205 ベイシック王国での宿
冒険者ギルドでの話が無事に終了しました。冒険者ギルドの出口まで見送りに来てくれたギルド長さんにおすすめのレストランと宿を聞いたところ、定評のあるレストラン付きの宿を紹介してもらえることになりました。ギルド長さんが紹介状を書いてくれるということでカウンターに戻っていたところ、先ほどのメイフォン様夫妻がちょうど通りかかりました。
「どうしたのだ?」
メイフォン様が紹介状を書こうとしているギルド長さんに質問します。
「これはメイフォン様。マサト殿に宿とレストランのお勧めを聞かれたので、紹介状を書いているところです。それよりも、メイフォン様はまだギルドにおられたのですね?」
「ああ、別件でギルド職員に聞きたいことがあったのでな…… それよりも、マサト殿の宿ならば、我が王城に招待しよう! 夕食ももちろん用意するぞ。いろんな話を聞かせてもらおう!」
なんとメイフォン様に王城へ招待されちゃいました。しかし、そんな堅苦しい場には正直行きたくありません。それに、余計な話をしてボロを出しちゃう可能性もあります。
「そんな、王城なんて……」
なんて言って断ったら良いのか、言葉が続きません……
「まあ、いきなり王城に招待や言われても、マサトはんも困ってしまうわな。それよか宿の紹介状をウチらで書いた方が良いのとちゃう?」
僕が困っているとエイビー様が王城への招待を取り下げてくれたのは良いのですが、紹介状を王族に書いてもらうなんて、それはそれでとんでもないことな気がします……
「そうだな…… では私が宿への紹介状を書いておこう。宿はどこだ?」
そう言うとメイフォン様はギルド長さんからペンを取り上げ、カウンター上に用意してあった羊皮紙に向かいます。
「ベックホテルです。食事も絶品ですし……」
ギルド長さんも困惑気味に回答しました。いきなり王族からの紹介状をもった冒険者が訪れるなんて、宿にとっては大事件ですよね……
「なるほど、あそこのレストランは我が国有数の美食を誇るな……」
メイフォン様はサラサラとペンを走らせて、あっという間に紹介状を書き上げ、羊皮紙をくるりと丸めます。そこにメイフォン様の秘書らしき方が溶けた蝋をさっと垂らし、メイフォン様がその蝋に指環を押しつけて親書が完成しました。
「宿の代金は私が払うように書いておいた。これを持っていきたまえ」
「ありがとうございます」
ここまでしてもらったのを拒絶するわけにもいかないので、頭を下げて有り難くちょうだいしました。頭を上げたときにはすでにメイフォン夫妻は出口に向かって歩いています。
「この紹介状、本当に使っても良いのでしょうか?」
ギルド長さんに紹介状の取扱を聞いてみました。
「……メイフォン様が代金まで払っていただけるとおっしゃっていますので、宿からの代金請求が発生しないと逆にメイフォン様の不興を買いかねません。それに宿にとっても大変名誉なことなので、遠慮せずに紹介状は使ってください」
「まあ、そういうことでしたら……」
ギルドを出て紹介してもらった宿、ベックホテルまで歩いていきます。宿までの経路はこのまま大通りを数分歩くだけなので簡単です。
「さっきのクロのエイビー様への突っ込み、ちょっと激しすぎでしたわ」
クロの王族ボケへの突っ込みに対して、ペガも少し思うところがあったようです。
「王族といえども、ボケにはちゃんと突っ込んであげないといけないニャ。それにエイビー様も喜んでいたニャ!」
たしかにエイビー様は喜んでいましたね。しかし、エイビー様曰く『鉄板のボケ』に対して、あそこまでのツッコミを入れられたことはなかったとも言ってましたので、やはり従来は相手に遠慮されて、やんわりと冗談に対する愛想笑いを返されていただけなのでしょう……
「それに、気を悪くして何かしてきたら、逆に正当防衛で国を乗っ取ってしまえば良いニャ!」
いきなり物騒なことを言い出しましたよ……
「そうですね…… いくら王族といえどもマサト様に敵対するものには容赦しません! 手を出してきたら、良い機会として返り討ちにしてこの王国をマサト様のものにしてしまいましょう」
なんとシロもクロの恐ろしい話に乗ってきました。
「……2人の話は冗談にならないのが恐ろしいところですわ…… いくら裕福なダンジョン国家の騎士団といえども、シロ殿やクロに対抗できる戦力があるとは思えませんわね……」
ペガまでもがクロの話を冗談だと否定してくれません……
まあ実際にダンジョン国家って、過去に有力な冒険者に武力で乗っ取られることは何度もあったようなので、シロやクロの戦力を持ってすれば容易に可能なのかもしれませんが…… 僕は国家運営なんて面倒くさいことはやりたくありません!
「僕は一介の行商人として、気楽にこの世界を見て回っていたいよ……」
「そうだニャ。王様なんて堅苦しいことは、適任者に任せるべきニャ。クロものんびりとマサトと一緒に旅をするニャ」
「そうですね。もしも国家を手に入れたとしても、その運営は商会と同じく信頼できる者に任せましょう」
「跡取り王女を囲うのですわね? それは良い考えですわ」
なぜか3人とも、僕の希望とは大いに異なる方向に話を持って行ってる気がします……
ベックホテルは石造りのすごく立派な宿でした。その威容はサニミ市で泊まった高級宿に引けを取りません。その豪華な受付に恐る恐るメイフォン様からの紹介状を出したら、それまでも丁寧な応対をしてくれていた受付係の顔が引きつり、すぐに対応がホテルの支配人とやらに変更され、最高級の部屋に案内されて、サニミ市の高級宿の食事よりも豪華な夕食を堪能することができました。やはり王族からの紹介状というものは、ものすごい威力を発揮するようです。
今夜の同衾はペガの番です。シロとクロは特別魔法で眠らせて、最後にペガをモフろうとしたところで、ペガが質問をしてきました。
「昨夜はクロと何があったのかしら?」
昨日の朝はこの異世界に来てから1ヶ月が経ち、僕とシロ達の関係が行商のパートナーから婚約者的なものに変わりました。そして昨夜はクロとのファーストキスをしたのでした……
「な、何とは?」
「今日はマサト殿に対するクロの態度が微妙に変化していましたわ」
クロの態度? 別に僕は変化を感じませんでしたが、同性のペガには感じられたのかもしれません……
「クロと同衾する前に、何か特別なことがあったとわたくしは推測しますわ」
女の勘というものでしょうか? 恐るべしです……
「なんにもない! なんにもなかったよ!」
僕の否定の言葉に対し、ペガはじっと僕の目を見つめてきます。JKモードのペガは下着姿でとても色っぽいのですが、今はとても迫力を感じています。
「……実は、クロとはキスをしたんだ……」
ペガの迫力に負けて白状しちゃいました……
「やっぱりナニかあったのですわね! それではわたくしともキスをしてくれますわね?」
そう言ってペガは目をつぶり、その色っぽい唇を突き出してきます。
まあ、キスはシロともクロともしちゃったんだし、ペガともしなきゃ不公平なのかな? などと自分への言い訳をしながら、そっと唇を重ねました。するとペガは僕にぎゅっと抱き付いてきたので、その大きなおっぱいが僕の胸に押しつけられて……
長くも短くも感じられた抱擁とキスを終えて、ペガは恥ずかしそうに先にベッドに潜り込みました。クロとは大人のキスまでしちゃったんだけど、さすがにそこまではペガから求められることがなくて、ちょっとほっとしました。
翌朝は朝食も豪華なものが用意されていました。そしてチェックアウトの際にはもちろん料金の請求はありません。さらに支配人を含めた多くの従業員がずらりと並んでのお見送りをロビーでされて、『またのご利用を心よりお待ちしております』などと言われましたが、ここまでの待遇はこちらも恐縮してしまうので、次回からは違う宿に泊まることにしましょう……




