異世界初任務
あー頭いってぇ・・
あの後調子に乗り、飲みすぎてしまったらしい。
ネレイドを家まで送り、自宅に帰ると、そのまま力尽きてベッドへ倒れこみ、爆睡した。
どうやらこの体は酒に弱いようだ。
(酒は好きだが弱いのは残念だ・・・)
そう思いつつ、仕事、もとい傭兵団の拠点へ向かう。
一応初出勤なんだけどな、二日酔いで行くとか、我ながら図太い。
着くとそこには屈強な男たちの他に、獣人族やネレイドと同じ魔族が、少数混ざっている。
中には下流貴族だが腕を磨こうと、ここで同じ釜の飯を食う奴だっている。
傭兵団なのだから、種族問わず、腕に自信のある奴が多いと聞いたが、その通りだ。
なによりここに集まる奴らは皆、目的がある。
先の俺のように、5年以上在籍し、功績をあげ、B級から冒険者を始めようとする者。
家族を養うため、金を稼ぐ者。
ただ腕を磨き、名を上げるためにいる者。
借金を返すために金を稼ぐ者。
奴隷か傭兵の道しかない者。
俺はこんなところで副隊長してたのかと思うと、身が震える。多分今の俺はできないだろう。早々に見切りをつけ、1年を乗り切らなければ・・・・
「国王より任務をお申し使った!皆心して就くように!」
朝っぱらから、副団長でドワーフ族のサーフィス・マケドニアが叫ぶ。
うっわ、出たよ。こっちが無事に1か月乗り切ろうと、思った矢先にこれだよ。
すでに傭兵団のメンツを見てビビってる俺は、胃が痛くなり始めた。
作戦会議が団長室で開かれる。もちろん、俺も加わって。
隣にはネレイドが座っていたが、俺を見るとニヤっと笑った。
(こいつ、俺が酒に弱いの知ってやがったな・・・)
団長が作戦概要を喋ってる間に
俺は人差し指でネレイドの脇腹を触れるように、突っついてやった。
「ひゃんっ・・!!?」
彼女のかわいい悲鳴が響き渡る。クックック・・・・重要なことを教えなかった罰だ。
「えっ、大丈」「大丈夫です!申し訳ありません!」
「・・・気分悪かったら、無理しないでね。で、今回の~」
ネレイドが横眼で俺にガンを飛ばしてきた。俺は無視して話を聞く。
「じゃあ、いつも通りだけど、油断しないように。決行は明日だ。」
作戦と言うのは「塩」の輸送護衛だ。ここアミューレ王国は平野部のど真ん中に
あり、海から遠く、塩が非常に貴重なものとなっている。
その代わり牧畜や酪農が盛んで、海が遠いこと以外は、かなり恵まれている土地だ。
食い物の露店も数多くあり、冒険者と商業ギルドの大きさは、大陸1位2位を争う。
だからこそ、「塩」の値段は乱高下が激しい。
この任務は重要で、月1か2で回ってくるようだ。
団長補佐兼秘書でエルフ族のティティスが、
「今回はいつものルートなのですが、そのルート付近でドラゴンの目撃例があります。」
と付け加えた。襲われた場合、どう攻撃するか、どう撃退するかの戦略を立てる。
「ヤヒロ、お前なら、どうする。」
団長が俺に聞いてくる。
うーん、ドラゴンとか、まず勝てないよな!この世界でもドラゴンに勝てたとか、歴史上の空説のようになってるし、逃げる以外ないわけで。
「俺なら、そうですね。陽動を使います。魔法を使える部隊を前に置き、常に詠唱が被らないよう気を付け、前方2列にして配置します。そうすれば、誰がどの魔法を出すかわかりますし、詠唱が長くなってしまう魔法の間に、繋ぎの魔法を撃てます。その間、本隊は逃げるか、隠れると。」
いきなり振られて困ったが、マスゲーが大好きな俺が知恵を絞った。
「うん、まぁ、正解だね。」
鉄板だったか。まぁいいや。
「いやね、またヤヒロが、俺が囮になります。なんて、言うかと思ったからさ、冷静に判断できて、いいと思うよ。ごめんね、急に振って。」
またって。前のヤヒロ君はなんかやったんか。
それに、俺はまだ魔術を使ってないな。鍛錬してたらしいし、どれくらいレベルアップしてるか楽しみだ。
その後ルートの確認、陽動部隊の護衛など、その日の午後まで話を煮詰めていった。
「じゃあ、明日、出発するから、皆よろしく。」
その後、団長室を出ると、ネレイドに頬をピシャッとはたかれた。
「恥かいた」
そう告げると彼女は遅めの昼食を取りに行き、俺もついていく。
昼食後、ネレイドに俺ってどんな魔法を使っていたのか聞いてみる。
「魔法?普通に派手なの使ってたわよ。火も水も。でも、そうねぇ、一番便利って
言ってたのは、属性付与かしら。」
「属性付与?」
「そう、例えば剣に火の属性をつけて、相手に火傷負わせたり、鍔迫り合いで相手の
剣をダメにしたり。」
「ほぉ、そりゃ便利だな。」
「でも一番使ってたのはウォーターナイフかしらね。」
「(水切りか、懐かしいな)あーあれね。木も切れるからな。」
「あんたの水魔術は練度が高くてね、野営するときはお世話になったわ。」
練度が高くない水魔術は、不純物が多く混ざったり、泥水になるらしい。
「今回も期待してくれ。俺の水でお前を一杯にさせてやるからな。」
「・・・・・その言い方ヤメて」
俺は自宅へ帰ると、「彼」が残してくれた必殺技手帳に目を通す。
必殺技と言っても、汎用性がある魔法を書いてくれてるだけだが、魔法を使えない世界では、それがどれだけ期待に夢が溢れることか。
―10分後
ダメだコレ、なんだ?
「火を消す水、火事の家を鎮火できます!」って・・
こういうのじゃなくてさ、もっとこう・・・・
「火の玉(大)、家を一瞬で燃やせます!」
いやいや、すごいけど!すごいけども!っつか放火して消火したんじゃねえだろうなぁ。
っていうか、ちょっと、えぇ、なんじゃこりゃ・・・・
多分この辺は、文明のレベルの差が出るんだろう。俺は、最後までしっかり目を通したが
使えそうなものは、全くない。4年分の期待をぶち壊されながら、これから頑張ろうと心に決めた。




