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眉間にシワ令嬢の婚約破棄までの72時間――策士王子に搦め捕られるまで  作者: 滝里シエル


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7/8

7 0時間(中編)

 私の言葉にアルベール様が一瞬目を丸くした後、嘲笑した。


「はぁ? 何を言ってるんだ! そんなことできるわけないだろ? はっはっはっ」

 

「いいえ、婚約破棄していただきます。私はもう、あなたの身勝手さに振り回されるのは、ごめんですわ!」


 私が言い放つと、アルベール様は不快そうに顔を歪める。


「身勝手……? そんなことしてないだろ!」

 アルベール様が、少し声を荒げた。


「自分の都合の良い時だけ、“婚約者として当然”などとおっしゃっていましたが、それで婚約者としての役目を果たしていたとお思いですか? 普段あれだけ義妹を優先しておいて、まだ私があなたを必要としていると思っているのなら、おめでたい頭ですわね!」


「君が必要とか、そんな話ではないだろ! ヨーク家とクラヴィス家で決まった縁談だ。君が我儘言える立場ではないぞ!」


 そんな時だけ、常識的なことを言ってくるとは笑わせる。

 たしかに、私だけの我儘では、婚約破棄は無理だろう。しかし、彼には長い間精神的苦痛を与えられたのだ。きっと父も分かってくれるはずだ。


「私の我儘ではありませんわ。私の誕生日の贈り物にはカトリーヌ様の好きな物。私との茶会では彼女が心配だと遅刻し、途中で帰っていく。自分の瞳と同じ色の宝石は彼女にプレゼントする。極めつけは、私が嫁いだら、カトリーヌ様のお世話をしろとおっしゃる。そうやって、散々私を蔑ろにしてきたのですよ? 当然の結果ですわ!」



 私の言葉を聞いていた生徒たちは、ヒソヒソと話始める。


「今の聞きまして? 婚約者に対して、あまりにもひどい扱いですわ、お可哀想……」

「妹のお世話ですって」

「それじゃ婚約破棄も当然ですわね」

「え? カトリーヌ様って妹? 重度のシスコンなのか?」



 そんな言葉が耳に入り、アルベール様は顔を真っ赤にして震えだした。


「婚約破棄など、俺は許さないぞ! ローゼ! お前はヨーク家に嫁ぎ、カトリーヌの世話係として働くんだ!!」


 アルベール様は逆上し怒声を上げると、私の腕を掴んだ。その時――。


 

「――その汚い手を放してくれないかな? アルベール」



 騒然とした会場に、どこか楽しげで柔らかな声が響く。


 けれど、浮かべた笑みの奥にある瞳は、ぞっとするほど冷ややかだった。

 コツコツと靴音が近づいてくる。


(ライアス殿下――!)



「ローゼ嬢を傷つけるのは、許さないよ? しかも君は赤の他人じゃないか。彼女から離れなよ」


 殿下は笑顔のまま、鋭い眼光でアルベール様を射抜く。


「え……? いえ……ライアス殿下。彼女は私の婚約者でございます」


 アルベール様の言葉に、殿下は眉を吊り上げる。


「ん? 違うだろ? 君と彼女の婚約は正式に破棄されたのだからさ」


 殿下は一枚の用紙をこちらに見せる。

 それは――。



「これは婚約破棄の合意書だ。既に、ヨーク公爵とクラヴィス侯爵の署名が入っている。この私、シルフェード王国第二王子、ライアス・エスト・ヴァール・シルフェードが立会人を務めさせてもらったよ」


(え……!? そんなこと、いつの間に!?)


 私が驚いて殿下の顔を見るが、微笑みを返されるだけだった。

 

「え……、な……っ」

 アルベール様も言葉が出ない様子で呆然としている。



 殿下は真っ直ぐとこちらを向いて、慈しむような笑みを浮かべた。


「ローゼ嬢、よく頑張ったな。……卒業おめでとう」


 過去の全ての苦しみを包み込むような殿下の表情に、私の目頭が熱くなった。

 涙が溢れそうになったので必死に眉間に力を入れると、殿下は可笑しそうに笑う。


「……ふっ、我慢することないのに、本当、可愛いなぁ」

  

「殿下は、こんな時まで、ご冗談を……っ」

 喋ると気持ちが緩んできてしまい、涙声になった。



「ちょ、ちょっと待て! 俺は認めないぞ!! ローゼ! どういうことだ!?」


 こちらに飛びかかりそうな勢いで問い詰めてくるアルベール様から庇うように、ライアス殿下は立ち塞がる。


「ちょっと君、そんな乱暴なことしてはモテないよ? まぁ、婚約者を放置し、世話係要員としか思わないようなモラハラシスコンな君は、元からモテるわけはなかったかな?」


 殿下は輝くような笑顔をアルベール様に向ける。

 固唾を飲んで見守っていた生徒たちも、殿下の言葉に笑いを堪えていた。


「……っ」

 アルベール様は悔しそうに俯き、拳を握っている。その手は震えていた。


(……ちょっと可哀想だったかしら……?)


 愛は無くても、三年間、婚約者だった人だ。情のようなものはある。


 彼も私と別れて、本当に好きな人と結ばれることになればいいなと思う。ただ、戸籍上の兄妹では、結婚は難しいかもしれないけれど。


「……アルベール様も好きな方と、……カトリーヌ様と幸せになってください」


 私が声を掛けると、アルベール様が弾かれたように顔を上げた。


「……ローゼ……」


 アルベール様が泣き出しそうに顔を歪めた、その時――。



「えぇ!? 冗談じゃないですわ〜!」



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