131 ぼったくり商店 その1
「あ、そろそろ森を抜けるね」
キヌさんの笑顔がまぶしくて、荷台に乗り込んでいるキヌさんを振り返っていた体勢から顔を正面に戻すと、ちょうど森が途切れるところでした。
「これがブドウ畑ですね、マサト様」
「ワインの原料ニャ!」
「そうだね。たくさんワインを買い込みたいね」
森を抜けると道の両側にはブドウ畑らしき光景が広がっていました。
「こちらを監視している男達がいるニャ」
馬に騎乗したふたりの男が近づいてきます。先ほどキヌさんの話にあった、商店を乗っ取った冒険者達のようです。彼らはこちらの馬車に併走して、質問をしてきました。
「あんたらは北の町から来た行商人か?」
「そうです。カワヒ町からやってきました」
「何しに来たんだ?」
「あなた方こそ何者なのです?」
男の態度が大きいのに気を悪くしたのか、シロが殺気を振りまきながら僕と彼らの話に割り込んできました。
「いやー、恐い顔すんなってねーちゃん。ボクちゃんビビってションベンちびりそーだよ!」
「おい、やめろって! 彼女らの胸元を見ろ!」
最初に話しかけてきた男の態度は悪かったけど、もうひとりの男は冷静で、シロとクロの胸元に光る金色の冒険者証に気付いたようです。
「ええっ! 金色?」
「この道を抜けてきた行商人だ。見た目で判断するな!」
「たんなるラッキーじゃねぇのか?」
「お前も一昨日通り抜けようとして断念したばかりだろ! 先ほどの自動車ならともかく、こんな一頭立てのおんぼろ馬車で、魔狼の群れを振り切るのは無理だ……」
男達は僕等に聞こえないように密談をしているつもりのようですが、体力値がものすごく高い僕等には丸聞こえです。おんぼろ馬車ってのは引っかかりますが、面と向かって言われたわけではないので、怒るわけにはいきませんね……
そして『先ほどの自動車』というのは、ポンタロウさん達が乗っていた魔導自動車のことでしょう。魔石を燃料として動く魔導自動車は、馬車よりも安定して速く移動することができます。森の中から魔物が出てくるよりも先にその場所を通過してしまえば、魔物を振り切って移動することが可能になります。
「失礼した。俺たちはこのプゴル村で商店を営んでいる商人だ。現在は流通に問題が出ているので、行商人は大歓迎だ。ぜひ我らの商店によっていただき、お互い有意義な商売をしようじゃないか!」
冷静な方の男が前に出てきました。先ほどの男よりはマシな態度だけど、見た感じはどう見ても荒くれ冒険者で、商人には見えません。こっそり鑑定してみましょう。 鑑定(1)!
【牛獣人 デヨリ 男 28歳 レベル26 商人】
そこそこのレベルではありますね。それとちゃんと商人にはなっていました。胸元には銀色の冒険者証も輝いていますので、つい最近までは一人前の冒険者をやっていて、それなりに修羅場をくぐってきたのでしょう。
「ところでこの村に来るまでの道中はどうだった?」
「えーと、まあそこそこの数の魔狼は出てきたかな?」
「そこそこの数とは?」
「結構いっぱいいたかな?」
たぶん200匹は軽くいましたが、正確に答えるつもりはないという態度にしておきました。まあ、200匹以上いたのをすべて無傷で討伐したと言ったら、絶対に信じてくれないでしょうし(笑)
でも男は僕の話を信じてくれたようで、少し考え込むような表情になっていました。まあ、僕等はすごく怪しいですよね。まだ駆け出しの新米商人と新米冒険者にしか見えませんし、魔狼の群れを振り切って道中を突破できるようには見えないおんぼろ馬車だし……
彼らの案内で村の中心部まで進んできました。いくつかのお店や食堂、宿屋が並んでいます。その中では大きめな商店に案内されました。
「馬車はそこに停めて中に入ってくれ」
「わたくしが馬車の番をしておりますわ」
ペガが馬車に残ってくれるようです。
「こんなちっさいガキが一人で残って大丈夫かよ?」
先ほどの無礼な男が今度はペガに突っかかってきました。
「氷弾!」
間髪入れずにペガは男のはるか頭上に向けて氷弾を放ちました。
「うわっ! マジか!!」
男はひっくり返って驚いています。まさかこんな年端もいかない少女が、詠唱省略で攻撃魔法を放つとは思っていなかったでしょう。
「わたくしは一人で留守番をするくらい、楽勝でしてよ!」
「ははは…… 確かにそうだな……」
男はペガをからかう気は失せたようです。詠唱省略スキルを持った魔法使いって、近接戦闘が苦手という魔法使いの弱点を克服していますからね。普通の冒険者では手も足も出ないでしょう……
ペガを除いた僕等は商店の中に入っていきます。商品はそこそこ並んでいますが、その値段はとんでもない高値が付いています。小麦粉が100グラムで1,000エンって、1キログラムだと1万エン! 僕の買付価格の20倍以上です!
「我々は命がけで商品を仕入れているんだ! 冒険者の命は軽視されがちだが、命がけに見合った価格を商品に上乗せして商売をさせてもらっている!」
僕等が店に並んでいる商品の値段に驚いて固まっていたら、店の奥から威厳のある冒険者風の男が出てきました。
「ニャるほど…… ではマサトの持ってきた商品も高く買ってくれるのかニャ?」
「もちろんだ! こんな店先で立ち話もなんだし、奥に進んでくれ」
店の奥には商談が出来る部屋がありました。廊下の反対側から僕等を鑑定機にかけている気配が感じられたので、今頃彼らはびっくりしているところでしょう……
「それで、本日はどんな商品をお売りいただけるのでしょうか?」
先ほどはすごく威厳を振りまいていた店主らしき男が、部屋に入ってきたら今度は低姿勢で切り出してきました。まあ、シロとクロのレベルを知った後だと、偉そうな態度は取れませんよね(笑)




