197 ベイシックダンジョンをクリア
翌朝は無難な宿の無難な朝食を食べ、街道をさらに東へと出発しました。まあ、人気の無いところですぐにベイシックダンジョンの16階層に瞬間移動したのですが(笑) ダンジョン攻略の再開です。
ベイシックダンジョンは生活用品向けの魔導具が宝箱から産出されるのですが、照明、蛇口、天秤、鑑定機の他に、低層階では時計やコンロまで出てくるようになりました。時計は置き時計や懐中時計の他に小さな腕時計まであり、これらの動力源はゼンマイなので、魔石を動力源としない物は正確には魔導具ではない気がします。各種時計は意匠を凝らした物が多くて、主に男性向けの装飾品として高い値段で取り引きされているようです。ちなみにこれらの時計は謎の機構で動いているらしく、ゼンマイ式ながら時間のズレは一切発生せず、時間魔法の結果ともぴったり一致した時間を示します。ゼンマイ切れで止まっていた時計も、ネジを巻くとすぐに正しい時間まで針が自動で動いてくれました。
「おお! 針が勢いよく回って面白いニャ!」
クロが止まっていた腕時計のネジを巻いて、自動で正しい時刻に針が動くのを見て無邪気に喜んでいます。僕も親からカ○オ製電波腕時計をプレゼントされて、最初に時間合わせをしたときの感動を思い出していました。そして、お父さんのセ○コー製GPS腕時計のデュアルタイム機能で、現在地を変更したときに時差を調整する針の動きが格好良くてうらやましく思ってたことも思い出しました……
GPS腕時計では外国に行ったときに自動で緯度や経度を計測して時差を調整する機能もありましたが、この世界の魔時計も東西に大きく移動すると時差を自動で調整してくれるようです。ゼンマイ式なのにどんな原理で動いているのか、本当に不思議です(笑)
そんな感じで便利なこの世界の腕時計なのですが、僕等は全員時間魔法が使えるのでそれほど必要性を感じられません。高価な代物なので、激しい戦闘で壊してももったいないですね。G-SH○CKみたいな衝撃に強いものがあれば良いのかもしれませんが、残念ながらデジタル表示の時計はないようです。
ちなみにこの世界には振り子時計などの元世界にあった古典的な時計が存在しません。時間魔法や魔時計があるので、そのような不便な物をわざわざ大変な労力をかけて開発するモチベーションが出るわけないですよね。魔法や魔導具などの便利なツールがあるおかげで、科学技術の発展が阻害されている感じです。なにしろ現在が5685年という長い歴史があるこの世界において、人々のくらしはほとんど変化が見られていないようです。そんな時間があれば、元世界なら縄文時代から現代まで文明が発展しちゃうのです。まあ、この世界では石炭や石油、火薬なども見つかっていないようですし、文明が過度に発展しないように世界の管理者である神おじいさんが制御しているのでしょう……
16階層以降も順調にダンジョン探索を進めて、19階層で見つけた宝箱からは意外な物が出てきました。
「おお! 武器が出てきたニャ!」
あれ? このダンジョンからは生活用品しか出てこないはずです。ダンジョン街道で武器が出てくるダンジョンは、街道の中央付近にある『ウェポンダンジョン』のみだと聞いていましたが……
「……なんか短いニャ。……よく見たらクミにあげた包丁にそっくりニャ。」
どうやら武器ではなく、調理道具のようでした。このダンジョンでは魔導コンロが産出するので、魔包丁が出ても不思議ではありませんね。念のため鑑定しておきましょう。
「鑑定!」
【究極の包丁 超希少 500万エン 速度x1.2】
「クミさんにあげた物とまったく一緒だね」
「陶器の町で決闘してゲットした時には、王国でもこの一本しかない非常にレアなものだと言ってたニャ! だまされたニャ!!」
たしかに決闘相手のケクバさんがそんなことを言ってましたが、あのときの必死さから嘘を言ってたとは思えません。
「まあまあ、このベイシックダンジョンの19階層までやってくる冒険者はほとんどいないだろうし、それに今回もものすごく幸運に恵まれて見つかっただけかもしれないよ」
なにしろ19階層ともなると、ダンジョン内を普通に徘徊するモンスターとして岩ゴーレムが出てきましたので、一流と言われる冒険者であっても厳しい環境です。さらに言えばゴーレムも苦にしない冒険者パーティーならば、もっと稼げる武器が産出する『ウェポンダンジョン』などを攻略することでしょう。
「そうだニャ…… レアなことは間違いないだろうから、予備として大事に取っておくニャ!」
その後、20階層のボス部屋に到着するまでに、『究極の包丁』はもう一本見つかりましたが、まあ、まだ王国に3本しかない魔包丁として大事に扱いましょう(笑) 1本はきつねのしっぽ亭の大将にあげて、残り1本は予備としてクミさんに渡しましょうか……
そして20階層のボス部屋の前に到着したのですが……
「ものすごく立派な扉ですね……」
シロが大きな扉を見上げて感心しています。
「ものすごく、大きいニャ……」
クロはなにやら含むところがあるのか、ニヤリと笑いながら呟いています。相変わらず意味不明ですね……
「今までの階層ボスの扉とは大きさが全然違うので、このダンジョンのボス部屋の扉ですわね」
僕もペガの指摘が正しいと感じています。このベイシックダンジョンの階層がどこまであるのかという情報はありませんでしたが、一般的なダンジョンの階層としては珍しくない深さのようです。
「やっと最下層だニャ! さっそくダンジョンボスをやっつけるニャ!」
クロが躊躇なく扉を押し開けました。心の準備をさせて欲しかったのですが、まあ特に装備などの準備は必要ないと思うので、みんなで部屋の中に入っていきます。部屋の中に進むと入り口の扉が閉じられて、部屋の奥にミラーゴーレムが3体現れました。
ミラーゴーレムは攻撃魔法をすべて跳ね返し、物理攻撃耐性も岩ゴーレム以上にありますので、一般的にはかなりの脅威と見られています。森の浅いところで1体のミラーゴーレムでも発見されたら、それなりのエリート騎士団が20人以上で囲んで相手をする必要があるほどです。
まあ、3体のミラーゴーレム相手に、シロとクロの2人だけで瞬殺しちゃったのですが……
「宝箱が出現したニャ!」
ミラーゴーレムを討伐すると、部屋の中央に宝箱が出現しました。ダンジョンクリア報酬ってやつですね。ちなみにこの世界のダンジョンは、ダンジョンボスを討伐してもダンジョンが消滅したりはしません。もし消滅するならダンジョンボスの討伐は禁止されるでしょうね(笑)
「おお! 真っ赤なマントが出てきたニャ!」
クロが宝箱から中身を取り出しました。その直後、僕等の視界が暗転して別の部屋に強制転移されたようです。
「部屋が変わりましたね。ここはどこでしょうか、マサト様?」
シロが少し不安そうに僕に質問してきましたので、地図魔法で現在位置を確認しましょう。
「地図!」
僕等の前に広域地図とダンジョン地図が現れました。広域地図には現在地がベイシックダンジョンであることが示されており、ダンジョン地図には1階層のダンジョン入り口付近の部屋であることが示されています。
「ダンジョンボス討伐後の疲弊した冒険者パーティーを、安全に1階層まで送り届ける親切設計ですわね」
「少しは手応えのあるモンスターにやっと出会えたのに、また1階層から出直しとは大変だニャ!」
普通の冒険者であれば、ボス討伐後の1階層への強制転移はペガの言うとおり親切設計と感じられるのでしょうね……
「すぐに再戦したいので、20階層ボス部屋前まで瞬間移動するニャ!」
クロも瞬間移動魔法が使えるようになりましたが、ダンジョン内の瞬間移動魔法は必要魔力が大幅に跳ね上がりますので、僕に瞬間移動魔法の行使を要求してきました。
ダンジョンボスのミラーゴーレムは、レベルが55,59,63と非常に高かったので、金銭的な魅力がかなり大きいです。レベル60以下の魔石は飛行船に使われるレアな魔石で、ひとつ8千万エンでソウヤさんに引き取ってもらえることになっています。レベル61以上の魔石はさらにレアなので、もっと特別な目的に使うことができるでしょう。でもまあ、僕はレアな魔石も大量に保有していることから、ゲットしたお宝の方が興味あります。クロは魔物との楽しい戦闘が一番興味があるようで困ったものです(笑)
「まあ、まずは入手したダンジョンクリア報酬を確認しようよ……」
クロが手にしたままの赤いマントは、ものすごいレアな効果を発揮してくれそうな雰囲気をプンプン醸し出していて、期待できる感じです!




