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123 カワヒ町での再会

 ビオン村を出発したらすぐに荷馬車は隠形モートにして、空を駆けて次の目的地に向かいます。僕等の当面の目的地は主に2つあり、ひとつはハクエイ町から東に向かってワインの産地を経由して、ゴールは日本に近い文化を持つホウライ国、もうひとつはフルーツの産地オーキ町から南西に向かって様々なダンジョンを経由して、最終的には鏡ダンジョンです。

 マロンが牽く僕等の荷馬車のスピードは速すぎるので、2つの目的地を交互に目指すことでそれぞれの方向への移動速度を半減させる予定です。たとえば鏡ダンジョンに到着したときに、オーキ町からどんな日程で来たのか尋ねられたら、東に進んだ日程を省いてざっくり説明すれば、ちょっと移動が早い行商人だとの認識になるでしょう。


 最初にどちらに進むのかというと、僕の直感スキルではワインの産地です。直感スキルは選んだ理由までは示してくれないのが困った点ですが、まあ商売上すぐに不足しがちなのがワインなので、ワインの産地から直接安定的に大量購入できるルートを作るべきなのだと思います。まずはワインの産地を真っ直ぐ目指し、それまでは西に進むのはおあずけです。


 空飛ぶ馬車の中で昼食を食べます。メニューはキクラ町役場で大量にゲットした食堂の朝食です。


「この食事はあんまりおいしくないニャ…… きつねのしっぽ亭のクミが作った食事が食べたいニャ……」


 クロが人間になってまだ短いですが、おいしいものを沢山食べてすっかりグルメな舌になってしまったようです。


「たしかにクミさんの食事も僕の収納魔法に入っては居るけど、次にきつねのしっぽ亭に行くのは2週間後くらいなんだから、少しずつ食べていかないとすぐになくなっちゃうよ」


「まあしょうが無いニャ…… タダでもらった食事に文句を言ってはいけないニャ……」


 あのときはトドクア商会の捜索で衛兵さん達が朝から出払ってしまい、食堂の朝食が有り余っていたので、僕が無料で引き取れたのでした。


「タダでしたらコスパは無限大ですわね!」


 ペガが変なことで感心しています。コストパフォーマンスって、パフォーマンスをコストで割るんでしたね。この食堂の食事は特にパフォーマンスは高くないけど、コストがゼロなので、ゼロで割ると無限大でしょうか? でも、数学的にはゼロで割ってはダメだったような……


「この食事も特別おいしくないというわけではありません。それに出来たて熱々をいつでもどこでも食べられるのですから、これほど便利なことはありません。さすがはマサト様です!」


 シロは隙あらば僕を褒めようとしてくれますね…… でもまあ、時間経過のない収納魔法ってのは僕だけのレアスキルのようなので、たしかにいろいろと便利です。



 馬車はあっという間にハクエイ町の上空まで到着しましたので、ガミサ領とルーモイ領を結ぶ西街道に降りて東に進もうと思っていましたが……


「道が混んでいますわね……」


 ペガが指摘するとおり、西街道は沢山の人や馬車が行き交っております。ガミサ領とルーモイ領を結ぶ森にいた狂い熊を僕等が討伐したので、止まっていた流通が再開しているのでしょう。


「これでは早く移動できないニャ!」


 マロンが牽く僕等の馬車はガタガタ道などものともせず、時速80キロメートル以上のスピードで移動が可能です。しかし、こんな常識外れのスピードを他人に見られるのはまずいので、飛ばすのは周りに人がいないときだけです。ここまで来たように隠形モードで空中を駆けてしまえば一番早く移動できますが、主要な道の最初くらいは実際に地面を移動した経験が必要だと考えていたのですが……


「道の上空をたどって行きますわ!」


 ペガが妥協案を出してくれましたので、それに従うことにしました。なるべく道の様子を見ながら低高度の空中を進み、街道の様子を記憶に焼き付けておきます。

 途中に村が2つありましたが、どちらも街道沿いの宿場村という情報を得ていましたので、立ち寄らずに今日の目的地であるカワヒ町付近の人気(ひとけ)の無い枝道で着陸して隠形を解き、西街道に入ってカワヒ町に入ります。



「な、な、ななじゅう、ろく……」


 町に入る門で衛兵さん達が僕等を鑑定するのですが、やはりクロの超高レベルに驚かれているようです。


「こ、こちらは85だぞ!」


 僕等を鑑定していたもうひとりの衛兵さんも、シロのレベルに驚愕(きょうがく)しています。


「あ、あの、あちらで少し、お待ちいただけますでしょうか?」


 どうやらこの町では高レベル冒険者へ依頼したいことが発生しているようです。この町は領都ではないので、領主に会ってくれというのではないでしょう。衛兵さんの一人が急いで門の中に戻っていきましたので、誰かを呼んでくるようです。


「何の用でしょうか?」


 シロの言葉遣いは丁寧ですが、わずかに怒気(どき)を含んでいる感じで迫力があります。


「あの、ぜひお会いいただきたい者がいるのですが……」


「マサト様が会いたい者でなければ、会う必要はありません。先を急ぎますので……」


 恐る恐るという感じの衛兵さんに対して、シロは取り付く島もありません。荷馬車を進めようとするペガに対して、衛兵さんはなんと身を挺して荷馬車の進行方向に体を入れてきました。


「邪魔ですわよ! マサト殿の馬車に対して、進行妨害をするのかしら?」


「い、いえ、そういうつもりではありませんが……」


 幼い少女であるペガの叱責にも、衛兵さんは怒ることなく丁寧な口調です。しかし、僕等の進行を妨害していると、『正当防衛』の黄色い文字が衛兵さんのステータスに表示されちゃいます……


「ちょっと待ちたまえ!」


 遠くから立派な格好をした騎士らしき人が小走りで近づいてきます。ここの責任者でしょうか?


「あれ、超高レベル冒険者ってどこだ?」


 やってきた騎士は僕等を見た後、こんなことを言ってますが…… まあ、まだ若い僕等を見ても、高レベル冒険者だとは思わないのも当然ですね。


 しかし、この偉そうな騎士さんはどこかで見たような……


「あ、あの、こちらの方がレベル85のシロ様、こちらがレベル76のクロ様です」


 あわてて衛兵さんがシロとクロの紹介を騎士さんにしています。偉そうな騎士とはいっても、超高レベル冒険者に失礼な態度を取るのは危険ですよね。


「こんな小娘がか?」


 衛兵さんの努力もむなしく、偉そうな騎士さんは相変わらず失礼な態度です……

それにしてもどこかでこの騎士様と会いましたでしょうか? 鑑定(1)!


【人 ガミサ クザワ 男 29歳 レベル30 騎士団 正当防衛】


 おおっ! 『正当防衛』が表示されています! もしかして、ハクエイ町近くの道で大量の大鬼と戦ってピンチになっているところを助けた騎士団の方ですね!


「あなた方がハクエイ町付近で大勢の大鬼と戦っていたところを、僕等が偶然通りかかって助けたことがありますね?」


「38話ニャ」


 またクロが訳のわからないことを言っているのは無視するとして、僕の言葉に騎士のクザワさんも僕等のことを思い出したようです。


「おお、そういえば…… ってまさか?」


 クザワさんの目が泳ぎます。きっと自身を鑑定して、そのステータスに『正当防衛』が表示されていることを認識したのでしょう。


「やるかニャ?」


 どうやらシロやクロもクザワさんとの最初の出会いを思い出したようです。こちらが助けてあげたのに、討伐した魔物の魔石を独り占めしようと圧力をかけてきたという、ろくでもない思い出です。シロの殺気が増大していますし、クロの『やるかニャ』の『やる』は、もちろん『殺る』と書くのでしょう……


「副団長!」


 後ろから別の騎士さんがやってきました。この人も見覚えがあります。たしか隊長さんでしたね。 鑑定(1)!


【人 タナー 男 34歳 レベル33 騎士団 正当防衛】


 この隊長のタナーさんは、魔石の代わりにもっと高価なダンジョン産の剣をクロにくれたのですが、それでもまだ『正当防衛』の表示は消えていません。


「超高レベル冒険者ってことですが、どこにおられますでしょうか、副団長? って、まさかこの方々でしょうか?」


 タナーさんも僕等のことを見て思いだしたようです。クザワさんと同じく目が泳ぎましたので、自身のステータスも確認したようです。


「そうだ! この方々がその冒険者だ。私は急用を思い出したので、説明は君に任せる。では!」


 クザワさんはタナーさんにそう言って逃げるように町の中心部に去って行きました。タナーさんは困惑した顔で立ち尽くしております……




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