130 すぐの再会
馬車の中で昼食を食べながら、のんびりとプゴル村に向かいます。食事のメニューは勇者誕生祝いということで、きつねのしっぽ亭の海鮮料理です。昼間っから豪勢なメニューですが、お祝いってことでクロとペガに押し切られての選択です。
食事も終わって道をゆっくり進んでいると、前方に人影が見えます。
「さっきの商人の少女ですね」
シロが報告してくれたとおり、一人はどうやらキヌさんで、あともうひとりは護衛の人のようです。彼らの前で馬車を停止させて、何か用があるのか問いかけましょう。
「どうかしましたか?」
「じつは、この先のプゴル村にはたちの悪い冒険者に乗っ取られた商店がありまして……」
キヌさんの話では、魔物が跋扈するこの道を通る商人が激減した後、魔法袋に商品を詰め込んで、馬に単騎で騎乗して一気にこの道を走破する冒険者が物流を支配するようになり、とうとうひとつの商会を乗っ取ってしまったようです。この村はワインの産地で有名なため、大金を持っている村民が多く、物流を独占していることをいいことに、かなりの儲けを出しているそうです。
冒険者も命がけなので、彼らの商売がすごく儲けを出しているのも仕方がない面もありますが、あまりにもの暴利をむさぼっており、許せない気持ちになっているとのことでした。
「それならなおさら真っ先に彼らの商店と取り引きをしよう!」
「ええっ?」
キヌさんはびっくりした顔をしています。もしかして幻滅されてしまったでしょうか?
「マサトは人の弱みにつけ込む商人を助けるような男じゃないニャ」
「そうです。マサト様は正しき心をお持ちのお方です。きっと深謀遠慮がおありなのでしょう!」
クロとシロの僕への信頼は揺るぎませんね…… 僕なんかには少し荷が重いです……
「それで、どんな作戦かニャ?」
「それは……」
暴利をむさぼる元冒険者の商店に大ダメージを与える作戦をみんなに告げました。即興で考えた割には良い作戦だと我ながら思います。
「それはすばらしい作戦ですね。私も後学のために是非とも見学させてください!」
そう言ってキヌさんは馬車の荷台に乗り込んでしまいました。
「キヌ様!」
護衛の人はびっくりしてキヌさんに声をかけます。
「心配は要りません! 彼らの強さはあなたも実感しているでしょう? 私なら大丈夫です!」
「わ、わかりました……」
どうやら護衛の人はキヌさんに説得されてしまったようで、一人とぼとぼと歩いてプゴル村に戻り始めました。
「なかなか無茶をしますね、キヌさん」
「無茶なんかではございません。私にはこの馬車よりも安全な場所が思いつきません。あれだけの魔狼の群れを無傷で全滅させたあなた方の実力は、私には想像が出来ないほどです」
「ははは…… たしかにシロやクロは心強い味方ではありますね……」
「マサト殿も魔狼3匹を一瞬で切りふせておられました。マサト殿は私たちの護衛よりも強いと、私の直感スキルは告げております!」
たしかに僕の偽装レベル50でさえ、キヌさん達の護衛よりも高レベルです。本当はレベル161もありますが……
「それよりも、僕相手に敬語は不要です。僕の方が年下ですし……」
「あら、私の年齢は言ってなかったと思いますが……」
しまった! 護衛の方との会話で聞いたのは名前だけでしたね……
「じ、じつはこっそり鑑定魔法を使いました。申し訳ありません」
「いえいえ、私の祖父も自動車の中からこっそりあなた方の鑑定をしていましたし、無断で鑑定をするだけなら悪いこととはされていないです。でも、いつの間に鑑定をしたのでしょうか?」
「僕は詠唱省略が使えますので、それこそいくらでも気付かれぬうちに鑑定をすることは可能です」
「まあ、そうでしたね。祖父もマサト殿はレベル50だと言ってましたので、ものすごい鍛錬をされてきたのでしょう。尊敬いたします」
「あの、それで僕の方が年下だし、そんなにかしこまって敬語を使われなくても良いですよ」
「でも、私たちの命を救っていただいた恩人なので……」
「あれくらいはまあ、シロやクロにとっては朝飯前、いや昼飯前の準備体操ですよ」
「そうニャ! その後のゴーレム軍団のほうが、うぷっ!」
クロがとんでもないことを口走りそうになっていたので、あわててその口を手で塞ぎます。
「ゴーレム軍団?」
「いやいや、何でもないです! それよりも、その後の虹がすごかったですね!」
「そうですね。西の方で勇者が選定されたようです……」
「綺麗だったニャ!」
「でも…… 魔王も同時に復活するので、大勢の犠牲者が発生することにもなりますね……」
キヌさんはこれから発生するであろう犠牲者を思って、悲痛な表情を浮かべています。東の国に住むキヌさんにとっては、魔王による被害は直接関係ないことだと思われますが、それでも心優しいキヌさんにとっては心が痛むことなのでしょう……
「勇者が選定されたから魔王が発生するのではなく、魔王が発生するから勇者が選定されるわけで、ちゃんと勇者の選定が行われたことは祝うべき事だと思いますよ」
とりあえず気休めを言ってみました。実際にはこの世界を創造した神おじいさんの意図が反映された結果の魔王発生なのでしょう。しかし、その意図がなんなのかについては、一介の人間には判りかねます。なにしろ相手はものすごく頭が良いであろう高次元人なのですから……
「そうです、いや…… そうね。勇者の選定は祝うべきことね。たしかにマサトさんには命を助けてもらった恩はあるけど、ホウライ国に来たときにはちゃんとしかるべきお礼をするわ。だからお互い商人同士として、そして友人として対等に付き合っていけたら良いと思うわ」
「そうだね! 僕のことは『マサト』と気軽に呼び捨てて呼んで欲しい!」
「呼び捨て? じゃあ私のことは『キヌ』と呼び捨ててくれるかしら?」
「ええっ! さすがに年上の女性を呼び捨てるのは気が引けるというか……」
「あら、たったのひとつ違いじゃない? 私だけが呼び捨てだと、対等な関係には見えないわよ!」
「え~と…… じゃあ呼び方はお互い『さん付け』でお願いします……」
「そうね…… わかったわ、マサトさん」
にっこり微笑んで僕の名前を呼ぶキヌさんの笑顔がまぶしいです……




