124 南への道
「お久しぶりです、隊長さん」
「は、はぁ、どうも、お久しぶりです……」
困惑顔の騎士団隊長タナーさんに笑顔で話しかけてみました。タナーさんはいまだに正当防衛の対象にはなっていますが、クロにカラスの剣というダンジョン産の剣をくれたので、この隊長さんには恨みはありません。
「少しだけなら話を伺いますよ」
「ありがとうございます!」
今この地で何が起きているのか詳細を聞き出すためにも、隊長さんと話をしておきましょう。門を通って町の中に少し入ったところで、タナーさんから情報収集をしました。
最近はガミサ領内でも魔物が活性化しており、あちらこちらで流通が止まっているそうです。ルーモイ領に向かう西街道はルーモイ騎士団の活躍で流通が再開しましたが、このカワヒ町から南に向かう道にも大量の魔物が発生中で、騎士団でも排除が難しいため冒険者ギルドに討伐依頼を出しているのだそうです。ちなみにルーモイ領との間の西街道の魔物は、実際には僕等が狂い熊を討伐したのですが、表向きにはルーモイ騎士団の手柄にして僕等に注目が集まるのを防いでいます。
この町から南に向かう道は僕等が目標としているワインの産地に向かう道なので、そこは通るとタナーさんに言ったら、大変喜んでくれました。なにしろ冒険者ギルドでも魔物討伐の依頼はほとんど達成されておらず、ワインの他に野菜類も流通が止まって高騰しているとのことでした。野菜の名産地も途中にあるというのは良い情報です。流通が止まっているのなら、大儲けのチャンスでもあります。
ちなみに何故このガミサ領では騎士団による魔物の間引きが遅れているのか質問したところ、遠回しに得られた回答をわかりやすく言えば、この周辺のガミサ領西部は領主の五男であるクザワさんが騎士団副団長として管轄しており、クザワさんが身内びいきの人事をするので有能な部下がやめ、騎士団員のモチベーションも下がっているようでした。
「有害な指揮官は、戦闘中に何故か背後からの攻撃で殉職することが多いらしいニャ」
「ははは…… さすがにそれは……」
クロの言葉にタナーさんは苦笑いです。この世界では『正当防衛』などのステータス表示があるので、上官かつ貴族を殺害するのはさすがにまずいでしょう。ピンチになっているところをわざと助けないという、消極的な方法なら大丈夫かもしれませんが、クザワさんはリスク回避能力だけは高そうなので、難しいかもしれません……
タナーさんと別れて町の中を進み、いくつか並ぶ商会の中から直感スキルで良さそうな店をひとつ選び、商品の販売をしました。小麦はルーモイ領との流通が復活したために値段も下がっているので販売はやめておきましたが、塩や魔石、材木、肉、魚の干物などは良い値段で売ることが出来ました。逆に購入の方は野菜の産地からの流通が途絶えているため、魅力的な商品がなくてやめました。
商売を終えたら時間は16時頃でもう夕方です。宿はどこも南へ向かう道が使えず足止めされている商人が多く泊まっており、高級なところしか空いてませんでした。そういえばハクエイ町の酒屋さんも、ワインの入荷が滞って困っていると言ってましたので、仕入れ係の人も同じようにこの町で足止めされているのかもしれません。
宿は高級なだけあって快適に過ごせましたが、やはりきつねのしっぽ亭にはかないませんね。きつねのしっぽ亭はすばらしい温泉と、なにより大将とクミさんの作る極上の食事が最高です。まあ、ハクエイ町の白銀亭レベルはありましたので、不満は全くないです。料金が高かったですが、そのくらいは無視できるレベルの儲けはこの町で確保しています。
翌朝は7時半くらいにカワヒ町を出発して南に向かいます。魔物が大量に発生していると聞きましたが、どのくらいのレベルでしょうか?
「魔物がたくさんいると言うから楽しみにしていたニャ。でも、このスピードで馬車を飛ばしていたら、魔物が出てくる前に通り過ぎちゃっているニャ!」
周りに人目も無いので、馬車は時速80キロメートル以上で滑るように道を進めます。魔物がチラチラと見えますが、クロの言うように魔物が道に出てくる前に通過してしまうので、魔物討伐がまったく出来ていません。
「僕等はこれで問題ないけど、カラスの剣をくれたタナー隊長に悪い気もするので、少しは討伐しておこうか?」
「賛成ニャ!」
馬車を停めたらすぐに大量の魔物がやってきました。シロやクロは嬉々(きき)として討伐に励みますが、魔物は大鬼子鬼ばかりなので刺激が足らないのかすぐに飽きている感じです…… それでもやってきた魔物はすべて討伐し、再び南に馬車を進めます。
「大鬼程度では物足りないニャ……」
ガミサ領騎士団はその大鬼に囲まれてピンチになっていたんですよね……
「そうですね。やはり森の奥に入るか、コダダンジョン5階層の大空洞くらいでないと、歯ごたえがありません」
シロまでもがそんなことを言い出しました。でもまあ、たしかに大鬼では僕も満足できない体になってしまいましたので、時間があるときにでも森の奥に行ってみましょうか……
森の中を抜けてしばらく進むと広大な野菜畑が広がっていました。いろいろな野菜が栽培されているようです。集落の中心部には商店があり、その商店がこの村で唯一のお店で、ビオン村とおなじく村長さんが経営者でした。
商店がある村では村民に対して直接商品を販売することが出来ませんが、時間が惜しい僕等にとってはデメリットではありません。この村は自給自足が可能なので、流通が止まって飢餓状態になっているなんてことはありませんが、野菜ばかりでは不満がたまっていたようで、僕の商品は沢山売れました。僕も野菜を大量に購入できましたので満足な商売が出来ました。流通が止まっているおかげで、安く仕入れて高く売ることができます。もちろん不当な利益を得るつもりはありませんので、鑑定価格よりも良心的な値付けをしています。
さらに同様の村に立ち寄り商売をして、次はワインの産地プゴル村です。森の中の道を快調に飛ばしていると、前方に魔物と戦闘中の場面に遭遇しました。
「魔狼の群れニャ!」
「金狼までいますね」
魔狼は集団で襲ってくるので手強い相手ですが、さらに上位の銀狼や金狼が率いる群れだと統率が取れて難易度が上がります。それに金狼ともなるとレベル50を超える個体もいますので、かなりの強敵となります。
襲われている側も魔物が大量発生している道を通過しようとしていただけあって、それなりに善戦しているようですが、大量の魔狼に囲まれてピンチに陥っている感じです。
「とりあえず助けに行くのは……」
「クロが行くニャ! シロはマサトの護衛を頼むニャ!」
そう言ってクロが飛びだして行ってしまいました。停車した僕等の馬車の周辺にも魔狼が現れだしたので、護衛は必要ですね。前方の襲われている人達がいなければ、僕の魔法でなんとかするのですが……
襲われている人達は、どうやら行商人のようです。使用している乗り物は馬無しで動き、この世界では自動車と呼ばれるもののようです。ダンジョン産の動力源をエンジンにして動くので、まさに元世界の自動車と同じですね。高級な自動車は馬車よりも速く移動できるので、ここまで来た僕等のようにスピードに物をいわせて魔物を無視して森の中の道を突っ切る作戦だったのかもしれません。その高級な自動車が2台もいますので、かなり有力な商人だと思います。
しかし、大量の魔狼軍団に囲まれてピンチを迎えています。どうやらけが人もいるようです。クロが突入したことにより形勢は逆転していますが、早く治療をした方が良さそうです。
なんとなく思いついたのは、僕の直感スキルでこちらに来るのを優先したのは、この遭遇があるからだった気がします……




