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125 商人の少女

 前方の商人の護衛達も、クロが突入したことにより魔狼の群れをなんとか押し返せるようになっていますが、怪我(けが)人はお腹から多量の血を流しているようなので、早く治療をした方が良さそうです。僕等の馬車にも魔狼が押し寄せていますが、シロがものすごい勢いで討伐しており、馬車まで辿り着く魔物はいません。ペガも頑張って攻撃魔法を放っており、僕の特別(モフモフ)魔法での補給を受けて無限砲台となっています。怪我人を治療するためには僕等も彼らに合流するべきですね。


「僕等も向こうに合流しよう!」


 そう言って僕は前方の商人達から死角となる後方に向けて、氷弾改魔法を連射します。


 ババババババババババババババババババババババババババババババババババン!


 後方からやってくる魔物の圧力が下がった隙に、僕は馬車から飛び降り、魔刀を抜いて前方へ走り出します。


「マサト様! 護衛をいたします!!」


「僕は大丈夫だ! シロは前方左側を頼む!」


「でも、マサト様が……」


「マサト殿は魔狼の群れごとき、大丈夫ですわ! 馬車もわたくしとマロンしか居なければ魔物は襲ってこないですの。シロ殿は安心して道を切り開きなさい!」


「僕もいざとなったら魔法を打ちまくるから大丈夫だよ!」


「わかりました。あそこの怪我人を救うためですね。やはりマサト様はお優しい方です……」


 シロは前方左側に向けて走り出しました。僕もやや右側に走り出して、馬車の通り道を作ります。本当は馬車などほっといても魔物は襲ってこないのですが、そんな不自然な状況を見ず知らずの商人に見せるわけにはいきません。


 魔物が僕等の方にもたくさん向かってくるようになりましたが、レベル10程度の魔狼では、刀術レベル6で鑑定価格1.2億エンもする魔刀を操る僕の敵ではありません。たまに銀狼も混じっていますが、なんとかなっています。レベル50を超えるような金狼が立ち(ふさ)がるようなことがあれば、こっそり氷弾改魔法を放ってやろうと思っていましたが、無事に金狼に出会うことなく商人の魔導自動車まで合流することが出来ました。


「助太刀ありがとうございます!」


 怪我人を守るように戦っていた護衛の冒険者が、魔狼を倒しながらお礼を言ってくれました。よく見れば日本人ぽい顔立ちで、刀を使って戦闘をしているので、ホウライ国の人かもしれません。


「そちらの怪我人を……」


 まずは治療しようと思いましたが、大きな怪我をしていますので、僕の直感スキルはレベル4の治療魔法でないと治らないと告げています。僕の治療魔法レベルは4ですが、偽装ステータスはレベル2にしています。ここは、レベル4の治療薬を持っていたということにして、薬を使うふりをして魔法を掛けましょうか? しかし、レベル4の治療薬って数千万エン以上するようです。僕はルーモイ市で薬を色々買い込みましたが、治療薬はレベル2までしか売っていませんでした。それでもレベル2の治療薬は数十万エンもするので、大量に買い込むことが出来ません。ここはささっと治療して、治療薬はレベル3の物を使ったことにしましょう!


「タミ! 大丈夫? 今すぐ治療するわ!」


 治療しようと思ったら、自動車から少女が降りてきました。丸顔で日本人っぽい顔立ちです。しかし、よく見れば獣耳が付いていますので、獣人さんでしょう。何獣人でしょうか? 鑑定(5)!


(タヌキ)獣人 キヌ 女 17歳 レベル20 商人】

 体力 30/38

 魔力 14/22

 スキル 体術(剣術2、格闘2)

     直感2

 魔法 生活2(時間、着火、照明)

    火1(火の玉)

    治療1(治療)

    空間1(収納)

    鑑定1

 状態 興奮



 狸獣人って初めて見るかな? それにしても日本人ぽく見えるので、親近感が湧きます。特別美人って感じではありませんが、すごく()かれるものを感じてしまいます……


 いや、それよりもステータス構成がすごいです。直感、治療、空間、鑑定と便利なレア魔法がそろい踏みです。レベルが高いものはありませんが、僕の特別(モフモフ)魔法でバフすれば、ものすごいことになってしまいます。そしてもちろん彼女は僕の特別(モフモフ)魔法の対象者となっています! 僕の直感は是非とも仲間に引き入れて、超有能な商人として育てるべしと言ってます!


 なんて彼女に見とれていたら、なんとキヌさんは躊躇(ちゅうちょ)せずに治療薬を怪我人に振りかけていました。急いで鑑定すると、レベル3の治療薬でした。

 派手なキラキラエフェクトが発生しますが、僕の直感スキルが告げたように怪我は治りきっておらず、相変わらず致命傷のままのようです。


「やはり治りませんね……」


「キヌ様、今のはレベル2の治療薬でしょうか?」


「いいえ、レベル3よ……」


「なんともったいない! しかし、レベル3の治療薬でも治らないとなると……」


 この世界の治療魔法や治療薬は、同じレベルの治療を繰り返して効果が無いどころか、悪影響さえ出てしまいます。これは対象者の自然治癒力(しぜんちゆりょく)を加速させすぎても負担になるだけという説があります。そこで同じレベルの治療を繰り返すなら、一日以上の間を開けるべきと言われています。つまりこの怪我人を治療するなら、レベル4以上の治療魔法か治療薬が必要となるのです。


「ちょっといいですか?」


 僕が背後から話しかけると、キヌさんは振り返ってはっとしている表情です。


「あ、あの…… その…… 助けに入っていただきありがとうございます。こちらの護衛、タミが怪我を負っていたので、まずは治療しようとしたもので、お礼が遅れて申し訳ありません」


 キヌさんは気丈にも動揺を抑えて僕に頭を下げます。でも、心はタミさんの怪我が気にかかっている様子がありありと伝わってきます。


「じつは僕、レベル4の治療薬を持っているので、タミさんを助けることが出来そうです」


「えっ! レベル4?」


「ぜひその薬を貸してください! 今は代金の持ち合わせはありませんが、国に帰りましたらお支払いいたします!」


「キヌ様! そんな高級な薬を我ら護衛のために買い求められるなど、もったいのうございます!」


 護衛の人はレベル4の治療薬って言葉にびっくりして、タミさんに使わせることに反対のようですが、キヌさんはすぐにでも使って欲しいようです。


「それに本当にこの方がレベル4の治療薬を持っているとは限りません!」


 あれれ? どうやら護衛の人は僕が時価数千万エンもするレベル4の治療薬を本当に持っているかを疑っているようですね。まあ、どう見ても駆け出しの行商人である僕を見れば、そんな気持ちになることはわかります……


「失礼なことを言ってはいけません! 私の見立てでは、この方は大変誠実な商人さんです!」


「……申し訳ありません。直感スキル持ちのキヌ様がそうおっしゃるのであれば、間違いは無いでしょう……」


 やはりキヌさんの直感スキル2というのは、信用度が高いようですね。冒険でも戦争でも、そして商売でも直感スキルは非常に役立ちます。しかしレアスキルなので滅多に持っている人はいません。ましてやレベル2は非常に希少です。


「代金については治ったらで結構です。もちろん今すぐ支払ってもらわなくても結構です」


「あ、ありがとうございます!」


「そのかわりちょっと訳ありの薬なので、使うときには向こうを向いていてくれませんか?」


 実際に使うのはレベル2の治療薬なので、キラキラエフェクトは先ほどのレベル3の治療薬よりも控えめになってしまいます。直後にレベル4の治療魔法を無詠唱でかけるので、エフェクトが盛大に出て問題ないかもしれませんが、少しでも違和感をもたれるのが嫌で見ないで欲しいと言ったところ、護衛の方の視線が厳しくなりました。


「キヌ様……」


「この方を信じましょう。なによりこの方々の助けがなければ我々は全滅していたのです。代金も治ったらで良いとまで言ってくれているのです!」


 そう言ってキヌさんは僕に背中を向けてくれました。護衛の人も渋々という感じで背中を向けます。

 こちらをまったく見ないのであれば、わざわざダミーでレベル2の治療薬を使う必要は無いかな? いや、自動車から別の人の視線が感じられるので、当初の予定通り治療薬を使いましょう。治療薬の瓶を収納魔法から取り出し、蓋を開けて怪我人に振りかけながら…… 治療(4)!


 先ほどよりも派手なエフェクトがキラキラ輝いて、重傷者の怪我が治っていく感じがしてきます。どうやら直感通りレベル4なら治療が出来たようです。


 それにしても、高レベル治療魔法で重傷者を治療することで、自分の仲間を増やすってのは、異世界転移小説のテンプレだなぁと我ながら感心しています(笑)



 テンプレと異なる点は、仲間にするのは重傷者本人ではなく、その雇い主ってことですね。重傷者も女性ですが、特別(モフモフ)魔法の対象者ではないようです……




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