↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眉間にシワ令嬢の婚約破棄までの72時間――策士王子に搦め捕られるまで  作者: 滝里シエル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/8

5 24時間前

 本日は珍しくアルベール様に誘われて、宝飾店を訪れている。


 学園から帰ろうとした時、アルベール様が私に声をかけてきたのだ。今日はカトリーヌ様と一緒ではなかった。


 突然どうしたのかと尋ねると、『婚約者なんだから、当然だろう』と返された。


(……散々婚約者より、義妹を優先していたくせに)


 疑問に思いつつも、私はアルベール様の誘いを受け入れることにしたのだった。


 

 アルベール様はどこか落ち着きない様子で、店内を見回す。


「……すまないが、君はここで待っていてくれ」

「はい、わかりましたわ」


 私は彼に言われたとおり、店内の椅子に座って待つことにした。


 アルベール様はショーケースを覗き込み、店主と真剣に話している。


 アルベール様が指差し、店主が取り出したアクセサリーがチラリと見えた。

 彼の瞳の色と同じ、茶色のトパーズが揺れるネックレスだった。


 そういえば、卒業パーティーでは、パートナーから瞳の色の宝石を贈られるのが恒例だった。


(もしかして、一応、婚約者として形式だけでもする気になったのかしら?)


 今更、そんなことされても落ち着かないが、それでも、もしアルベール様が態度を改めるというなら、私も婚約者として振る舞わなくてはならないだろう。



 アルベール様が紙袋を抱え、こちらに戻ってくる。


「ローゼ、待たせたな。行こう」

「はい」


 私は彼が持っている紙袋に視線を送るが、アルベール様はそのまま先に歩いていく。


(帰りに贈ってくれるのかしら?)

 私はその後を追いかけた。



 私たちは宝飾店の近くの喫茶室に入る。

 そういえば、こうやって二人でお茶をするのは久しぶりだった。

 カトリーヌ様が入学してからは、一緒に帰ることすらなくなったのだから。


 店員が運んできた琥珀色の紅茶に口をつける。いつもの慣れ親しんだ味だ。


(……あのシルフィグリーンは、本当に美味しかったですわ……)


 昨日、殿下からご馳走になった紅茶の味を思い出していると、アルベール様が口を開いた。


「……ローゼ、今日は、突然すまなかったな」

 彼には珍しく、恐縮したような態度をしている。


「いいえ、大丈夫ですわ。ですが、カトリーヌ様と過ごさないでよろしいのですか? 私とお茶などして、彼女が寂しがっているのではなくて?」


 少し嫌味まじりに言うと、アルベール様は苦笑する。


「あ……あぁ、まぁ、……そうだな」


 彼は歯切れ悪く答えながら、髪をかき上げる。そして、押し黙ってしまった。


(……? どうしたのかしら?)

 私はそれ以上は踏み込まず、再びカップに口をつけた。


 私たちは向かい合い、ただ黙々と紅茶を飲んでいる。


 ……会話がない。

 私たちは今までどんな会話をしていたのか。


(……たしか、アルベール様がいつもカトリーヌ様の話をなさっていて、それを聞いていたのだったわ)


 私たちの間には、カトリーヌ様の話でもしないと、会話が成り立たないのか。


 ライアス殿下とは、アルベール様への愚痴の他にも、学園での出来事、シルフェード王国のことなど、色々とお話をした。


(……殿下との会話は、楽しいですのに……)


 そんな考えがよぎり、私は首を振る。

 婚約者がいる身で、他の男性のことを思い浮かべるなんて。


 でも、会話もない婚約者と、この先もずっと共にしていかないとならないと思うと、心の奥底に重いモヤモヤした感情が湧き上がってくる。 

 

『君さえよければ、シルフェードで、この伝統刺繍を学んでみないかい?』


(……でも、全てを捨てて隣国へ行くなんて、私にはやっぱり無理ですわ。……夢は“夢”だから、眩しいのですわね……きっと)


 昨日の殿下の言葉を反芻しながら、私は夕暮れ時の街の雑踏を見つめていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。