204 ベイシックダンジョンの冒険者ギルドにて その3
「マントの購入の他にもうひとつ依頼事項があるのだが、よろしいか?」
メイフォン様からも僕等に依頼したいことがあるようです。奥様のエイビー様からの依頼が最初だったのを見ても、このご夫妻の力関係がうかがえますね……
「ええ、どうぞ」
とりあえず聞くだけ聞いてみましょう。いやなら断れば良いのです。僕等はこの国の臣民ではないので、たとえ王族の依頼といえども拒否することは可能でしょう。
「君たちにはサニミ市へのダンジョン街道沿いにある大峡谷にて、多数の山賊を討伐してもらったが、実は討ち漏らしている山賊グループがある。それを殲滅して欲しい」
大峡谷は砂漠の中に突然現れる岩山の間を縫うように進む道で、山賊が身を潜めることができる死角がたくさん有りました。そこを通る自分たちよりも弱そうな商人を狙って、山賊達が襲いかかってくるのです。僕等は到底強そうな護衛を従えた商人には見えませんので、たくさんの山賊が襲いかかってきましたが、山賊に身をやつした連中などシロやクロの敵ではありません。まあ、シロやクロとそれなりに戦える強さがあれば、まっとうに冒険者として働いた方がはるかに安全に稼げますね……
それで、僕等が山賊を簡単に撃退している様子を見ていた他の山賊グループがいたのでしょう。そうすると、さすがにもう一度大峡谷を通過しても今度は襲ってくれるなんて事はなさそうです。山賊のアジトを捜して殲滅するなんて、さすがに行商人のする仕事では無いと思うので、いくら王族の依頼といえども断ることは可能かな?
「マサト様は行商人です。賞金首ハンターのまねごとはできかねます」
「まあ、そうであるか……」
シロが依頼をきっぱりと断っちゃいましたが、メイフォン様が気を悪くした様子はないので一安心です。しかし、エイビー様が再び乗り出してきました。
「以前はぎょうさん山賊を討伐してくれたやん? あとひとグループだけなんとかならへん?」
「あれはマサト様に降りかかる火の粉を払っただけです。今後も大峡谷を通りかかった際に山賊が襲ってきたら、その時にはきちんと撃退いたします」
再びシロが依頼を断ってくれました。僕等は冒険者稼業がメインではないので、権力者に便利に使われるわけにはいきません。僕等はあくまで一介の行商人なのです。
「あんさんらの強さは、大峡谷に生き残っている山賊達には既に共有されていると思うで……」
僕等の強さを見極めて襲いかかってくるのをやめた慎重な山賊グループならば、再び日を置いて僕等が通りかかっても、そりゃあ襲いかかってはきませんよね。
「昨日も大峡谷を通って襲われた商隊がいたようやし、このままではウチらが折角『匿名のマント』を手に入れても、サニミ市には行けへんなぁ……」
エイビー様はサニミ市に行きたいのか…… 確かにサニミ市に行くなら大峡谷を通るのが一番ですね。大峡谷を迂回するとかなり遠回りのようです。王族としてサニミ市を訪れるのなら、たくさんの護衛を引き連れて大峡谷を堂々と通過すれば、襲いかかってくる馬鹿な山賊などいないでしょう。しかしマントを着てお忍びで行くのなら、たくさんの護衛をつけるわけにはいかないのでしょう。
それにしても、エイビー様がサニミ市に行きたいというのは、インチキ関西弁、というかサニミ弁からして、やはりサニミ市出身の人なのかな?
「エイビー様はサニミ市から来たのかニャ?」
僕の疑問をクロが聞いてくれました。
「そうや! 実はこう見えてウチはサニミ出身なんや! たまには里帰りして家族に会いたいんや!!」
実はこう見えてと言われても、言葉を聞く限りすぐにサニミ出身者だとわかります(笑) しかし、それを突っ込んでも良いものか、難しいところですね……
「こう見えても何も、そのしゃべり方はどう考えてもサニミ出身ニャ!」
僕が王族のボケ(?)に突っ込んで良いのかと悩んでいる間もなく、すぐにクロの突っ込みが入りました。クロの右手がエイビー様に向けて払うような動作も同時にしており、見事にボケに対する突っ込みになっています。
「おお! 見事な突っ込みや! ウチの鉄板のボケなんやが、ここまで見事にツッコミを入れられたことはなかったで! さすがは超高レベル冒険者や!!」
エイビー様はクロの突っ込みに満足してくれたようです。まあ、相手がさすがに王族だと、たとえその発言が冗談だとは思っても、激しいツッコミを入れるのは躊躇しますよね……
「ボケとツッコミの息が合ったところなんやし、ウチらがお忍びでサニミ市に行けるように、山賊の討伐をしてくれへんか? ノルムルちゅう男がボスの山賊グループだけでもいいんや!」
見事なツッコミが入れられたことと、エイビー様の依頼を受けることにどう関連するのかは不明ですが、僕等の別働隊である『ルージュカルテット』が今後ダンジョン街道で活動するための足がかりとして、この機会を利用させてもらいましょう。
「僕等は先ほどシロが申しましたとおり、積極的に山賊を捜して討伐することは致しませんが、知り合いの冒険者パーティーならご依頼を受けてくれるかもしれません」
「ほう、なんてバーティーなんや?」
「ルージュカルテットというパーティーです」
「聞いたことあらへんなぁ……」
「これまでは遙か東の国で活躍していたのですが、今後しばらくはダンジョン街道で行動する予定の凄腕冒険者集団です」
「凄腕ねぇ…… 具体的にはどんな感じのお方なんや?」
「実は僕も彼女たちの詳細は不明なのですが…… なにしろ全員真っ赤な『匿名のマント』を身につけており、レベルなども一切不明なのです」
「なんと! マントを全員って何人おるんや?」
「4人です」
「4人とも妙齢のすごい美女ニャ!」
クロが補足をしてくれましたが、妙齢の美女ですか…… まあ、真っ赤な口紅をつけてマントを頭からすっぽり被れば少し大人びた印象になりますので、中の人がティーンエイジャーとは思えないでしょう。
しかし、僕までが妙齢の美女に見えてしまうというのは、正体を隠せるとして喜ぶべきものなのでしょうか……
「妙齢の美女ねぇ……」
エイビー様が僕等4人をしげしげと見つめます。シロやクロはものすごい美少女ですが、『妙齢の美女』と言うにはまだ若いです。ペガにいたってはまだ幼女。そして僕はもちろんどう見ても男です! すくなくともちゃんと見れば男だとわかるはず……
「受けるとしても討伐報酬が問題ニャ。ものすごい凄腕なので、安いと受けてくれないニャ!」
「そうやね…… ノルムルの鑑定プレートと直接引き換えで、1億エンでどうや?」
1億とは大きく出ましたね。まあ、先ほど16億エンをゲットしたので金銭感覚がおかしくなっていますが(笑) 山賊の討伐報酬としては破格です。
「その、ノルムルって山賊は、どのくらい強いのですか?」
ミラーゴーレムよりも強いとかであれば1億エンも妥当かもしれませんが、さすがにそんなことはないでしょう。1億の根拠を聞いてみました。
「レベルは50台と山賊にしてはかなり強いようや。それよりもかなり狡猾なのが問題で、確実に勝てる相手にしか仕掛けんのや。過去にも何度か冒険者に依頼してきたんやが、返り討ちにあって全滅してもうた冒険者パーティーか、まったく見つけられへんかった冒険者パーティーかの2択や……」
なるほど…… 山賊のアジトは上空から僕の千里眼魔法を使えばすぐに見つけることができる気がします。ルージュカルテットとしてベイシック王国の王族に恩を売って、ダンジョン街道にも名を広めておくのは有用だと思いますので、この依頼は受けることにしましょう。
「条件はわかりました。たぶん『ルージュカルテット』なら問題なく依頼を遂行することができるでしょうから、受けてくれると思います。近いうちに彼女たちと会う機会があると思いますので、その時にこの依頼を伝えておきます。少しの間、依頼達成をお待ちください」
「おお、おおきに! よろしゅうたのんまっせ!!」
メイフォン夫妻は満足げに退室されました。その後、ギルド長さんからもノルムルの山賊グループ討伐には報酬を倍額払うので、『ルージュカルテット』にはくれぐれもよろしく伝えてくれと、しつこく念を押されてお願いされました。
まあ、僕等がその『ルージュカルテット』の正体なので、ちゃんと伝わっていますよ(笑)




