違和感は、まだ気のせいだと思っていた
勇者候補として選ばれたレオンは、唯一のハズレスキル【逆転】を持つ存在として仲間に見捨てられた。
ダンジョン最深部で裏切りに遭い、胸を貫かれる。
その瞬間、死すら反転させる異常な力が発動する――代償と引き換えに。
ダンジョンの通路は、静かすぎた。
俺は歩いている。
どこへ向かっているのかは分からない。
だが、進むべきだという感覚だけはある。
(……理由は、あったはずだ)
そう思った瞬間、思考が一瞬だけ途切れる。
「――そこまでです」
声。
視線を上げると、通路の先に一人の女が立っていた。
魔法使いの装束。
勇者パーティーの一人だと、頭のどこかが告げる。
だが、その“名前”が出てこない。
「あなたは危険です。ここで排除します」
静かな宣告。
敵意は明確だった。
(敵……?)
そう認識するまでに、少し時間がかかる。
「……俺は、何をした?」
問いかけた瞬間、自分でも違和感を覚える。
何をしたかを説明できない。
いや、“思い出そうとすると抜ける”。
「答える必要はありません」
魔法使いが手を上げた。
空気が揺れる。
魔法陣が展開される。
――速い。
普通なら避けられない初動。
だがレオンの身体は動いていた。
横へ。
一歩。
最小限の回避。
(今、どう判断した?)
分からない。
考えようとした瞬間、頭の中が白くなる。
『逆転発動』
声が響く。
魔法が放たれる。
炎弾が直線で殺到する。
通常なら回避不可能な密度。
だが次の瞬間――
すべてが消えた。
いや、違う。
「……え?」
魔法使いの声。
放たれたはずの魔法が、発動前の状態に“戻っている”。
レオンの胸の前で、空間が歪んでいた。
『逆転:魔力干渉』
理解できない現象。
だが、結果だけが残る。
魔法は“なかったこと”になっていた。
「......魔法が.......存在していない?」
魔法使いの声に動揺が混じる。
俺は答えようとして――止まる。
(何をした?)
思い出せない。
だが、身体は勝手に動く。
次の攻撃が来る前に、一歩踏み込む。
魔法使いが防御結界を張る。
完璧な防御。
通常なら突破できない。
だが。
結界が“崩れた”。
崩壊の理由がないまま、ただ壊れる。
「……っ!」
魔法使いが後退する。
俺はその様子を見ている。
勝っている。
その事実だけは理解できる。
だが――
どうやって勝っているのかが分からない。
(俺は今、何をしている?)
考えようとした瞬間。
また、抜ける。
『逆転発動:思考領域を一部消費』
「……またか」
呟く。
少しだけ、考えづらい。
だが問題はない。
戦える。
それだけは確かだ。
魔法使いが詠唱を始める。
今度は本気だ。
空間が圧縮されるような圧力。
(これは危ない)
そう判断する前に、身体が動く。
踏み込み。
剣を振る。
魔法使いの視界が揺れた瞬間――
詠唱が途切れた。
「……っ、なんで……!」
倒れる寸前、魔法使いが何かを言いかける。
だが俺には届かない。
聞こえているはずの声が、意味を持たない。
勝った。
そう認識する。
だが同時に思う。
(今のは、どうやって勝った?)
答えは出ない。
思い出そうとすると、また抜ける。
俺は剣を下ろす。
魔法使いは倒れている。
戦闘は終わった。
――はずだ。
「……問題ない。まだ、戦える」
そう呟く。
その言葉だけは、なぜか正しい気がした。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回から、レオンに起きている変化が少しずつ明らかになっていきます。続きも読んでもらえたら嬉しいです。




