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126 ホウライからの商人

「ううっ……」


 治療した護衛の女性がうめき声を発しました。どうやら意識を取り戻したようです。


「タミさん!」


 治療したタミさんの声を聞いて、商人の少女キヌさんがすぐに駆け寄ります。タミさんは血だらけなので、綺麗にしてあげましょう。


「清掃!」


「まあ、ありがとうございます!」


 キヌさんが振り返って僕にお礼を言ってくれました。興奮のためか顔が紅潮しております。すぐにタミさんの元で(ひざ)をついて、容態を確認し始めました。


「詠唱省略も使えるのか……」


 護衛の人が感心したように小さく独り言を(つぶや)いています。僕が詠唱省略を使えることは、偽造したステータスにも表示させていますので、ばれても問題ありません。問題は無詠唱が使えることが発覚することです。僕の年齢で使えるなんて、伝説の大魔法使いでも聞いたことがありません。



「マサト様、すみません! 取りこぼした魔狼が向かっています!」


 背後からシロの声が聞こえました。あわてて振り向くと3匹の魔狼がこちらに迫っています。シロは2匹の金狼と同時に戦っていて、こちらに魔狼の接近を防ぐことが出来なかったようです。


「ここは私が……」


 護衛の人が前に出て行こうとします。大きな刀を構えてとても強そうな男性ですが、よく見ると全身怪我だらけで、いわゆる満身創痍って感じです。これまで必死に戦ってきたのでしょう。


「僕に任せてください!」


 僕は再びハヤブサの刀を収納魔法から取り出し、迫ってくる魔狼を切りふせます。


「つ、強いな……」


 護衛の人の感心する声が聞こえてきました。僕の偽装ステータスからすれば、うまくやり過ぎたかもしれません……


「マサト様、大丈夫ですか!?」


 2匹の金狼を討伐したシロが駆け寄ってきました。


「護衛の少女はさらに強い……」


 護衛の人は、シロがあっという間に金狼2匹を討伐したのも見ていたようです。


「僕は大丈夫! シロが頑張ってくれたおかげで、怪我(けが)人の治療も出来たよ」


「魔狼軍団はすべて片付いたニャ!」


 クロもやってきました。全身に返り血を浴びていますが、本人は怪我ひとつ負っていないようです。よく見れば僕の服も魔狼の血で汚れていますので、まずは綺麗にしましょう。


「清掃! 清掃! 清掃! 清掃!」


 シロとクロと僕、ついでに護衛の男性にも清掃魔法を掛けます。


「ありがとうございます」


 護衛の男性は丁寧に頭を下げてくれました。お辞儀の仕方も日本人ぽいですね。


 魔導自動車の中から男性が降りてきました。貫禄があるので、この商人隊のボスでしょう。 鑑定(1)!


【狸獣人 ポンタロウ 男 63歳 レベル29 商人】


「助けていただき、大変感謝する」


 ポンタロウさんもまずは深々と頭を下げてお礼をしてくれました。


「まあ、我々も通り道だったので、どうせ戦うことになったでしょうし……」


「しかも貴重な治療薬まで使っていただいたようで……」


「そうです、おじいさま! なんとレベル4の治療薬までタミのために使っていただきました。本当にありがとうございました」


 キヌさんもポンタロウさんの隣に立って、僕に頭を下げています。


「それはそれは、ぜひともお礼をしなくてはいけませんな。しかし今すぐ充分なお礼をするには……」


「代金は国に戻られてからでも結構ですよ。あなた方はホウライ国の商人さんですよね?」


「はい、そうです。私はホウライでも有数な商会の元会長で、今はこうして孫と一緒に買い付けの旅に出ているところでした」


「では、僕等がホウライに着いたら治療薬の代金はその時にいただけたら結構です」


「それはありがたい。ホウライの(みやこ)に来たら、ポンタ商会のポンタロウを訪ねてください。充分なお礼と、さらにホウライの案内を孫娘にさせましょう!」


 ポンタロウさんはニヤリと笑います。


「え、案内って、私がですか……」


 キヌさんは少し戸惑っている感じです。赤い顔して慌てふためいている感じも良いですね……


「これは落ちたニャ……」

「さすがはマサト様です」

「しかし、平凡そうな娘だがマサトの役に立つのかニャ?」


 また後ろでクロとシロが密談をしていますが、体力値の上がった僕の耳には聞こえていますよ! そして、キヌさんはステータスの構成がものすごいので、僕のバフを受ければ超強力な商人になれます!


「ところであなたの名前を教えていただけませんか? 都の商会に尋ねてきていただけたら、すぐに私に話が通るようにしておきます」


「僕は行商人のマサトです。後ろの二人がパートナーのシロとクロです」


「パートナー?」


 キヌさんがシロとクロを見つめているようです。そして、赤かった顔から血の気が引いているようです。


「シロがパートナーと聞いて絶望しているようだニャ」

「なぜ絶望するのです?」

「超絶美少女のシロをマサトのパートナーと紹介されたので、自分の容姿と比較して絶望しているニャ……」

「それでなぜ絶望するのです?」


 再びクロが勝手なことをシロに言ってますが、でもまあ、クロの言うことは間違っていないのかもしれません。そして、超絶美少女のなかにはクロも入っていますよ!


「はっはっはっ! マサトさんもその若さで力のある商人とお見受けしました。さぞかし甲斐性(かいしょう)のある御仁(ごじん)でしょう!」


「そうニャ! マサトはすごく(ふところ)の深い男ニャ! すでに5人くらいに内定が出ているが、まだまだ定員には空きがあるニャ!」


 ポンタロウさんの言葉にクロが同調していますが、内定とか定員とは何のことでしょうか?


 い、いや、まあ、なんとなくは察しが付きますが、別に僕はハーレムを築くつもりはないですよ~!



「あのー、魔石はこの方に渡せば良いでしょうか?」


 ポンタロウさんの護衛の方が3人やってきました。どうやら全部で5人の護衛がいたようです。どの人もかなり強そうだし、刀を武器として使っているようなので、全員ホウライ国出身者のようです。

 魔石については、この場合は助太刀すけだち)をした僕等にすべて渡すのがこの世界の常識です。ガミサ領騎士団はそれをしなくて『正当防衛』の対象になってしまいましたが、さすがにこの状況では僕等に魔石をすべて渡そうとしてくれるようです。なにしろあちらの護衛5人よりも、シロとクロの方が強いのは明確です。


「魔石はもちろんすべてマサトさんに渡してください」


 魔物の討伐数は200匹を超えている感じなので、手で拾っていると時間が掛かります。僕の収納魔法で拾えば時間が掛からないのですが、あまり他人に見せるものではありませんね。


「雨が降ってきたニャ……」


 クロがそう言った直後に、僕の顔にも雨粒が落ちてきました。この世界に来てから初めての雨でしょうか?


「マサトさんもこの先のプゴル村に向かうのでしたら、魔石は我々で拾っておきますので、先に行っててください。プゴル村で落ち合ったらすべてお渡しします」


「いえ、魔石を拾うのは我々でやります。護衛の方々もお疲れでしょうから、先にプゴル村で体を休めておいてください。こちらはシロもクロもまだまだ元気なので、大丈夫です!」


「……まあ、そうですね。お言葉に甘えまして、先に行かせてもらいます」


「おじいさま……」


 キヌさんが心配そうにポンタロウさんを見上げますが、ポンタロウさんは優しくキヌさんの背中に手を回して魔導自動車の中に誘導していきました。


 ポンタロウさん達が魔石をくすねるおそれがあると、僕等に思われることを防ぐため、あっさり身を引いたようです。レベル50を超えていそうな金狼も何匹かいましたので、『李下に冠を正さず』ってやつですね。


「ちょっと待ってください!」


「なんですかな?」


「清掃! 清掃! 清掃! 清掃! 清掃! 治療! 治療! 治療! 治療!」


 清掃魔法を掛けていなかった5人に清掃魔法と、治療済みのタミさんを除く残りの護衛4人に治療魔法(2)をかけてあげました。


「おお、重ね重ねありがとうございます。プゴル村一番の宿を取ってお待ちしております!」


 そう言ってポンタロウさんは魔導自動車でプゴル村方面に去って行きました。



「先ほどの娘はマサト様のお眼鏡にかなったのでしょうか?」


「直感、治療、収納、鑑定と商人になるべくして生まれてきたようなスキル構成だったよ」


「それはすごいニャ! マサトにモフられれば、すごいことになるニャ!」


「うん、ぜひとも仲間にしたいね」


「で、モフモフの対象なのかニャ?」


「うん、そうだった」


「なるほどニャ…… 取り立てて美少女って感じではなかったけど、マサトの役に立つのなら、ハーレム入りは当然ニャ!」


「べ、別に僕のハーレムに入れるつもりはないよ! というか、僕はハーレムを作るつもりもないよ!」


「マサトに作るつもりはなくても、既に出来ちゃっているニャ……」


「マサト様の特別魔法でバフをかけるのであれば、もう絶対にマサト様を裏切ることなど出来なくなります。そこまでするのであれば、マサト様の寵愛(ちょうあい)を授けてやってください。あの娘もまんざらではなさそうでした……」


 うーむ、この世界に来たらモテるようになってきた気がします。僕はそんなにたくさんの女性と同時にお付き合いすることなど望んでいないのですが……


「マサトは自分がどれだけ魅力的な男か、ちゃんと認識すべきだニャ……」


「マサト様は謙虚なお方なので、そのへんは我々がしっかりお守りしていく必要がありますね……」



 二人がいつの間にか僕の保護者的立ち位置になってます……




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