Germinal Anémone 昼下がり─英雄─
ディック達の所に戻ってくると、ディックは顔を伏せておりミアはやたらに辺りを見回している。
「ダン!?シアン、ダンは無事なの?」
「今は生きているがなんとも言えない。骸骨の弾が当たったらしい」
「弾は取り出したの?」
「ダンが自分で取り出してなければまだだ」
「わかった、治療は私がやるから、火を起こして」
俺はそこらの木を集めて火をつけてナイフを焼いた。
メラメラと燃える炎がナイフを舐めるのを無言で眺めた。
そのあと、なんとかして依頼者の村に戻って来た。
それから早くも三日が過ぎた。
ダンの目が覚めて、サラの葬儀を終えて、少し落ち着いた。
「ダン、これからどうするつもり?」
切り出したのはミアだ。
「普通に考えても超常的に考えても、暫くは活動できそうにないな」
「そうだよね…サラが亡くなってからディックは塞ぎ込んでるし、ダンもまだ病み上がりだもんね」
「話がある」
そう、俺も三人に言わなくてはいけないことがある。
ダンはその事も考慮して今の言葉を発したのだろう。
「単刀直入に言う、俺はパーティーを抜ける」
「ちょっとあんた!今の状況解ってるの?サラも助けられずに、ヤバくなったらさっさと逃げようって言うの?」
「ミア、シアンの話を聞いてくれ」
ミアは納得いかないようだが引き下がる。
「今までは黙っていたが、俺は教会が血眼になって探している英雄なんだ…黙っていて悪かった、だが俺はまだ教会にも魔王にも見つかるわけにはいかないんだ」
「保身の為ってこと?」
「その通りだ。パーティーを抜けるに当たって、隠したままでいなくなるのは悪いと思って打ち明けることにした。まあダンには看破されちゃったんだけどな。まあそういうことだ、これ以上ここに居ても互いの為にならない。ということでここでお別れだ、俺はもう少し実力を付けるために魔族領域の方に向かうつもりだ」
「そうか…そうだよな、活動できないパーティーに居ても意味はないしな」
「で、俺が抜けると更に頭数が減って大変だと思うからコレを資金の足しにして今後の事を考えて欲しい」
俺はテーブルの上に今までの報酬と金貨を崩して作った銀貨数百枚を詰めた麻袋を置く
「例の金貨は無駄な厄介事を残しそうだから抜いといた、中身はほぼ全部銀貨だ、金貨に換算して50枚ぐらい、だから遊んでとは言わないけど三ヶ月はこれだけで凌げると思う、それ使って傷癒してこれからも元気でやってくれればいいと俺は思う。短い間だが世話になった」
言い終えた俺はゆっくりと立ち上がる。
バンッ!ガシャンッ!!
テーブルから袋が落ちて銀貨に混じって金貨が床に散らばった
「あんたさぁ、それでいいと思ってるの?サラが亡くなって、ダンがあんたをかばってこんな怪我したのに、実は英雄で魔王倒さなきゃいけないからぬけますって?大変だろうからこのお金あげるだ?なめくさるのも大概にしろよ!」
ダンは度肝を抜かれて呆然としている。
「侮ってしまった事に関しては謝るが、俺にも事情がある。これ以上一緒に行動することがお互いのためにならないことは明白だろう?」
「その事情がどうのって言うのがわからない!あんたもっとこうなんかないの!?」
「ミア、やめておけ。シアンの言う通りだ。シアンが居れば、また無茶な仕事が回ってくるだろう。そしてサラがいなくなった今、今回のようなことになれば次は確実に全滅する。そうでなくても信用を失う。ここが俺たちの限界だったんだ。この傷が治っても、ディックは立ち直れないかもしれない。たとえシアンが残っても三人でできることは限られている…」
「ディックが立ち直ってシアンが残って4人ならまだ一流の冒険者を目指せるでしょ?それがダンの夢なんだよね?私、ダンがまだ目指すって言うならどんなことでも」
ダンは静かに首を横に振った。
「な…なんで…別に解散して新しく仲間を集めてもいいんだし、やり方はいくらでも」
「ミア、俺は怖くなったんだ。シアンにサラの安否を聞いてシアンが首を横に振ったとき、俺はどうしようもない現実に打ちのめされたんだ。そしたら戦うのが急に怖くなった。次の一瞬で誰かが死ぬかもしれない、俺が至らないばかりにミアを死なせてしまうかもしれないと思ってしまった。そしたら怖くてたまらなくなったんだ。で俺は戦うことを放棄して、まだ可能性のあったシアンに全てを押し付けてしまった。でもシアンはやり遂げて見せた。俺じゃどうしようもなかったあの状況をなんとか終わらせた、そこで安堵したのと同時に自分がリーダーの器には余りにも小さすぎる事に気づいてしまったんだ。もう今までみたいに戦うことはたぶん無理だ。だからせめて、せめて皆には生きて幸せになって欲しい。そのために今までに貯めてきた金と装備を使う、それが今の俺にできる最大限だから…」
「じゃあ、ここで解散か?」
ディックがぼそりと呟いた。
「すまない…」
「そうか…世話になったな」
ディックはそう言うと部屋から出ていった。
数秒か数分かわからない沈黙が訪れた。
それっきりダンは銅像のように動かない
俺はため息をつくと改めて立ち上がっる。
「はあ、なら俺もここまでだな…森で拾ってくれたこと、感謝している。お前たちが拾ってくれなければ、俺はまだ森で燻っていたかもしれない。また会う日まで達者でな」
「なあ、シアン。最後に一つだけいいか?魔王に勝てるか?」
「当たり前だ、俺を誰だと思っている?教会が喉から手が出るほど欲しい英雄様だぞ?」
「そうだな、シアンが言うとそんなオオボラもほんとになりそうに聞こえるな。がんばれよ」
「そっちこそな」
俺は後ろに向かって手の甲を向けて部屋を出た。
さてと、やることは山積みだ。
順番に片付けて行こう、魔王を倒すのはその後でも十分だ。




