本格的な治療は無理だ」


「くっ、急いで片付ける。ミア援護射撃を!」


ダンはペースを上げて的確に目の前の敵を処理していく


「ちょっと、装填が間に合わない!」


ダンはミアに背中は任せたとでも言うかのように敵の真っ只中に突っ込んでいく


俺も取り残しを片付けながらダンの後を追う


長い戦いのなかでこちらもかなり消耗したが、敵もまた消耗しており敵の数もだいぶ減っている。


なんとか切り抜けられそうな気がしてくる


だが程なく魔法の刀身が消滅した。

魔力切れだ。


チッ


俺は舌打ちをしつつも目の前の骨を柄で砕く


刀身が消えたのを見た魔物共が今だと言わんばかりに攻めてくる。


俺はそれらを避けながら切り捨てる。


後ろで爆発音がした。


後ろを振り向くとダンが仁王立ちしている。


「ゔっ…無事か?」


「まさか俺を庇ったのか!?」


「どのみち俺は長くない…」


ダンのレザーアーマーは所々切り刻まれてボロボロになっており、更に所々焦げている


よく見ると右腹部が赤黒く染まっており、赤が地面に滴っていた。


「スケルトンに銃士が居てな、一発食らっちまった…ただ死ぬよりは英雄の盾になって死んだ方が箔がつくだろ?」


「知ってたのか?」


「もしかしたらとは思っていたが、確信したのはさっきコレを拾ってからだ」


ダンは例の紋章をポケットから取り出す


「お前だけに許された世界を引っくり返せる力だ、大事にしろよな…」


俺はソレを受けとる


「いつか…いつか必ずこの世界を引っくり返して見せる。そしてあのヘラヘラ笑う女神に目に物見せてやる」


『拡張能力:英雄が解放されました。拡張職業:英雄が一時的に追加されました。称号:躍る魔法使いがダンシング・ワーロックに変化しました。拡張スキル:二刀流、マナ・ドリンカー、マナ・リザレクト、セイクリッド・スラッシュが解放されました』


「マナ・リザレクト」


俺のMPが急速回復する。


『本日のマナ・リザレクトの残り使用回数が0になりました』


どうやら一日一回が限度らしい


「マナ・ドリンカー、魔法剣舞」


俺は舞う、悲しみを込めて、凍てつくように冷たく、悪いこと全てを停めるように


「凍てつけ」


魔力が一気に消費される。


俺の足下から白い霧が噴き出し、辺りに急速に拡がっていき、俺に敵対する物全てを氷漬けにしていく。


あっという間に霧は辺りを覆ってしまった。


「終わった…全てが…」


直後霧が晴れて氷漬けの魔物たちが砕け散った。


足下のダンはまだ僅かに息をしている。

傷口が凍りついて血が止まっている。


俺はダンを担いで二人の所に戻った。

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