210 長距離移動だった一日
「じゃまや! 道を塞ぐなや!」
ペガがものすごい上から目線な感じで、ナンパ男達に命令しました。幼女モードのペガは背伸びしたおませな少女という感じで微笑ましいのですが、JKモードになると迫力が増して気の弱い男性だとたじろいでしまいそうですね……
「なんだと? せっかく俺たちが親切に……」
「いかづち!」
ペガは男の言葉を遮るように、『いかづち』魔法を唱えました。実際にはペガは雷魔法は使えないのですが、僕がペガの発声にあわせて無詠唱でいかづち魔法をペガの指先を起点に発動させます。
「うわっ!」
いかづち魔法はバリバリッという轟音と閃光を伴って男達の足下に落ちたので、彼らは驚いて地面にへたり込んでしまいました。
「い、いきなり、なにすんねん!」
「「いかづち!」」
追い打ちでシロとクロも魔法名を唱えましたので、それにあわせて僕も無詠唱で同様にいかづち魔法を2人の指先から発動させます。
「……も、もしかして……」
「……そうやな……」
「ほ、ほんまに、3人とも詠唱省略でいかづち魔法を打ちよったで……」
いかづち魔法は勇者の魔法として有名ですが、勇者しか使えない魔法ではありません。それでも雷属性の魔法使いは希少だし、そのほとんどは静電気魔法という対象を驚かせる弱い魔法しか使えないようです。いかづち魔法を使えたとしても雷魔法のレベルはほとんどが1しかなく、発動する稲光はすぐに拡散するので射程距離は短いです。さらにいかづち魔法はこの世界の人々にはイメージが難しいようで、結構長い詠唱を必要とするようです。魔力消費が大きい分威力も高いのですが、使い勝手が非常に悪い魔法なのです。
ところが、詠唱省略が使えるといかづち魔法の有用性は高まります。さらに雷魔法のレベルが上がると稲光の拡散を抑えることができ、射程距離がどんどん伸びていくのです。現状の僕の雷魔法はレベル7ですが、ここまでくると氷弾改魔法よりもはるかに遠くまで威力を発揮することができます。というか、見た目はほとんどビーム砲になり、千里眼魔法と組み合わせることで、スナイパー的な運用もできそうです。相手に気付かれないままに、安全なところからの狙撃による暗殺が可能ですね……
「3人だけではないで!」
ペガがさらに追い打ちをかけるような発言をしました。
「ま、まさか……」
「いかづち!」
ここまで舞台を整えられてしまったら、僕もいかづち魔法を打つしかありませんね(笑)
「ひ、ひぃ~!」
いままではレベル2のいかづち魔法を代理で発動させてきましたが、とどめはレベル3の魔法にしてみました。これまで以上の轟音と閃光に、男達は完全に腰を抜かしてしまったようです。1人は失禁しているかも……
ちなみにこの世界の人々は、基本的には排便や排尿は無意識に生活魔法で済ましてしまうので、排泄行為はわざわざ意識的にするか、魔法が使えない場所にいるときにしか実施しません。つまりは普通に生活している限りは排泄行為をすることがないのです。ウォシュ○ットなどがあるはずがないこの異世界では、僕にとって本当に助かる設定です(笑)
ただし、非常に驚いたときには元世界同様に失禁することがあるようです。それは非常に恥ずかしいことのようで、周りにいるギャラリーにもクスクス笑われてしまってます。武士の情けで、失禁者には清掃魔法を掛けてからその場を後にしました。
これでルージュカルテットの鮮烈なデビューは無事にできたことでしょう。今夜はあちこちの酒場で僕等の話題が沸騰し、明日の朝には多くの人達が風変わりな4人組のことを認識しているはずです。
ルージュカルテットとしてアケミ商会本店に入り、会長室で元のマサト一行に戻りました。今度はすでに納期が過ぎている服を受取りに行きます。ルーモイ市付近にシロ、クロ、ペガとの4人で瞬間移動し、馬車に乗って西門からルーモイ市に入城します。衛兵さんからは顔パスで入れてもらい、そのままコノー服店に直行です。
「お待ちしておりました! 私の最高傑作ができております! さっそく着ていただき、問題が無いかチェックいたしましょう!!」
相変わらず厳つい顔した歴戦の冒険者という感じのコノー店長でしたが、以前よりも少しやつれている気もします。もしかして、僕等の服を仕立てるので精根尽き果てているのかもしれません。まあ、それでも異常にテンションが高いので、ちょっと恐怖を感じてしまいました……
コノー店長のいう最高傑作は、それはまさに豪華絢爛、宝塚?って感じの目を惹く出来でした。いや、決して派手だとかケバケバしいとかの感じはありません。吸い込まれるような漆黒の生地など、高価なダンジョン産材料を贅沢に使った僕等の服は、どんな豪華なパーティーでも全員の衆目を集めてしまうだろう高貴な輝きを伴っている感じです。すべての参加者を置き去りに、僕等がパーディーの主役の座を独占しちゃいそうな雰囲気です。
「おお、思っていた以上に素晴らしい! 皆さんが飛び抜けて美男美女であることが、服との相乗効果でものすごい輝きを放っています!!」
コノー店長さんはものすごいテンションになっているところを、僕等はドン引きしながら退店しました。服の出来には文句のつけようがありませんが、残念ながら決して着ることはないでしょう……
その後はイセ服店も寄って服を受け取りましたが、こちらは僕の期待通りのフォーマルな感じの出来上がりだったので、必要に迫られたらこちらの服を使うことになるでしょうね……
ルーモイ市を東門から出るときにも、衛兵さんからは顔パスでした。僕等はすっかりこのルーモイ市の衛兵さん達には知られた存在のようです。夕方から出かけることに少し心配もされましたが、『マサト様のことだから大丈夫でしょう』などという隊長さんからの発言もありましたので、『代官であるソウヤ様の友人』って認識だけではないようですね……
ルーモイ市から離れたあとは再びアケミ商会に瞬間移動し、ルージュカルテットとなってサニミ市の大通りを歩きます。日が落ちて僕等の冒険者証が見えにくくなったためか、再びナンパ男達に絡まれましたが、先ほどと同様にいかづち魔法による威嚇を行いました。これで今夜の酒場の話題を僕等で独占することが確実ですね(笑)
アケミさんの紹介状を持って再び今夜は丁字路ホテルで夕食と宿泊です。豪華な食事と最高級のスイートルームで快適な夜を過ごすことができました。
今日はサニミ市→テンサイ村→コダダンジョン大空洞→テンサイ村付近→サニミ市→ルーモイ市→サニミ市とたくさんの移動をしました。無駄に長距離移動しましたね(笑)
そして明日11月19日は再び大峡谷で盗賊討伐をしてベイシック国です。オーキ町のフルーツ王、グース商会のグースさんとの約束の日でもあるので、またもや無駄に長距離移動する必要があります……
「冒険者ルージュカルテットと行商人マサト一行なので、アリバイ工作は問題ないニャ!」
クロが相変わらず理解不能なことを言っていますが、アリバイ工作って誰に対してものなのでしょうか?




