異世界初陣
姉のクローネがこっちを見ている。なぜ走ってるんだろうという目で。ついでに隣にセイルもいた。
この人はたった2年しか俺の記憶の中にないけど、弟想いの優しい人だ。
俺が夕方あたりに走って戻ってくると玄関の前で待ってくれている時がある。
心配性なのだろうと思ったが、その通りだった。
俺が成人の年が近づき、何かしなきゃなぁと思ってると、ゆっくり決めればいいよ、
それまで私が支えるからとまで言った。
いや、言わせてしまった。だから彼氏のセイルと結婚の話が出ないのだろう。俺が足かせになって。
それに、なにより今。クローネの右手がバスケットを掴んでいた。しかも昼時だ。多分俺の様子を見るのと、昼飯も持ってきたんだろう。
初バイトの弟が心配で。
こんな姉と、その好きな人を死なせるわけにはいかない。
俺は足を止めモンテウルフに向き直る。
奴との距離は50mくらいだろう、しかも4頭に増えていた。
姉の隣にいたセイルが叫ぶ
「なにしてんの!!」
「いいから行って!大丈夫!」
右手に魔力を込める。
(落ち着け、落ち着け、一番攻撃力が高そうなやつ・・・火はダメだ、周りが燃える)
フゥー・・・アレか
もうモンテウルフの集団が25m前まで迫っていた。
俺は右手を前に突き出し
「スプラッシュ!!」
と叫んだ。実際にはもっと違うイメージだ。
洗濯物の汚れが落ちる程度の威力じゃない、水で切れるように、水の出る射出口を狭く、薄く、
圧力をかけるように。そして強く!
その瞬間
ドン!
と少なくとも水の出るような音ではない効果音と共に、握りこぶし3個分の水の刃物が一直線に発射され、対象を左右に真っ二つにした。
真っ二つにされた両半身は、何が起こったかわからないというように目だけギョロギョロ動かしている。
その後ろを走っていたモンテウルフは間一髪避けられたがこれであと4匹だ。
俺はすかさず腰に付けていた護身用のナイフを構える。
俺に追い付いたモンテウルフが、斜め後ろに1匹、斜め前方に2匹になり、どこからでも攻撃出来るように、俺を囲んだ。
自分に焦るなと言い聞かせ、俺の背中に水で出来た壁を作る。後ろからの攻撃に対処するためだ。
あとは前の2匹だ。
俺は左手でさっきの『水切り』を撃てるようにし、右手でナイフを攻撃できるように構える。
これでカウンターの態勢は整った。
モンテウルフはグルグルと「今からお前を食うぞ」と言わんばかりに、喉鳴らしながら俺との距離をうかがう。
俺も時折右足で、踏み込むようにフェイントをしかける。その都度ビクつくモンテウルフが可愛らしい。
そして―
後ろに張ってた水の壁が崩された。
そしてわずかな時間差で後ろにいた、もう一匹が俺に噛みついてきた。背中に牙が食い込む、が―
俺は崩された壁の水を利用し、圧力を加えた。薄く、鋭く!
ブシュッ!
その水の壁は、一瞬だけ水の刃の切っ先に変わった。そして噛みついてきた2匹のモンテウルフは喉を切り裂かれ、断末魔を上げることなく事切れた。
「あと2匹・・・」
思わず声を上げて言ってしまう。
目の前の二匹は、今度は距離を取り始める。
今度は俺が追いつめる番だ。よくも俺の初バイトを台無しにしてくれたなクソ野郎。
右側のモンテウルフが後ずさる瞬間、石につまずく。
(今!)
右手に持ってるナイフ投げると、飛び上がるように避ける。
当然だろう、今から捕食する予定であったろう獲物が、あんなに強く、そして何かを投げたのだ。ビックリしたのかもしれない。
そのかわす動作の間に『水切り』を当てる。
―ボトッ
モンテウルフの首に当たった水切りは容赦なく、その首を跳ね飛ばした。
よし、あと1匹。
もう少しだ、頑張れ俺!
その1匹は、目の前に迫ってきていた。予想はしていた、来るだろうと。
しかし
(間に合わない・・・!)
俺は首と頭を守るために両腕を前に出す。
そして、左腕に牙が入っていく。
左腕はあきらめようか、それならば。
―牙は腕の皮膚を切り裂いたところで止まった。
(・・・?)
―ガイだった。ガイが鉈で心臓を一突きしている。
よかった、なんとか生きてる。
ホッとした瞬間背中に激痛が走る。寒気もする。
どうやら、最初の一撃で背中の肉を深く抉られたらしい。身体が濡れてるのは、水だろうと思っていたが、自分の血だった。
(こ、これあかんやつぅぅブクブク)
そう思った瞬間気を失い、泡を吹いた。目が覚めたのはその日の夜だった。
街に担ぎ込案れた俺は、すぐ治癒魔術師に見てもらい、
「あーこりゃエグいねぇ」
と言いつつ術を施すと一発で治ったらしい
やはり治癒魔術師はすごい。
そして目を覚ますと母と姉には泣かれ、祖母のメリルはニコニコしながらワインを飲んでいた。
後日、俺は水切りの木こりとしてバイト戦士になるのは別のお話




