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『ったく、何なんだよ、これ! 臭ぇんだよ』
軽い音と共にガラス戸を開け、固く閉ざされた雨戸を開けようと試みている。鍵が掛っているのかと確認したようだが、どうやらそうでもないらしい。錆びて動かないようだ。身体の角度をずらして、全体重を乗せ、少しずつ、ほんの少しずつ地道に開いていく様子が映っていた。その映像には、少しずつ開いていく度に、床に落ちている人の足のようなもの、胴体のようなものが、それぞれブクブクに膨れ上がった形で横たわっている事も証明された。この服装には、どこか見覚えがある。これは、たしか晶の親父さんが好んで着ていたチェック柄の服のはず。
『テメェが原因かよクソが』
その声も、正気を保っていない。先ほどの音は、ガスが溜まっていた腹部が破裂した音だったのだろう。腐った身体がどんどん、しぼんでいく。
その一か所、全ての雨戸を開けきったところで、あり得ない光景が目に入ってきた。
『な……なんだ、これ』
凄まじい数のミイラ。腕がなかったり、足がなかったり。どれもこれもが、全部五体満足ではない。この台所に、何体あるのだろうか。数えるのも面倒なほど埋め尽くされている。
別の部屋に行く際、足元に気をつけながらスマホの光を照らして廊下を渡っていく。どうやらもう、この部屋から脱出するらしい。過呼吸を起こしている。
さっき開けた所から出て行くのは厳しいだろう。彼女の背的に、胸の辺りまで草が生えていた。まむしとかいう毒ヘビとかいるので、幽霊とかじゃなく現実的に怖い。部屋の中を通った方が安全かもしれない。さすがはプロだ。この判断は正しいだろう。しかしこれは普通の人だったら、の場合だ。彼女の場合は飛べる。自分で忘れてしまうほどパニックになっていたらしい。
何が落ちているか全く分からない廃屋。全部真っ暗だ。素早く廊下を渡っていくと、何かに手の甲が触れた。
『――?』
赤い物が落ちている。徐々にスマホを掲げていくと、それはどうやら人の形をした何かだった。しかし、片腕がない。顔はぐしゃぐしゃになり、周囲にスマホの光を向けると肉片なども見受けられる。これは、まさか。
『陸斗……! くそっ!』
頭はもう、原形を留めていなかった。色んな部位が曲がってはいけない方向に曲がっていたりして、思わず視線を外してしまう。
「りっくんさん……」
あんなにいい人だったのに。優太たちがあの部屋に行かなければ、こんな事にはならなかったのに。
何とも複雑な気持ちで出て行こうとした瞬間、突然玄関のドアが開いた。光だ。
『――えっ』
このシルエットは見間違える事はない。美香が優太の性格を知り尽くしてるように、優太も美香の身体のシルエットは見間違える事はない。
『美香、どうしてお前が、ここに?』
口調は優太とそっくりだが、声は違う。美香は、ただただ笑っていた。不気味なほど無口に。




