132 ぼったくり商店 その2
「それで、本日はどんな商品をお売りいただけるのでしょうか?」
先ほどとは打って変わって低姿勢な態度を示している店主らしき男ですが、こちらを探るような眼をして、一所懸命何かを考えているようです。
僕等のレベルが見た目に反してものすごく高いのと、御者をしている少女も詠唱省略魔法を放っていたのを見たでしょうから、慎重になっているようです。
「僕等はいろんな商品を取り扱っています。日用品から衣類、野菜、お肉、魚の干物、そして小麦粉など」
僕が小麦粉と言った瞬間に、店主さんの目が少し開きました。ここガミサ領ではあまり小麦は栽培されておらず、また最近まで小麦の産地である隣のルーモイ領との間の街道が封鎖されていたので、主食である小麦の需要が足りていないはずです。先ほど店頭で確認したところ、1キログラムで1万エンというものすごい高値が付いていました。
「まずは小麦粉を買い付けたい。どれだけの量を持っている?」
「結構持っていますよ。購入希望量と金額を言ってください」
予想通り小麦の商談から始まりました。向こうは僕が持っている小麦粉をすべて買い占めたいと考えているのでしょう。僕から中途半端な量の小麦粉を高値で買ってしまった後に、もっと安い値段で他の商店に小麦を卸されてしまうと、この商店は逆ざやで小麦粉の在庫を処分するハメになります。
「どれだけの量を持っているのか先に教えてくれ!」
僕が考えていた罠には引っかからないようですね。僕の小麦粉をすべて買い占められないのであれば、購入は断念するつもりでしょう。
「僕等の在庫量に関しては企業秘密です。そちらの希望を言ってください」
僕の小麦粉の在庫はなんと35トンもあります。この商店の小売価格がキロ1万エンでしたが、その半額の5千エンで買うとしたら1億7千500万エンもの資金が必要となります。さすがにそんな現金は持っていないでしょう(笑)
「もし俺の商会がそちらの在庫をすべて買い切れなかった場合は、他の商会にも小麦粉を売りに行くんだろう?」
「もちろんです。僕等は行商人なので、この村では小麦粉は特別高く売れるという情報を得て来ています。余った小麦粉もこの村で売るのは当然です!」
男は考え始めちゃいました。なんとかして僕等の在庫量を把握してから購入の是非を決めたいと思っているのでしょう。しかし在庫量をどうやって把握すれば良いのか、その作戦が思いつかないようです。
「そっちはいくらでどのくらい売りたいのだ?」
この村に入ってきたときに会った2人の商人のうち、冷静だった男の方が店主の後ろに立っていましたが、しばらく両者無言が続いていたのでたまらず口をはさんできたようです。
「そうですね…… 100キログラムでキロ当たり1,500エン、合計15万エンでどうでしょうか?」
「えっ? そんなに安いのか……」
質問してきた男、たしかデヨリさんと、店主の2人は僕の提示した価格の安さに驚いているようです。危険な道を突破して運んできたのだから、もっとプレミア価格にしても当然だと判断しているようです。
でも僕の価格はあくまで鑑定結果をベースに考えます。100キログラムの小麦粉をこっそり鑑定したところ15万エン弱となったので、15万エンと提示しました。
まあ、1トンの量を鑑定したら、もっと単価は安くなるでしょうけど、そんなことは言いません(笑)
悩んでいる店主さんも鑑定しておきましょう。 鑑定(1)!
【牛獣人 パイク 男 34歳 レベル36 商人】
おお、結構レベル高いですね。頭も切れる感じですし、元は優秀な冒険者であったと思います。
「……よし! じゃあ、あんたが持っている小麦粉すべてをキロ当たり1,500エンで売ってくれ!」
パイクさんが決断を下したようです。キロ1,500エンなら僕の在庫すべてを買えると判断したのでしょう。えーと、例えば3トンなら450万円ですね。
「マサト様の持っている小麦粉を、すべてを購入するという売買契約を結んだということで良いのか?」
シロが低い声でパイクさんに確認をします。僕の持っている小麦粉の量はわからないのに、すべて買うという契約を結んだ場合、もしその代金が払いきれなかったら契約違反となります。その場合、『正当防衛』の黄色い文字がパイクさんのステータスに表示される可能性が高いです。つまり、『正当防衛』の名のもとに切り捨てられることもあり得るのです。この世界のルールは厳しすぎですね……
「キロ1,500エンなら払いきれるだろう…… で、どんだけ持っているんだ?」
「売買契約が成立したってことでいいんだニャ?」
今度はクロが念を押します。パイクさんは少し考えてから、了承しました。
「ああ、契約成立でかまわない!」
「ありがとうございます。それでは小麦粉をすべて出しますので、倉庫への案内をお願いします」
パイクさんに案内されて、店の奥の倉庫に到着しました。
「置ききれるかニャ?」
「縦方向にも積めば置けるでしょう」
「これだけ広い倉庫でも、平置きは無理なのか?」
パイクさんは少し焦った顔をし始めました。
「まあ、大丈夫だと思います。今からすべての小麦粉を出しますので、少し向こうを向いていてください」
「ああ、わかった……」
パイクさんとデヨリさんは入り口の方に向いて僕等に背中を見せています。僕等がどんな大きさの魔法袋を使っているのかというのも商会の秘密になりえますので、小麦粉を出す場面は見せないのも変ではありません。
それでは契約通り、僕のすべての小麦粉在庫、総量35トンあまりを倉庫に並べました。
「出したので確認してください」
パイクさんはゆっくり振り向き、そして35トンもの小麦粉を見て固まってしまいました。大量の小麦粉入りの布袋が並んでいて、壮観な景色です。僕もこの量が実際に並んでいるのを見るのは初めてです(笑)
「こ、こ、この量って、いくらあるんだ?」
デヨリさんが僕に質問してきました。僕は嘘をつく必要がありませんので、正直に答えましょう。
「35,179キログラムです。えーと、キロ1,500だと52,768,500エンですね。端数切り捨てで5,200万エンで良いですよ!」
せっかく端数切り捨てのおまけもしてあげたのに、パイクさんはその場にがっくりと膝を落としてしまいました。この世界では行商人相手だと現金取引が常識です。いくらこの村の流通を独占してぼろ儲けしているとはいっても、それだけの現金を持っているとは考えにくいです。
「ほんとに35トンもの小麦粉なのか、確認させてもらう!」
デヨリさんが鑑定機で小麦粉の鑑定を始めました。でもまあ、この場面で僕が嘘を言うわけないですよね。僕がパイクさん達をだまそうと嘘をついてしまったら、僕のステータスに『正当防衛』の表示がされてしまいます。しかし、現在『正当防衛』の表示がされているのはパイクさんの方でしょう。
「鑑定!」
【牛獣人 パイク 男 34歳 レベル36 商人 正当防衛】
「ニャニャ、ニャンと! 店主さんのステータスに『正当防衛』の表示がされているニャ!(棒)」
クロが驚いた様子を見せているつもりのようですが、セリフが棒読みです(笑) まあ、想定された結果でしたし……
「つまり、5,200万エンの代金が用意できないのに、マサト様との売買契約をしてしまったわけだな! この詐欺師めが!!」
シロはパイクさんに怒りをぶつけていますが、こちらは本気で激怒しているようです。レベル80オーバーの冒険者の怒りを買うってことは、この世界では詰んでいる状態ってことです……
「マサト様も舐められたものですね…… 私やクロも付いているのに詐欺行為を働くとは、その代償は自らの命で払ってもらおう!」
「ま、待ってくれ! 詐欺行為を働くつもりなど無かった! そんなにマサト殿が小麦粉を持っているなんて想定外だったのだ!」
パイクさんも命がかかっているので必死です……
「マサトが小麦粉をいくら持っているのかわからないのなら、全部買うなんて言わなきゃ良かったニャ! 超高レベルのマサト一行の実力を考えたら、その輸送能力も最大限想定すべきだったニャ!」
「くっ…… そ、その…… 違約金を払うから、契約違反については水に流してくれないか?」
「……いくら払うニャ?」
その後は違約金の交渉が始まりましたが、パイクさん達の命を救うことと引き換えに、このパイク商会のすべての権利を譲り受けることになってしまいました。僕は暴利をむさぼる商会にちょっとお灸を据えるつもりだったのですが、シロとクロが暴走してお灸を据えるどころではなくなってしまいました……
「まあ、そんなに面白いことが起きていたのですね。わたくしも現場に立ち会いたかったですわ」
外で待っていたペガに顛末を説明したところ、現場を見られなかったことへの未練の言葉が出てきましたが、それほど驚いた様子ではありません。
「これでマサト傘下の商店は、トリマ村のコルン商会に続いて2件目ニャ!」
「さすがはマサト様です!」
「僕はここまでコトを大きくするつもりはなかったのだけど……」
新しくゲットした商店の運営は、冒険者に乗っ取られる前に商会長だったヘストさんという方にお願いすることにしました。
この村には他にも商店はあるし、僕等がパイクさんに変わって流通を独占するつもりはありませんので、新しく傘下にした商店はどんな方針で運営しましょうか……




