撤回
後ろで聞いてたネレイドが
「な、なんで?」と俺に言い寄ってくる。うーん、その表情もかわいい。
「まぁ、ネレイド、落ち着いて、ヤヒロの理由、ちゃんと聞こうよ。そこ座って、
ネレイドも。」
俺はソファに促され、正面に団長のジェリドとネレイドが腰を掛けた。
「で、なんで?」
「はい、実はもう一度人生やり直したくなって。」
ネレイドが何言ってんだお前と言わんばかりに、ガンを飛ばしてくる。ジェリドは何一つ表情を崩さない。
「そっか、それって、前から考えてたこと?辞めて、どうする?」
「わかりません。俺の故郷に戻って、木こりになるのもいいかなって思ってます。」
ネレイドが今度は悲しい顔をしている。
ジェリドがピクっと眉を上にあげた後
「ははっ、ほんとに、なんも決めてないんだね。」
ジェリドは軽く笑った後、こう続けた。
「なら、冒険者になればいい。」
俺がなぜ?と答えると、
「この傭兵団に、5年以上所属して、国が依頼してくる、魔獣を討伐すると、Bランクからスタートできるんだ。もちろん、冒険者ギルドの、審査はあるけど、俺が推薦しとくよ。悪い話じゃ、ないだろ?だから、あと1年、頑張ってみない?」
またこの人に言い含められそうだ。
でも、なんの伝手もないまま生きるのは、正直厳しい。ここは、素直に親切心を貰っておいた方がよさそうだ。
「わかりました。ありがとうございます。それならば、後1年厄介になります。」
「うん、いいよ。その間に、心変わりするかも、しれないからね。」
ジェリドはニコッと笑うと、今日はもう帰っていいよ、と言われ帰路につく。
そしてジェリドが病み上がりの護衛ということで、ネレイドが自宅まで付いてきてくれたのだが、
「・・・・・・・・・」
「急にあんなこと言ってごめんなさい。」
「・・・・・・・・」
そりゃそうだろう、ホントに急だったのだから。それに、副隊長であるのならば、隊長に一言相談するべきだ。
「仕事が終わったら、俺の部屋に来てください。俺の快気祝いに、メシ行きましょう。」
「飲めるわけあるかっ!!!!」
そう言うと走って帰ってしまった。
耳の奥でキーンと金属音がする。鼓膜が破れそうだ。そりゃ怒って当然だよな。
その夜
「あのさぁ!なんであたしに相談しないの!?私そんな頼りなかった?ゴメン!!!」
(結局飲むんじゃないか・・・)
飲み屋街にあるちょっと広目の大衆居酒屋で、ネレイドと飲んでいた。そして彼女の酒を飲む量が、ヤケ酒そのものだ。飲まないわけあるか!と一蹴された。
だが、そうしてしまったのは自分のせいだが。
「あたし、そんな頼りない?魔族だから信じれない?ねぇ!なんで!?」
これは俺も腹をくくるしかない。それに、この人には元々言うつもりでもいた。
俺の行動への鬱憤を出し切り、落ち着いてきたころに、俺は切り出した。
俺が異世界人だというとことを。前の世界で自暴自棄になって、生きるのをあきらめ、それでも、この体で生を送ることに決めたことを。
包み隠さず、すべて彼女に話した。
彼女はしばらく黙り込んだ後、口を開いた。
「・・・ヤヒロさ、私とあった時の事覚えてる?」
「残念ながら」
「・・・当時副隊長だったの、アタシ。でも隊長が怪我で引退してね。アタシが隊長になった
の。それで副隊長に抜擢されたのが、ヤヒロってわけ。見た目は女の子みたいなガキ、
変にどこか行き急ぐような奴だっけど、実力はあってね。若くて見込みがあるから、 団長の指示で、お前が育てろだってさ。」
テーブルに頬杖を突き、ネレイドは続ける。
どうせ、こんな奴甘やかされて育てられて、ちょっと他より力があるから、チヤホヤされて、この傭兵団に入ったんだろうって。でも、違った。厳しい訓練には着いてくるわ、
座学では誰よりも真面目。ただの真面目君だったけど、ある日事件が起こったの。」
「事件?」
「そう、事件。鍛錬中にね、模擬戦をやる事になったんだけど、部下の一人が私に負けて
ね。そしたら周りの連中が、魔族の女に負けるなんてみっともねえぞ、そもそも魔族に
負けるなんて、傭兵団の恥だ、とかね。」
「うん」
「たまに言われるのよね、そういうの。いつものことだと思って流してると、ヤヒロが隊
長の悪口言ったやつ全員表出ろ!!って、今まで見た事もない剣幕で怒ってね、言った
奴らは5人いて、取っ組み合いの喧嘩になっちゃったのよ。ヤヒロ含めて、6人全員ボ
ロッボロよ、フフ。今思い出してもあんな腫れあがった顔見たことないわ。」
「正義感の強いいい男じゃないか。」
「えぇ、本当に。聞こえない振りでもしとけばよかったのに。それでね、続きがあるの。
皆に止められて、抑えてけられて。でもその時彼が言ったの。
ネレイド隊長は訓練が終わった後も、おまえら一人一人に合った鍛錬の仕方を考えて、
討伐任務の時は、全員生き残るために、一人眠らないで戦略立ててるんだぞ!
それだけじゃない!魔族なのに先頭張って俺らのこと守ってるんだぞ!
それがお前たちにできるのかー!
って。あぁ、私の事こんなに見てくれてるのか、って思って初めて嬉し泣きしたわ。」
「良かったな、ちゃんと見ててくれて。」
「ええ。その後ヤヒロは謹慎処分で3日間営倉に入れられて出てきたけど、私に罵声を
浴びせた連中が謝るまで許さない!って言って、絶対に折れなかったわ。意外と頑固
なのよね。彼が出てきたその日に、あたしに罵声を浴びせてきた連中が、頭を下げに来
たわ。それ以来私の最高のパートナーよ・・・」
「わかってくれる人がいるだけで違うからな・・・・なんか、ごめん。先にネレイドに言うべきだった。」
「謝らないで、違う世界だけど、彼生きてるんでしょ?」
「ああ、多分心配ない。34歳のおっさんだけどな。」
「フフ、見てみたいけど。できないのよね?」
「うん、もう二度とない。」
「そっか・・・じゃ、これからよろしく。新人の副隊長さん」
「あぁ、よろしくな隊長」
二人はロックグラスを軽く合わせ、ティンと子気味のいい音を鳴らし後、酒を一気に煽った。




