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眉間にシワ令嬢の婚約破棄までの72時間――策士王子に搦め捕られるまで  作者: 滝里シエル


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6/8

6 0時間(前編)

 ライトブラウンに、赤い薔薇の刺繍をたっぷりと施したドレスを身に纏う。長いボルドー色の髪は結い上げた。


 アルベール様とは色合わせの相談ができなかったので、彼の茶色の髪に合わせて仕立てたドレスだ。

 


 昨日は結局、アルベール様からはネックレスを渡してもらえなかった。


(今日、持ってきてくれるのかしら……?)

 首には何も付けず、彼が来るのを待つ。 


 

 ――壁の時計に視線を送る。

 そろそろ屋敷を出ないと間に合わなくなるのに、まだアルベール様が来たという報告は受けていない。


 私は部屋の窓から外を覗くが、まだ馬車は到着していなかった。


「アルベール様、遅いですわね……」

 


 カチ……、コチ……。時計の振り子の音が響く。


 私は忙しなく部屋の中を歩き回っていた。何度も窓の外を確認する。

 メイドに外を見てきてもらったが、馬車が来るような気配はなかったという。


「アルベール様、どうしたのかしら? もう、間に合わないですわよ……? 何かあった……?」


(出かけましょう。途中で会えるかもしれないわ……)


 私は不安に駆られつつ、とりあえず一人で学園に向かうことにした。


 

 結局、アルベール様に会えないまま、学園に到着した。

 夕焼けに染まるロータリーで、馬車を降りる。

 

 卒業パーティーが始まっている時間のせいか、生徒は誰一人としていなかった。


 スカートの裾を持ち上げ、会場へ急ぐ。

 会場の中からは、音楽の華やかな演奏が漏れ聞こえてくる。

 扉を開けると、すでに会場内ではダンスが始まっていて、生徒たちが楽しそうにワルツを踊っていた。


(もうダンスが始まっていますのね……)


 次の瞬間、目に飛び込んできた光景に、私の息が止まりそうになる。


 そこには、私を迎えに来るはずだったアルベール様が、なぜかカトリーヌ様と楽しげにワルツを踊っている姿があった。


「…………え……?」 


(どうして二人が踊っているんですの……?)


 スッと全身が冷えていくのがわかる。

 アルベール様は婚約者の私を放置して、カトリーヌ様をエスコートしたということか。


 ツカツカと靴音を立てながら、私は二人に近づいた。


「ごきげんよう、アルベール様、カトリーヌ様。ふふっ、楽しそうですわね」


 私は笑顔で二人に挨拶をする。


「あぁ、ローゼ。やっと来たのか。遅かったな」


(は……、やっと来たですってぇ!?)

 怒りが込み上げてくるのを、ぐっと我慢する。


「アルベール様、迎えに来てくださると約束しましたよね?」


「あぁ、そうだったな。でも仕方ないだろ、カトリーヌを一人で来させるわけにはいかない。彼女は病弱なんだぞ、君は健康じゃないか」


 全く悪びれる様子もないアルベール様。さも当たり前のように義妹を優先する。


「でしたら、連絡の一つも寄越してくださいませ」

「どうせ君も来るのだし、必要ないだろう?」


 私たちの様子を黙って見つめているカトリーヌ様に視線を送ると、彼女の胸元に見覚えのあるものが輝いていた。

 昨日、アルベール様が購入していた、トパーズのネックレスだった。


「……これ……」

 私がそれを見て呟くと、カトリーヌ様が照れたように自身の首元に触れた。


「……あ、これはお義兄様が、プレゼントしてくださったんですわ。……実は昨日、少し喧嘩しまして、仲直りの印にと」

「カトリーヌ、すまなかったな」

「いいえ、私も悪かったのですわ」


 二人は照れくさそうに見つめ合っている、――私の目の前で。



 ――その時、私の中で何かが切れる音がした。

 それは、幾重にも絡まった呪縛という鎖の切れる音だ。


 今まで、いったい何を我慢してきたのか。そして、これからも、我慢する必要があるのか。眉間にシワを寄せてまで。


(……こんな人たちのために、この私が……)


「……ふっ、ふふふっ、……最高の門出ですわ、ふふっ」


 私の口から笑いが漏れると、アルベール様が眉をひそめた。

「……ローゼ?」


 私はスッと背筋を伸ばし、アルベール様を見据える。

 そして、大きく息を吸い、告げた。



「アルベール様、婚約破棄いたしましょう」

 

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