133 今度はがめつい商店
プゴル村の商店を乗っ取っていた元冒険者のパイクさん達は、北への道の魔物を掃討したと教えてあげたら、すぐに北へと去って行きました。シロの殺気がすごかったので、文字通り逃げるように去って行った感じです(笑)
元の商会長だったヘストさんは、真面目だけど押しに弱そうな感じの商人さんでした。ステータスはこんな感じです。
【羊獣人 ヘスト 男 43歳 レベル18 商人】
ヘストさんと相談して、この村の他の商会にも分け隔てなく僕の商品を卸すことにしました。この村はブドウの名産地として一年中ブドウが収穫できる土地であり、ワインの名産地として広く知られているところなので、村といっても規模が大きく、金銭的にも豊かな住民が多いため、商会は4つもありました。
フルーツ王のグースさんが所有する山も果樹園向きという設定になっていたようで、一年中何度もフルーツを収穫できる土地でしたが、この村はブドウ栽培向きという設定のようです。トリマ村の浜の主と言われるイセエビも、捕っても翌日にはリポップしていましたから、この世界は何でもありですね……
ヘストさんを含めて4人の店長さんに急遽集合してもらいました。他の店長さん達も売り物がほとんど無くて開店休業状態だったため、パイクさん達が去って商品を購入できるようになったとの話を聞いて、すぐにこの商会にやってきてくれました。
「僕が行商人のマサトです。この度、パイクさんからこの商会を譲り受けましたが、経営は元商会長のヘストさんにお任せして、商品の仕入れ役に徹するつもりです」
「それじゃあ、うちの店にも小麦粉などを売ってくれるということか?」
僕が挨拶をすると、すぐに質問が飛んできました。かなり前のめりになって、今にも掴みかかってきそうな勢いがあります。
「ええ、僕の卸価格はこちらから提示しますので、購入希望量を告げてください。まずは小麦粉から行きましょう。えーと…… 1キロ当たり1,300エンとしましょう」
先ほどパイクさんには小麦粉100キログラムの鑑定結果から価格を提示しましたが、今回は1トンの小麦粉を鑑定してみました。よって、1,500エンから200エン価格低下しています。トンレベルと大量にこの村の市場に小麦粉が流入するので、希少価値が下がって値段も下がっているようです。
「そうですね…… ヘスキド商会としては500キログラムを購入したいです」
最初にヘストさんが希望を言ってくれました。ちなみにヘスキド商会の名前は初代商会長さんの名前から取ったそうです。代々の商会長さんの名前は、最初の二文字を『ヘス』にして、初代商会長直系の血族で商会を継承しているとのことでした。
「ちょっとまった! ヘスキド商会も俺たちと一緒に入札に入るのか?」
先ほど質問を投げかけてきた商会長さんが、また質問をしてきました。
「ヘスキド商会は僕の傘下ということになりましたが、先ほども申し上げたとおり、僕は仕入れ役に徹して商会の経営にはあまり関与するつもりはありません。よって、ヘスキド商会への商品の販売も皆さんと同条件で実施します」
「ほう……」
他の二人の商会長さんは感心してくれたようですが……
「俺たちの商会も平等に扱ってくれるというなら、まずはヘスキド商会を除いた3商会に商品を卸して、売れなかった商品のみヘスキドに卸すようにすべきじゃないか?」
あれ? なんかわけわからないことを言い出しました。僕はヘスキド商会を優遇はしないと言っただけなのに、なぜかヘスキド商会を冷遇することになっています。自分の商会をあえて冷遇するわけはありません。
「プゴル商会さん、さすがにそれはないでしょう……」
他の商会長さんも、先ほどの男を少し諭すように注意してくれています。この男性はプゴル商会という商会の会長さんのようです。この村の名前を冠した商会なので、歴史ある商会なのでしょうか? 鑑定しておきましょう。 鑑定(1)!
【人 ガツメ 男 53歳 レベル28 商人】
プゴルさんという名前ではなかったです。
「この行商人とヘスキド商会は裏で繋がっているんだ! 平等に扱ってくれるというなら、まずは俺のプゴル商会を優遇してくれるべきだろ!」
相変わらず意味不明のロジックを言ってます。僕とヘスキド商会は裏で繋がっているわけではなく、どうどうと表で繋がっていることを明言していますが……
「ガツメ会長、マサトさんは我がヘスキド商会の会長でありながらも、プゴル商会さんを含めたこの村の商会に平等に商品を卸してくれると言ってくれたんだ。プゴル商会さんにとっては恩恵であるはずなのに、それ以上を求めるのは……」
「うるさい!」
ガツメさんはヘストさんの顔面近くに手を振り、ヘストさんを下がらせます。今のはヘストさんが避けなければ、顔面に手が当たっていたかもしれません。
シロの殺気が漏れ出しました。キヌさんはあきれ顔です。僕も同様にあきれた顔をしていると思います。クロは少し楽しんでいる様子ですが、珍獣でも観察している気分なのかもしれません(笑)
「恩着せがましくしていても、結局はうちに商品を売りたいだけだろ! この村の中でも由緒正しい我がプゴル商会に商品を卸すことが出来れば、名も知れぬ行商人の格も少しは上がるってもんだろ!」
「プゴル商会さんはこの村では一番新しい商会だし、マサトさんたちは見かけだけで判断してはいけないほどの……」
「うるさい!!」
ヘストさんの諫めるような言葉に対して、今度はガツメさんの拳が再度振るわれ、見事ヘストさんの頭に命中してしまいました。さすがに暴力を振るってしまうと……
【人 ガツメ 男 53歳 レベル28 商人 正当防衛】
やはり『正当防衛』の文字がステータスに表示されています。さすがにそんな相手と商売をすることは出来ませんね……
「さすがに暴力は看破できません! プゴル商会さんとは取り引きはしませんので、お引き取り願います!」
「なんだとぉ! やっぱりお前達は裏でグルになっていやがったじゃねぇか! そっちがその気なら、こっちにも考えがあるぞ! こう見えて俺は修羅場をくぐってきた男だ! 正当防衛をさせてもらうぞ!!」
レベル28だとそれなりの修羅場をくぐってきたと言っても良いかもしれません。しかし、正当防衛については、既に僕等に権利があります。僕等が強く見えないので、恫喝すればなんとかなると思っている感じですね……
「正当防衛が出来るのはこちら側の方ニャ! さっきお前はヘスト店長の頭を殴ったニャ!」
とうとうクロが口を出してしまいました。でもクロは怒っているというよりも、ガツメさんに対して挑発している感じです……
「わけわからんことを言うからちょっとこずいただけだろ! それよりも俺を罠にはめようとしているお前らに対して、正当防衛する権利があるのは俺の方だ!」
この人、もうダメですね…… 現実を見てもらいましょう。
「鑑定!」
【人 ガツメ 男 53歳 レベル28 商人 正当防衛】
「なにっ!? このガキは詠唱省略が使えるのか?」
ガツメさんはいきなり僕が鑑定魔法を使ったことに驚いています。まあ、こんな若い少年が詠唱省略で魔法を使ったのだから、この世界の常識に照らし合わせたら驚いて当然なんですが……
「正当防衛が表示されていますね。切り捨てましょうか、マサト様?」
シロが僕の前に出てきました。先ほどから殺気を振りまいていたシロなので、このままほっとくと本当に殺りかねません。
「まあ、落ち着いて!」
「ふん! 修羅場をくぐってきた俺に対して、そんなかわいいお嬢ちゃんが何をするんだね? 大人の怖さを逆に教えてあげようかな?」
ガツメさんが気持ち悪い笑顔をシロに向けています。今にもシロは本当にガツメさんを切り捨てそうになっていますので、急いで介入しましょう。
「鑑定!」
【犬獣人 シロ 女 15歳 レベル85 冒険者】
「な、なに! レベル85だと……」
今までさんざん舐めた態度を取ってしまった少女のレベルが、絶対に敵に回してはいけない超高レベルだったことに対して、ガツメさんは驚きのあまり絶句しています。他の商会長さんも驚いて目を見開いています。
「もう一度言います。お引き取りください!」
「ああ、わかった…… 俺が悪かった…… それじゃあ……」
ガツメさんは魂が抜けた感じになってしまったまま、静かに退場しました。あれだけ僕等に対して舐めた態度を取っていたのに、シロのレベルを見てすべてが一変してしまいましたね……
その後はプゴル商会を除いた3商会で、平和裏に僕等の商品を卸すことが出来ました。小麦粉、日用品、服や布、肉、魚の干物、果物など、僕の言い値でも安い安いと大量に購入してくれます。さすがは豊かなワインの産地だけあって、お肉もたくさん買って貰えました。
ただし、これまで食べる習慣のなかったホルモン系は売れませんね。見た目も悪いので、とっつきにくいのは否めません。安いし食べるとおいしいのに……




