6.力任せ
床に落としただけで壊れる。
思っていたより、ハズレ感がすごい。
でも。
原因が分かったなら話は別だ。
「じゃあ、強くすればいいんだ」
今度こそ。
僕は右手を構える。
さっきより多く。
もっと多く。
自分の中にある魔力を、手のひらへ集めていく。
魔力を動かす感覚自体は、これまでの勉強で少しだけ教わっている。
いつもよりたくさん。
できるだけたくさん。
今こそ貴族の血筋たる魔力量を示す時!!
さあ、ありったけの魔力を手のひらへ集めて――。
『糸!』
するり。
十センチ。
「…………」
まあ、長さはいい。
今は強さだ。
手のひらを床の上へ移動させる。
そして、落とす。
すん。
「…………」
消えた。
いや。
壊れた。
「むむ……」
もう一度。
今度は、さっきよりも意識して魔力を集める。
『糸!!』
するり。
十センチ。
落とす。
すん。
「…………なんで?」
おかしい。
今のは絶対に、さっきより魔力を使った。
それなのに、何も変わっていない。
「テレシア先生」
「はい」
「今の、さっきより魔力を使ったの分かりました?」
「ええ。先ほどより多くの魔力を動かしておられましたね」
「ですよね!」
良かった。
気のせいではない。
だったら。
「なのになんで強くならないんだろう」
「テオ様」
「はい?」
先生の声色が少し変わった。
「確かに、先ほどより多くの魔力を動かしておられました」
「はい」
「ですが……」
テレシア先生が、僕の手のひらに残っている糸を見る。
「《糸》に込められた魔力は、先ほどとほとんど変わっていなかったように思います」
「へ?」
思わず、間の抜けた声が出た。
「どういうことですか?」
「私にも、《糸》というスキルの仕組みは分かりません」
先生はそう前置きしてから続ける。
「ただ、テオ様が動かされた魔力の大半が、そのまま《糸》になっているようには見えませんでした」
「…………」
手のひらを見る。
もう一度。
『糸』
するり。
十センチ。
今度は、出すことよりも魔力の流れを意識してみる。
魔力を手へ。
そして――糸へ。
「…………」
分からん。
込めているつもりだった。
いや、実際に魔力は使っている。
でも。
使った魔力を、そのまま《糸》に込められているわけではない。
ということは。
僕は今まで――。
「力任せにやってただけ?」
「端的に申し上げれば」
先生。
もうちょっと五歳児に優しい言い方はなかったでしょうか。
そんな勢いよくぶった切っては、アップルパイならグシャッと潰れてしまうだろう。
でも。
僕は手のひらに残った十センチの糸を見る。
長さは変わらない。
床に落とせば壊れる。
少し強く引っ張っても壊れる。
魔力をたくさん使ったつもりでも、強くならない。
それでも。
「……なるほど」
少しだけ、分かってきた。
《糸》が弱いんじゃない。
少なくとも、まだそう決めるには早い。
僕が《糸》の作り方を知らないんだ。
だったら。
覚えればいい。
「先生」
「はい」
「魔力操作って、どうやったら上手くなります?」
テレシア先生が、一瞬だけ目を丸くした。
それから、少し楽しそうに笑う。
「では明日から、授業を一つ増やしましょうか」
「お願いします!」
こうして僕は、《糸》を長くするより先に。
まともな糸を一本作るところから始めることになった。




