4年ぶりの異世界
「ここが新しい根城かぁ。」
そう言って部屋を見回す。10畳ほどの部屋にベッドがあり、奥の廊下にトイレと
流しがある。多分キッチンだろう。風呂はないが、ものすごくシンプルだ。
ベッドに腰を掛け、わずかに残る記憶の残滓を呼び覚まさせる。といってもデジャブのように、その場面、その人に会ってふと呼び起こさせるものだ。
意識して思い出せるのは、この街のマップ程度のものだが、それでも今の俺には助かる。
記憶に集中する間に、何度もきれいな女性が出てくる。しかもその女性が出るたび、若干の恐怖という感情が湧きだす。ん?鎧を着ている?これは、怖い人というか、怖い上司的な人だな。
とりあえずこの街のことはわかった、今は傭兵団へ復帰して少しずつ情報集めていこう。
そう考え今日は休んだ。
「コンコン」
誰が来たようだ、俺はハイと返事をした後ドアを開ける。 とそこには
「あっ・・・あー・・・急に押しかけてすまない。退院したと聞いたが、もう大丈夫なのか?」
そこにはついさっき記憶の中で見た女性が、気まずそうに立っている、なるほど、記憶通り鼻筋が通っており、キリっとした赤色の目が特徴の美人だ。
「はっはい、とりあえず中どうぞ」
彼女を招き入れると、彼女のキリっとした表情の頬が赤く染まる。うーんかわいい。でも記憶が怖いと言っている。複雑な感情だ。
それに、そわそわして部屋を見回す彼女の態度。多分これ、独身男の部屋に入るの初めてっぽいな
「ごっ・・・ご飯は、食えるのか!?」と言いつつ彼女の手のバッグには食材であろう野菜やミルクの瓶が詰まっている。
心配してきてくれたのだろう。
「実は、まだ食べてないんです。ちょうどお腹が減って街に行こうかと思」
「よし分かった任せろ!」
俺の言葉に被せるように彼女は言ってそのままキッチンの方へスタスタと向かう。
これは、もしかしたら。
「フフ・・・・そんなに私の料理がうまいか?」
「はい、とっても」
野菜スープとミルク粥を作ってくれて、それを食い貪る俺を見つめる彼女は、ネレイドというらしい。デジャヴのように名前が出た。
そして俺が副隊長を務める隊の隊長であり、ビシバシしごかれた記憶がある。だから彼女の記憶と一緒に恐怖が湧くのであろう。
フフうまさん。
「急に退院するとかびっくりしたぞ、まぁ入院してたお前の顔色は、悪くなかったがな。」
そりゃ仮病ですからね。急に良くなったから退院したと言っても通じないだろう。
俺のためを思って行動してくれたのはありがたい。
こうやって考える時間ができる。
まぁ、退院して速攻女性が押し掛けるのは嫉妬してしまうけど。
「一昨日辺りから実は健康になってまして。多分過労かと。」
ミルク粥を頬張りながら、適当に考えて彼女の質問に返した。
「そうだなぁ、最近のお前は働きすぎてたように見える。部下からも休めって言われても、
聞く耳もってなかっただろ?」
へぇー、そうなんだ。こりゃ本気で過労で倒れたのかもしれないな。前の俺は。
明日の事について話そうかと思い、彼女に尋ねてみる。
「あの、ネレイドさん。」
「ふえっ!?」
・・・えっ?なんだその反応。しかも俺をガン見してくる。俺なんか言ったか?
「どうしたんすか?」と聞くと
「い、いや、今まで、ほら、お前に名前で呼ばれたこと無かったから・・・だから・・・モニョモニョ」
どんどん小さくなる声でそう言う。
ははーん、名前で呼ばれて赤面とか、こりゃ俺のこと好きなんだろうな。多分!
でも彼女が好きなのは「前の俺」であって、「今の俺」を好きかというと、違うだろう。
とりあえず飯食ったら帰ってもらおう。それ以上の事は、俺を知ってもらわないと。
そう素敵な勘違いをして自分に言い聞かせた。
そうでなくても、「今」の俺に幻滅してしまうかもしれない。別にいいけど。
「美味しかったです、ごちそうさまでした。」
「ん、お粗末さまだ。」
彼女が食器の後片付けまでしてくれた。その間俺は山羊のミルクをいただく。その彼女の後ろ姿で気づいた。
料理を作る彼女の後ろ姿には気づかなかったが、彼女の背中に小さな翼が生えていた。
魔族だった。
この世界の魔族は差別されている。このアミューレ王国を含む他の国々は、魔族に人権を持たせているが、反対派も多数ある。
祖母のメリルやクローネの彼氏が言うには、
この世界の歴史は魔族との戦争が絶えない。今だに魔族と戦っている国もあるのだ。
どちらかから仕掛けたとのは、もはや水掛け論である。なぜ戦うのかすら、本当の理由はわからないだろう。
その中で彼女は傭兵団の隊長になったのだ。好奇の目にさらされることもあった筈だ。
その腕には逆境を生き抜いたであろう、切り傷や、羽には少しケロイドになった火傷すらある。
強い女性だ。会って間もない「俺」は、心を惹かれた。美人だし
ネレイドに明日、傭兵団に顔を出すことを伝えると笑顔になり、朝迎えに来ようかとも言われた。
さすがにそこまではと断ったが、ちょっと惜しいことをしたな。
彼女を家まで送ると言うと、「病み上がりの病人はもう寝ろ」と一蹴された。
俺も明日の事を考え、緊張しながらも、異世界でどう生きようかワクワクしながら床に着いた。




