3.十センチ
「テオ……」
母が心配そうに見つめる先には、夢中になって《糸》を繰り返し出す息子――つまり僕がいる。
さっきは、普通に念じただけで糸が出た。
なら。
まずは、力んでみる。
『糸!』
するり。
十センチほどの糸が落ちて、消える。
変わらない。
じゃあ、声に出したら?
「糸!」
するり。
十センチ。
なら、両手ではどうだ。
両手を構えて――。
『糸!』
するり。
十センチ。
「むむ……」
右手が駄目なら左手。
『糸!』
するり。
変わらず十センチ。
……なるほど。
手は関係ないらしい。
となると。
左手で顔を隠し、少し胸を反らす。
そして――。
『糸!』
するり。
やはり十センチ。
……アレでもないか。
「どうやら、十センチほどの糸を出すスキルのようです」
大司教が申し訳なさそうに告げる。
父も、夢中になっている僕と、床に落ちては消えていく糸を交互に見て、
「そうか……」
と、ため息を吐いた。
うーん。
何をやっても十センチ。
「よし。今日はこの辺にしておいてやろう」
僕がそう宣言すると、言葉遣いを正されるよりも先に、みんなが口を開いた。
「うん。テオくんは頑張ったよ」
「とりあえず、気はすんだのかな」
「テオはテオよ」
なんだろう。
まえに描いた家族の似顔絵を、みんなが褒めてくれた時と同じ空気を感じるな。
「うむ。今日はもう帰るぞ。猊下も時間を取らせて迷惑をかけたな」
「いえ。我々は神の御名の下に仕える徒でございます」
こうして、僕のスキル鑑定は終わった。
分かったことは、ほんの少し。
十センチほどの糸が出る。
右手でも左手でも出せる。
声に出す必要はない。
そして、床に落ちると消えてしまう。
分からないことは――たくさんある。
でも。
自分の手から糸が出る。
それだけで、もう……面白かった。
こうして、僕の《糸》が始まった。




