愛の逃避行
数日後。
戦火が奇妙な形で収束し、王都へと帰還した三人を待っていたのは、英雄としての凱旋ではなく、冷酷な『審問』だった。
薄暗い地下牢。
鉄格子の中に閉じ込められたリトに対し、王と教皇の名代が冷酷な推論を突きつける。
『お前は神の子を騙る悪魔だ。お前の存在が、騎士団長と聖女の心を狂わせ、骨抜きにしていたのだ。世界の秩序を狂わせる前に、明日、火炙りの刑に処す』
その宣告を聞いたリトは、絶望に瞳を揺らした。
(僕が……悪魔? 僕のせいで、団長様やシスターの心を狂わせていたんだ……)
素直で純粋な彼は、その宣告をあっさりと信じ込んでしまった。
「……ごめんなさい。僕、そんなつもりじゃなかったのに……。団長様、シスター……皆を傷つける前に、僕を殺してください」
膝を抱え、涙を流すリト。
しかし、その時。
ドゴォォォンッ!!
という轟音と共に、地下牢の分厚い鉄扉が完全に吹き飛ばされた。
「……誰が、殺すだと?」
もうもうと立ち込める土煙の中から現れたのは、返り血で軍服を染め上げたエレノアと、教会の象徴たる十字架をへし折ったセシリアだった。
「だ、団長様!? シスター!? なぜここに! 僕は悪魔なんですよ、近づいたらまたお二人を狂わせて……」
「狂わされたって構わないわ」
セシリアがおっとりとした、しかし背筋が凍るほどに暗く重い声で言った。
「世界があなたを悪魔と呼ぶのなら、私は喜んで魔女に堕ちましょう。……国法も、神の教えも、私の可愛いリトを奪う理由にはなりませんのよ」
「その通りだ」
エレノアが、騎士の誇りであったはずの王家の紋章を剣で削り落とし、不敵に笑う。
「たとえお前が悪魔の血を引いていようと、世界を滅ぼそうと関係ない。私を癒やし、私に愛を教えてくれたのは、国でも神でもなく、リト……お前だけだ」
世界よりも、リトへの執着を選んだ二人。
王国最強の騎士と聖女が、国と教会に対する『反逆』を起こした瞬間だった。
「さぁ、行くぞリト」
「あんな外の悪い世界になんて、もういなくていいの。私たちの『新しい揺り籠』へ行きましょうねぇ」
二人はリトの両手を強く引き、血に染まった地下牢から連れ出した。
ここから、国と教会を敵に回した、三人の『愛の逃避行』が始まる――。
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