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黒の部屋  作者: なつきまる。
黒の部屋
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72

 映像は、そこで途切れていた。



「美香は? 美香は、今どこにいるんだよ」


「一応、連れてきたさ。今頃、二○四号室……自室で寝てるだろうね」



 それなら少し安心した。



「晶は?」


「泣きながら出て行った。単車のキーを持って、な」



 暴走行為してんのか、あいつ。……頼む。絶対助けてやるから、我慢してくれ。



「こっちの映像も見せろよ。何撮ってんだ?」


「あー、ダメダメ。何にも映らなかったぜ」


「でもまだ録画されてるぞ。ここ光ってる。お前、さっきまで寝てただろ? 映ってるかもしんねーぞ」



 たしかに、ちなっちゃんの言うとおりだ。寝ている時、クローゼットの方で何かが映っている可能性がある。早速優太は一旦停止し、ビデオカメラから電波を飛ばしてテレビに規格を合わせた。


 映像が流れ始める。



「それにしてもお前、ここのお札全部剥がしたのか。思い切った事するよな。普通、何があってもそんな事やらねーぞ」



 ……え。失敗したから大丈夫なんじゃ……



「普通に考えたら自殺行為だぞ。しかも、ゴミ袋に! ったく、大したタマだよお前。お前がその気なら、私の相棒として手を組んでやってもいいけど、どうする?」


「お断りします」


「あ、そ」


「前のちなっちゃんだったら、喜んでついていってたと思うんだけどな」


「……」


「一体何が起こったんだよ? 記憶喪失か?」



 伏し目になった彼女。喋る気配はなかった。まるで自分のどこがいけないのか分かっていない様子だ。


 記憶喪失になった上、身体が小さくなる装置があって、起爆ボタンがあるのならば優太は全力で連打しているだろう。もう一度人生をやり直したいと思っているだろう。小学生くらいにまで今の時代で遡りたいと願っているだろう。そんな装置があるわけがないのだが。


 それからしばらく、お札を剥がすだけの動画になる。



「そういや、お札って二種類あるんだよな」



 ようやく喋ったと思ったら、独り言らしい。放っておこう。


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