たどり着いた、狂愛
国と教会、すべての追手を無自覚な『アガペーと悪魔の魅了』で無力化した三人が辿り着いたのは、
あらかじめこんな事もあろうかと予測していた2人が用意していた、他国の美しい湖畔にひっそりと佇む豪奢な洋館だった。
「わぁ……! 凄く広くて綺麗なお屋敷ですね! 団長様、シスター、僕すぐに隅々までお掃除しますからね!」
三人だけの『究極の隠れ家』。
到着するなり、エプロンを着けて雑巾を構える働き者のリトだったが――背後から、銀色の髪が彼の首元に深く絡みついてきた。
「んん……リトぉ……もう、お掃除なんていいのぅ……」
背中にのしかかってきたのは、かつての威厳を完全に捨て去り、ふにゃふにゃに溶けきったエレノアだった。
「だ、団長様!? お体がすごく熱いですよ! 逃避行の疲れが……!」
「違うぅ……疲れてないのぅ……」
エレノアはリトの耳元に唇を寄せ、甘く、熱に浮かされたような声で囁いた。
「もう騎士団も国も関係ないのぅ……。リト……私、あなたがいなきゃ生きていけない体になっちゃったのぅ……。だから、私……あなたの赤ちゃんが欲しいのぅ。私を、孕ませてぇ……?」
「――えっ?」
リトの動きが、ピタリと止まった。
(あ、赤ちゃん!? 孕ませる!? どういうこと……!?)
思考がショートしかけたリトの正面から、今度は豊満な胸がギュッと押し当てられた。
おっとりとした聖女の微笑みを浮かべたセシリアが、リトの頬を両手で優しく、逃げ場のないほどしっかりと包み込んでいた。
「だーめよ、エレノア。順番は私からに決まっていますのよ」
「シ、シスター……!?」
セシリアはリトの鼻先に自分の鼻をこすりつけ、甘ったるいキスをして、狂気を孕んだ過保護な声で囁く。
「リト……私の可愛いリト。お外の世界はもう終わり。これからは、私の揺り籠の中で、ずぅっと一緒に……私たちの赤ちゃんを作ってちょうだいねぇ。シスターを、本当のお母さんにしてちょうだい……?」
「――ッッ!!」
ここでついに、リトの脳内に構築されていた低い自己評価という鉄壁のバリアが、完全に粉砕された。
過労による防衛本能で幼児退行したわけじゃない。
過保護なだけの家族愛でもない。
国を捨て、神を捨ててまで自分を連れ去ったこの二人の英雄は、自分を『一人の男』として、狂おしいほどに愛しているのだ。
「あ、あ、あああっ……!?」
リトの顔が、耳の先まで一瞬にして沸騰したように真っ赤に染まる。
「お二人とも、本気、なんですか……!? 僕なんかで……」
「僕なんか、じゃないのぅ……リトじゃなきゃダメなのぅ……」
「そうよぅ。あなたを絶対に逃がさないわ。骨の髄まで、たーっぷり愛してあげるからねぇ……」
有無を言わさず、エレノアとセシリアによってふかふかの巨大なベッドへと押し倒されるリト。
最強の騎士と至高の聖女による、絶対に逃げられない激重で甘々な爛れた夜が、こうして幕を開けたのだった。
遥か上空、天界。
かつてリトを産み落とした女神は、その様子を見下ろしてクスリと微笑んだ。
「魔王の芽、悪魔の誘惑すらも、愛の力で押さえ込んでしまうなんて。……ええ、やっぱり人間って、不完全で、愛おしいわ」
世界を滅ぼすはずだった魔王は、二人の愛と過保護という『究極の揺り籠』に閉じ込められ、世界は平和に救われたのだった。
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