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207 アケミ商会の懸念事項

 サニミ南町はサニミ市の出張所のような場所で、サニミ市から少し南にある大断崖をひたすら階段で降りたところにあります。大断崖の階段は高さ1000mもあるので、馬車は使えず人力で荷物を運ぶ必要があるのですが、ここでは荷物を魔法袋に入れ、商会に雇われた元冒険者で体力値の高い人達が、片道1時間程度で往復しているそうです。


 町へ入ってみると、たくさんの倉庫街とともに飛行船の駐機場も見つかりました。


「飛行船が停まっているニャ!」


 クロの目にも真っ先に飛行船が()まったようです。


「あの飛行船がダンジョン街道を回ってくれれば、延々と歩かなくても済みますね。いっそのこと飛行船を購入されてはいかがでしょうか、マサト様」」


 飛行船の運賃はかなり高いそうですが、今の僕等なら問題なく支払うことができるでしょう(笑) そういう意味では、シロの言うとおりこのサニミ南町から各ダンジョン国家を巡ってくれていれば、迷わず利用したことでしょう。飛行船の購入に関しては、元世界ならプライベートジェットを個人所有って事ですね。僕のような一介の行商人が所有するものではありません……


「聞いた話だと現在の魔石不足で、運行本数はかなり絞られているようだよ」


 なにしろ飛行船は小型で強力な最高クラスの魔導発動機を使う必要があるため、燃料としての魔石もレベル60以下の魔石を2つも使います。つまり燃料代で時価2億エン近い費用が必要となるのです。どうやら魔王の出現とともに魔石を買い占めている人達がいるようで、従来の何倍もの価格になっているのでした。


「魔石はマサト殿がいくらでも用意できますわ。いっそのこと飛行船の運航会社もマサト殿が買収したらどうかしら?」


「一介の行商人がそんなだいそれた事はやらないよ……」


 プライベートジェットの購入どころか航空会社の買収とは、ペガの提案は大胆すぎます(笑)



 町の中心部はサニミ市にある商会の出張所とその倉庫が並んでいます。大きな商会や宿、飲食店がほとんどないのですが、気温が高くて砂埃が多いこの大断崖の下の町よりも、1時間程度階段を上ったところにある1000m上のサニミ市のほうがずっと快適に過ごせるためでしょう。



「あれ?」


 商会の出張所の看板を見ていると、気になる店名がありました。


「ほう、アケミ商会とありますね。偶然でしょうか?」


 シロも同じ店を見つけたようです。


「とりあえず店の中を見てみようか?」


 店に入るとダンジョン街道で稼ぐ冒険者向けの商品が並び、さらにダンジョンでゲットした戦利品の買取もやっているようです。


「これはこれは、マサト様ではないでしょうか?」


 なんと僕を知っている店員がいました。詳しい話を聞くと、この商店は本当にサニミ市のアケミ商会の支店でした。何故そんなことになったのかというと、サニミ市のとある商会がアケミ商会の魔石販売に対して嫌がらせをしてきたので、アケミさんとミオさんとで正当防衛した結果、サニミ市の南門付近とこのサニミ南町の支店を傘下に収めることになったようです。

 アケミ商会は新参者の若い女性が会長ということで軽く見られており、さらに不足気味の魔石を潤沢に供給していたので、それを脅して奪ってしまおうと悪い考えをもった商会があったようです。アケミさんは詠唱省略も使える一流の魔法使いでレベルが40台後半もあり、ミオさんもレベル50以上のバリバリの前衛タイプで、さらにふたりとも僕のバフを受けて大幅に強化(チート)されています。その彼女たちに対抗できる冒険者など、そう簡単に商会が用心棒として雇えるわけがありませんね……


 もっと詳しい話は直接アケミさんから聞くことにして、3人で頑張って1000mの大断崖の階段を上りました。僕等が全力で上れば10分も掛からなかったのかもしれませんが、そこそこ混み合う階段でそんな目立つことはできませんので、わりと抑えて30分程度の所要時間で上りました。ホントはもっと自重したかったのですが、クロとペガがいつものように張り合ってスピードを上げていくのを、なんとかブレーキをかけていく必要がありました……



 サニミ市に南門から入ると、すぐ目立つところにアケミ商会の支店がありました。


「結構大きい支店だニャ」


 先ほどサニミ南町で話を聞いたところでは、もっと弱小の商会が喧嘩を売ってきたのかと思っていましたが、南門支店は結構立派な建屋を構えています。そこから旧東門付近のアケミ商会本店に移動すると、従業員さんにすぐにアケミ会長の執務室に案内されました。

 すぐにお互いの近況報告をして、ベイシックダンジョンで入手した魔導具を商会に卸します。


 現在アケミ商会で問題になっているのが2点あり、ひとつめが魔石不足とのことでした。魔石販売に直接ちょっかいを掛けてきた商会は、正当防衛で傘下に収めてしまいましたが、このサニミ市でも最大の魔石取扱量を誇る商会があの手この手でアケミ商会の魔石を買い占めようとしていて、魔石の在庫が尽きそうになっていました。対策として購入数量制限とか抱き合わせ販売などもしているのですが、人海戦術や砂糖などの転売が容易な商品と一緒に購入するなどの手を打たれているようです。


「販売する魔石を確保するために、アタイとミオとで毎日森に入って木の伐採と魔物狩りの毎日や!」


「それはそれは…… あまり危ないことはしないでね……」


 いくらアケミさんやミオさんがバフも受けて強いとはいっても、狂い熊やゴーレムの集団に囲まれたら危なそうです。


「大丈夫やマサト君。危なくなったら瞬間移動魔法を詠唱省略で唱えてサニミ市に戻ってくるつもりや。まあ、実際にその必要が生じたのは2回しかあらへんで」


 2回も! まあ、確かに瞬間移動魔法がすぐに使える状態であれば、それほど危険性はないのでしょう……


「毎日魔物討伐だと、商会の仕事はどうしているニャ?」


「魔物討伐は半日だけや。残り半日はちゃんと仕事しているで。まあ、店長のキーエルさんについて仕事を教えてもらっている段階なんやけど……」


 アケミさんは故郷の村では小さな商会を取り回していましたが、ここサニミ市で設立したアケミ商会のような規模の大きな商会の運営は、さすがにいきなりうまくやるのは難しいでしょうね。キーエルさんは父親が問題でしたが、本人はいたって真面目な人なので雇って正解でした。


「マサトの方で、魔物討伐はしてなかった?」


 ミオさんが僕に質問してきました。確かにベイシックダンジョンでもひたすら魔物討伐はしていましたが……


「ずっとダンジョンボス討伐をしていたニャ! 楽しかったニャ! でも、それでゲットできる魔石はレベル51以上しかないニャ……」


「なんやて! ずっとダンジョンボス討伐って…… さすがわマサト君やわ……」


 ボスを討伐していたのは主にシロとクロなんですが……


「久しぶりにアケミの『なんやて!』が聞けた気がするニャw」


「うっ、もう一生分言うたと思おていたんやが……」


 アケミさんと言えば『なんやて!』ですよね(笑)



 アケミ商会のもうひとつの懸念点とは、破綻寸前の飛行船運営会社についてサニミ市の各商会に身売り話が回っていて、それを受けるかどうか検討中ってことでした。運営会社はダンジョン街道で活動する有力な冒険者達に定期券を販売していたのですが、このところの魔石の高騰で経営の見込みがたたず、非常に困っているそうです。魔石不足で飛行船の稼働中止となれば、定期券を所有する有力な冒険者達に対する債務不履行となり、運営会社経営陣のステータスには『正当防衛』が表示されてしまうおそれがあります。運営会社にとってはまさに命がけの状況なので、捨て値でも良いから債務ごと会社を買い取って欲しいとのことでした。


「ウチらが買う場合に問題なんは、飛行船用の魔石をどうやって入手しているかって事やわ。さすがにレベル60以下の魔石だと、その入手経路に注目が集まってしまいそうやねん」


 実際には僕等からいくらでもレベル60以下の魔石は供給できるのですが、対外的にアケミ商会がどうやってその魔石を入手しているのか、その説明が必要になるということですね。もちろん、僕等から高レベルの魔石をアケミ商会に供給しているということは、気楽な行商生活を続けるためにも秘密にする必要があります。

 しかし、高レベル魔石の供給元として第三者に推定させるダミー冒険者についてはアテがあります。


「ダミーの入手経路についてはどうにかなるよ」


「そうや! 先ほど話があったルージュなんとか? やな!」


 さすがはアケミさん、するどいです!


「さすがはマサト様です! そこまで読んでマントを集められていたのですね!」


 シロがいつものように感心してくれていますが、アケミ商会に飛行船運営会社の買収話が来るなんて読んでいませんよ……


「それでは、早速明日はルージュカルテットのサニミ市デビューですわね」


「そうだね。少し目立つ登場をしてからアケミ商会には行ってこようか」


 周囲の人達には、正体不明の超強力な冒険者パーティーがアケミ商会に魔石を卸していると思わせる必要がありますね。


「魔石不足に関しては、どうする?」


 ミオさんがもうひとつの懸念点について質問してきました。


「みんなで大空洞に行って、大暴れするニャ!」


 大空洞ってルーモイ市の近くにあるコダダンジョンの五階層ですね。あそこはものすごい数の岩トカゲがいるので、魔石をたくさんゲットすることはできますが……


「大空洞の岩トカゲだと、レベル10以上の魔石しか得られないよ……」


「それじゃあ、その後に森に行って森林伐採するニャ!」


「……まあ、そうしようか。明日は大空洞、材木調達、夕方にルージュカルテットのデビューって事だね」


「もりだくさんですわね」


 大空洞と聞いてウキウキな感じのシロとクロに対して、ペガはやれやれといった表情を浮かべています。


「大サービスニャ! 来週もサービス、サービスニャ!!」


 明日って言ってるのに、なぜ来週? まあ、エ○ァンゲリオンの予告パロディーなんだろうけど……




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