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今まで誰もその事に気付かなかった。ただ、気味の悪い声だな、と。ただそれだけだ。
晶が逆再生アプリをりっくんのスマホに投下する。そして、逆再生の逆再生、通称通常再生がスタート。彼のスマホから届いてきた声は、誰もが聞き慣れた言語だった。
『あそぼう!』『なでなでして』『ぼくをひとりにしないで』
声が聞こえる。録音された声は、男の子の声だった。おそらくは人形だろう。何度かその言葉を発している。
「お、おい、この動画……ヤバくないか? どこだよ、ここ」
彼も、あの座敷の光景を見ているのだろうか。
「水場はヤバいって。オレもう見ない。もう見ないから、エンガチョ! エンガチョ!」
「何子供みたいな事やってるんですか、りっくんさん。今時エンガチョなんて流行らないですよ」
身体の前で、腕をバッテンにし滝のように汗を垂らして、ぶんぶんと顔を左右に振る。
……この人、本当にプロなのだろうか。顔がもう、本当にビビリまくって原形を留めていない。
「エンガチョ!」
「えんがちょー!」
続いて晶も、そしてそれを見ていた美香も続けて腕をクロスさせた。何やってんだ、こいつら。いい年こいて。
「ほら、優太くんも! エンガチョ!」
「何でそんな悪の秘密結社みたいなノリでやらなきゃいけないんですか!」
「ごめんなさい、りっくんさん。優太さんは、エンガチョの意味知らないんです」
いや知ってるよ。う○こ踏んだ奴に近寄られないようにする合言葉だ。
「説明しよう! エンガチョとは――」
「武器やメカを紹介するフレーズみたいに言われても……」
「やった方が無難ですよ、優太さん。どうしてこれを子供の頃に教えられたか……本当の理由を御存じですか?」
「……いや」
本当の、理由? って、このプロ二人から真面目な眼差しを向けられると、どうも緊張してしまう。近くにあった霊術学の教科書をめくり、まっすぐこちらを見つめて彼女は言う。
「エンガチョは、エンがチョンの略です。エンというのは穢れであったりするための縁で、触れてはならない物です。チョンは、擬音です。チョンと切るような感じの、チョン。……とウィキペディアに書いてありました」
「教科書の意味!」
結局、晶は丸暗記している。高校時代の懐かしき教科書など目もくれてない。




