25
「ちなみに教科書にはこう書いてあります」
「晶お前、人の渾身のツッコミは無視か」
「『エンガチョは「糞便を踏んでしまう」「トイレの便器に触れてしまう」など、誰かが不浄なものに触れた瞬間を第三者に目撃された段階が起点となる』とあります」
「おい教科書! それでいいのか!」
どっちもどっちだが、ウィキの方が頭良さそうに思える。本当に、それでいいのだろうか。
しかし惜しい。優太的にはなかなか面白いネタだったのだが、まるで覚えていない。当時の優太は居眠りでもしていたようだ。
「ところで、これって、何で子供の頃に教えられたんだよ?」
「歴史を振り返ると、ものすごく長くなるので簡潔に申し上げると、悪霊を払う事が目的だったのですよ。閑話休題しましょう。私たちは、水場など見ましたか?」
ハッと思い出し、晶の話に合わせる。
「いや、見てない」
「ですよね。もしかしたら、私たちが見逃したものがあるのかもしれません」
そしてりっくんを挟むように、優太たちは再度画面を見つめる。
「「……」」
りっくんの見ていた例の水場動画というものを見てみたのだが、そうでもない。りっくんだけが、何かトラウマを抱えているのだろうか。薄目で、チラッと見ては視線を外し、チラッと見ては視線を外しを繰り返している。
とても暗い場所だ。広い空間のようだが、狭くも感じる。部屋だと考えると広いが、公共の場と考えると狭い。そこに、なみなみと水はあった。水嵩的には、胸くらいまでだろうか。
そして、砂嵐の画面になる。今にもホワイトノイズが聞こえてきそうだが、音はない。
電源を落とし、晶はため息をひとつ。
「喉が渇きましたね。水、飲みます?」
彼女の部屋には三種の神器しかない。テレビ、冷蔵庫、洗濯機。何とも殺風景だが、これから増えていくのだろう。冷蔵庫からポット型の浄水機を取り出して、水が足りない事に気が付いた。もちろん彼女も一人暮らしなので、一人分の水しか残ってない。
蛇口にも浄水器。このアパートは貯水タンク式なので、浄水器は必須アイテムだ。
「あれ?」
晶は、思わず小首を傾げた。浄水器から水が出てこない。
「どうした?」
妙な味がする水だな、と、がぶがぶ飲みつつ、晶の隣に立った。いくらハンドルを捻っても水が出てこない。
浄水器から、シンクに独特な薄い金属音を立てて滴るだけ。こんなので待ってたら日が暮れる。というか日付が変わる。
「あー、なるほどな。たぶん、ここだ」
浄水器を分解して、優太は小さな悲鳴を上げた。血相を変えて二、三歩後ろに下がるのを、晶は不思議そうな顔をして見上げている。
真っ黒な髪の毛だ。浄水器のタンクのフィルターに、水に濡れたおぞましき物がぎっしりと詰まっている。




