206 めてお
昨晩泊まったベックホテルを出発したあとは、そのままベイシック王国からも出国し、ダンジョン街道を通ってサニミ市へと向かっています。
「なんか後をつけられている気がするニャ……」
「気がするではなくて、意図的に後をつけてきていますわ!」
クロやペガが言うように、僕等が歩くその後200メートルくらい離れて、商人の集団がついて来ています。僕等が大量の山賊を討伐したって噂が広がっているようで、商人達はサニミ市へ安全に移動するために、僕等を先頭にして山賊よけとして使っているのでしょう。
「護衛費用はもらっていないニャ!」
「そんなものもらっちゃったら、ちゃんと護衛する義務が生じちゃうよ」
僕等の本業は行商人なので、他人に便利に使われる冒険者稼業はなるべくやりたくないのです。
「そうですわね。どこかで昼食を取る際などにうまく撒くことができれば、彼らと離れることもできるはずですわ。そうすれば馬車で飛行してサニミ市までひとっ飛びですわ」
「そんな状況になったら、馬車ではなく瞬間移動をするニャ」
いつものペガとクロの口論はスルーしましょう……
大峡谷の入口に、『山賊と落石に注意!』という看板がありました。
「そんなの、注意しようがないニャ!」
「山賊はともかく、落石は落っこちてくる石ではなく、落ちている石に注意って意味ですわよ」
「ニャニャ!? ま、まあ、それは、知っていたニャ!!」
落石注意って道路標識の意味については、僕も元世界の知識として知っていました。しかし、その知識を教えてもらう前までは、僕も上から落ちてくる石に対してどうやって注意すればよいのか疑問に思っていたので、クロの勘違いは笑えません。
さらに言えば、シロやクロの高い体力値に由来する動体視力を持ってすれば、不意に落ちてくる石に対しても、十分対応は可能でしょう(笑)
大峡谷に入ってからは、商人達の集団はさらに僕等との距離を詰めて50メートルくらい後方にいます。とても馬車を出して撒くことなどできそうにありません。こちらはみな身軽なので、走って先に行っちゃうという手もありますが、さすがにそれはあからさまだし、不自然すぎますね……
大峡谷をしばらく歩いていると、前方から視線を感じました。
「誰かに見られているニャ……」
「うん…… 千里眼で確認したところ、どうやら山賊のようだね」
「どうしますか? ベイシック王国から依頼された山賊の一味かもしれませんし、追いかけて殲滅いたしましょうか? 私一人でも充分可能でしょうから、マサト様は少しお待ちください」
「いや、ここは瞬間移動魔法が使えるクロが適任ニャ! 万が一問題があった場合には、すぐにマサトの元に戻ってくるニャ!」
確かにふたりが言うように、レベル50程度の山賊が率いるグループなどひとりで充分殲滅が可能でしょう。それに依頼されていた山賊、たしかノルムルというボスがいるグループだったのなら、探す手間が省けて良いかもです。さらに、僕等の後ろから少し距離を置いてついて来ている商人達は、僕等に護衛依頼も出さずに実質山賊よけとしてうまく使われている感じでなので、ここは全員でアジトに乗り込んで商人達から姿を消しましょう。
「奴らのアジトには全員で乗り込もう!」
「……なるほど、後ろの商人達をついでに撒くことができますね。さすがはマサト様です!」
シロはすぐに僕の意図に気付いたようです。
「マサト殿も案外いぢわるな事を考えるのですわね…… まあでもその考えには賛同いたしますわ」
「そうと決まれば、クロが一番乗りニャ!」
クロが真っ先に岩陰に隠れている山賊めがけて突っ込んでいきました。僕等もあわててクロの後を追います。僕は千里眼で視線を一度曲げて岩陰の先を見通します。山賊はさらにその先を曲がって見えなくなってしまいましたが、その直後をものすごい勢いでクロが追っていきました。クロひとりでも大丈夫だと僕の直感は告げてはいますが、少し心配です。僕等も先ほど山賊がいた岩陰に入ったら、後からついて来ていた商人達からも見えなくなったはずなので、すかさず瞬間移動魔法で次のカーブまで短い移動をしました。その先で見たものは、そこはもう山賊のアジトとなっていて、すでに数人の山賊がクロによって討伐されているところでした。
「私も加勢します!」
クロがアジトの外の山賊を相手にしている横をすり抜けて、ハラターマの槍を出したシロが山賊のアジトの中に突っ込んでいきます。
「終わりですわね……」
ペガが呆れたように呟きます。
「そうだね……」
まあ、あの2人に任せておけばすぐに終わるでしょう……
案の定山賊討伐はすぐに終わり、山賊達の鑑定プレートや装備品、そして山賊達が奪った金品の回収に僕が呼ばれました。回収した鑑定プレートにはお尋ね者の『ノルムル』はいませんでした。それどころか山賊達のレベルはせいぜい30程度で、山賊ならまあそんなもんかという感じですかね……
「それでは街道に戻りますか?」
シロが僕に質問してきます。その意味は、ここで少し時間を潰して外で待っているかもしれない商人達を待たせるのかを聞いているのでしょう。ここですぐに街道に戻ってしまうと、山賊のアジトを殲滅した時間が余りに早すぎます。
「少し早いけど、昼食にするかニャ?」
「まだ時間は11時くらいなので、お昼には少し早いね。僕等がここで時間を潰している間に、街道で待っている商人達が本当に山賊に襲われてしまっても、それはそれで後悔しそうだから街道に戻ろうか」
「さすがはマサト様です! その寛大なお心が、街道で待っている連中に少しでも伝われば良いのですが……」
アジトの広間からクランク状の狭い道に出ようと歩き出したところ、前方上空からの落下物を感知し、すぐに後ろに飛びすさります。
「落石ニャ!」
どうやら自然な落石が発生したようです。先ほどの落石注意の看板に対する認識は、少しあらためる必要がありそうです。
このままここで待っていれば落石の被害には遭わなそうですが、ふと思いついちゃったことがあるので試してみましょう。
「収納!」
通常の収納魔法では、動きの速いものは収納できなかったはずです。それは、自分が完全に対象を掌握していない物体は、収納魔法の対象にならないという説明がされているようです。しかし、僕の収納+魔法は特別なレア魔法だし、さらに僕の空間魔法レベルが空前絶後に高い10というのもあってか、動きの速いものも射程の10メートル以内なら収納できる気がしたのです。そして、実際に落ちてきている石は完全に収納することができました。もしかしたら、僕も空間魔法使いとしては高すぎる体力値によって動体視力も向上している効果もありそうです。
「おー、収納したニャ!」
「さすがはマサト様です!」
「えーと…… 収納魔法では自分が動きを完全に掴んでいるものしか、収納できないはずでしたわ……」
先ほどの僕の考察を3人に説明したところ、納得して貰えました。
「飛んでくる矢とか魔法も収納できるのかニャ?」
クロがとんでもないことを言い出しましたが、シロやペガもできるかもと賛同したため、実際にテストをすることになり、本当にできちゃいました。収納+魔法でも他人の所有物は収納することができませんので、すでに放った矢や魔法については所有権が放棄されているようです(笑)
収納した矢を出そうとしたところ、収納前に矢が有していた運動エネルギーを再現するかどうかの選択ができました。運動エネルギーを再現したままの矢を取り出したところ、見事に矢は勢いよく飛び出しました。飛び出す方向も指定して取り出すことが可能でした。
「魔法や矢を収納しておくニャ!」
クロがそんな提案をしてきましたが、それよりも良さそうなアイデアが浮かんできました。
「それよりも落石を収納魔法にストックしておこう」
「上から石を落としてくれば良いのかニャ?」
「いや、その必要はないよ」
まずはそこらに落ちている石や岩をたくさん収納します。そして崖を少し登って、そこからさらに10メートル上から収納した石や岩を落下させ、10メートル下で再び収納します。それを繰り返していくと落下速度はどんどん加速され、最終的にはものすごく高い運動エネルギーを石や岩に与えることができました。
調子に乗って大きめな岩に対しても同様の作業を繰り返しましたが、よく考えるとこれはものすごい攻撃力を持った攻撃になっちゃいそうです。ビュウビュウと風を切る音が大きくなっていき、街道で待っている商人達にも聞こえているかもしれません。
「隕石攻撃ですわね……」
「あまり人前では使えない程の威力がありますね。さすがはマサト様です!」
「秘密兵器ニャ! メテオ攻撃ニャ!」
相変わらずクロの語彙は何故か元世界知識由来が多いですが、『メテオ』の命名はドンピシャです。隕石攻撃発動のショートカットとして、『メテオ』の名称を使うことにしましょう。
このメテオの弾込め作業はわりと楽しい気分になれたのですが、その想像される威力の高さから30分程度で切り上げました。まあ、30分でも千人規模の軍隊を殲滅できそうな破壊力が準備できちゃいましたが……
山賊アジトから出て街道に戻ると、先ほど後をつけてきていた商人達は、みんな後方でそのまま待機していたようです。先に行っちゃった商人達はいなかったようですし、この間に襲撃してきた山賊もいなかったようです。
結局、このまま商人達を引き連れてのんびり歩き、大峡谷を抜けて大断崖直下のサニミ南町まで到着したのは夕方になってしまいました。商人達がいなければさくっと瞬間移動してサニミ市付近までひとっ飛び、昼前にはアケミ商会に到着できましたね……




