観測された悪魔
ギィルルルァァァァッ!!」
突如、防衛線を突破した敵国の巨大な『魔獣』が野営地に乱入してきた。
大木のような腕を振り上げ、兵士たちを蹴散らしながら、リトたちがいる場所へと猛進してくる。
「ひぃぃっ!? な、なんだあれ!?」
リトが悲鳴を上げた瞬間、エレノアとセシリアの瞳に絶対零度の殺気が宿った。
((私のリトに、気安く近づくな……ッ!!))
二人がそれぞれの武器を構え、魔獣を一瞬で消し炭にしようとした――その時だった。
「だ、団長様、シスター! 危ないです!」
リトが咄嗟に二人を庇うように前に出て、両手を広げたのだ。
魔獣の巨大な爪が、リトの小さな身体を引き裂こうと振り下ろされる。
しかし。
ピタリ、と。
魔獣の動きが、リトの鼻先数センチのところで完全に停止した。
「……え?」
リトが首を傾げた次の瞬間、凶暴なはずの魔獣は、まるで主人に甘える子犬のように「キュゥゥン……」と鳴き声を上げ、リトの足元にコロンと仰向けに転がって腹を見せたのだ。
「……へ? 魔獣さん、お腹撫でてほしいの……?」
リトが恐る恐るその腹を撫でると、魔獣は恍惚とした表情を浮かべ、完全に戦意を喪失してしまった。
ただの偶然ではない。
この時、リトの『アガペーと、万物を魅了する『悪魔の誘惑の力』が、大切にしてくれる女性達のピンチによって無意識下で覚醒し、戦場全体に波及していたのだ。敵国の兵士たちすらも戦意を喪失し、武器を置いて座り込み始めていた。
「なんだこれは?なんという……恐ろしい力だ」
その後方。高台から戦況を監視していた、王国軍の参謀総長と、教会の異端審問官が、震える声で呟いた。
「ただの少年が、魔獣を平伏させ、あまつさえ『氷の剣姫』と『至高の聖女』の理性をあそこまで狂わせている……。間違いない。あの少年こそが、予言にあった『魔王の芽』だ」
「ええ。あの無自覚な魅了の力……あれは神の愛を騙った、悪魔の誘惑です。完全に目覚めれば、世界はあの少年に狂わされてしまう、世界の秩序がめちゃくちゃになってしまう」
彼らは即座に、王と教皇へ伝令を飛ばした。
『――魔王の芽を観測。直ちにこれを摘み取れ』
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